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11話 カイリの素性

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 小さなアパートの一室で、冷静そうに見えて、少しも冷静ではないフユメの母と、ゆったりと大らかに微笑むカイリが向かい合って座っていた。

 カイリの大柄な体格は、言うまでもないが… 
 アルファとしての能力、存在自体が、あまりにも強く大きいため、朝日家の部屋がやたらと狭く窮屈きゅうくつな印象になった。


「つまり神田さんは、うちのフユメと交際したいと言うのね?」
 フユメの母は眉間にシワを寄せて、カイリにもう一度確認した。

「はい、結婚を前提にお付き合いさせて下さい」

「はぁっ?! ぐふっ…!!」

 驚き過ぎて、フユメは変な声を出してしまい… カイリと母は同時にフユメの顔を見た。


「フユメ?」
 心配そうにカイリに名前を呼ばれて…

「あ… あの、話の邪魔をして… ごめんなさい! カイリさんが僕と結婚を考えていたなんて、思わなかったから…」
 もじもじと赤い顔で、膝の上で組み合わせた指を、忙しなく動かしながら告白するフユメに…

「私たちが使ったマッチングアプリは、元々アルファとオメガを結婚させて、出生率を上げるためのものだよ? 私は初めから結婚相手を探したくて登録したのだが?」

「ええ?! そうだったのですか?!」
 ぱっ… とフユメは、カイリの顔を見あげると…

「フユメ… 君は私のことをどんな人間だと、思っていたのかな? 君をもてあそぶために、昨日は君と会ったと思っていたりしないよね?」
 ニッコリ笑ったカイリの、すっきりした瞳はすごく怒っていた。

「ご… ごめんなさい、カイリさん! 本当にごめんなさい!」
<そう、思っていましたカイリさん!! というか、カイリさんほど素敵な人なら、そうなっても恨まないぞと… 覚悟していたというか…!>

 慌てて頭を下げて謝るが… うつむいたまま、ニヤニヤとフユメは嬉しくて笑ってしまう。
<うわぁぁ嬉しい! カイリさんが僕と結婚を前提にお付き合いだって?!!>


「フユメがそう誤解をしても、仕方ないと思いますが? ホテルで待ち合わせをして、そのまま一晩2人で泊まったのですから」
 母がフユメをフォローするため… と、いうよりも、詰問口調で口を開いた。

 最期の方は明らかにカイリを責める感じで…
 フユメは母の言葉に思わず、耳まで真っ赤になり、顔を伏せたまま上げられなくなる。


「おっしゃる通りですが… ホテルで会ったのは予防措置としてです、相性の良いオメガとアルファが対面した場合… 即、発情してしまう場合があるという話は、アプリの運営会社のサイトで警告していましたから… ですが、それがわかっていても… 例え危険を犯してでも、一番相性の良い相手と会ってみたいと思うのは、当然ではありませんか?」

「母さん、僕は一番マッチした人が、カイリさんだったから、僕から先に会う約束をしたんだよ?」
 慌ててフユメは、カイリの話に自分の言葉で補足を加えた。

「ですが神田さん、アナタならアプリなど使わなくても、いくらでも相手を見つけられるのではありませんか?」
 母はチラリと、神田に渡された名刺を見下ろしてからたずねた。

 キャリアウーマンとして、バリバリ働いて来たフユメの母は、"神田カイリ"の名刺を見ただけで、カイリの素性をすぐに理解したらしい。


「神田さんは確か、ご自分で立ち上げられた会社を経営していて、その会社の業績も極めて順調だと…」

「ええ、よくご存じですね… まだまだ小さくて無名に近い社名なのに?!」

「以前、ビジネス誌でのインタビュー記事を拝見させて頂いたことがあります… 確か30歳以下の将来有望な、若手経営者を集めた企画だったと思いますが…」

「ああ、あれですか… 実家の神田系列の出版社が、その企画のための頭数がそろわず、私にも声がかかり、渋々参加した覚えがあります」
 苦笑いを浮かべたカイリは、そっぽを向いて首をポリポリと指でかいた。

「それに、ご実家は有名なアルファを何人も輩出している名家で… 神田グループと言えば、フユメも聞いたことがある名前ではないかしら?」

「神田グループって? ピンッと来ないけど?」
 母にジッと見つめられ、確認されるが… フユメは母の問いかけに首をひねって見せた。

「うちの冷蔵庫の食料はスーパー神田屋で買ったし、神田ホームセンターでアナタの勉強机を買って… アナタが今着ているスーツを選んだのも、紳士服の神田屋でしょ?」

「その神田―――っ?!!」
 甲高い声でフユメは前のめりになって、母に聞き返した。

「そうよ、その神田よ!」
 母は腕組みをして、フユメにやっとわかったのか? と呆れた様子だ。

「・・・っ?!」
<カイリさんがそこまで、僕とは格が違う家の人だとは…?!!>

 フユメがカイリを見あげると… カイリはさっと視線をそらして、またポリポリと指で首をかいた。


「私は次男だから、跡取りでも無いしね… だからフユメ、そんなに驚くことではないよ?」


 さらりとカイリは言うが…

 実際には神田系列の会社の役員名簿に、カイリはいくつも名前を連ねていた。







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