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8話 アレールセ子爵タリオ
領地が隣同士ということもあり… 代々アルボル伯爵家とアレールセ子爵家は、おたがい家族ぐるみの、親しい付き合いをしていた。
その縁でアレールセ子爵タリオは、亡くなった子爵夫人(オルテンシアの従姉)と結婚したのだ。
ラーマと手をつないで、墓地の奥まで進むと… 子爵夫人の真新しい墓石の前に、すらりと背が高いアレールセ子爵タリオの、寂しげな背中が見えた。
「あっ…!」
タリオ様だ… お邪魔したら悪いなぁ…? でも、ラーマも一緒にいるし… どうしよう…?!
…と、オルテンシアが迷っていると…
「おとうしゃまだぁ! おとうしゃまぁ―――っ!!」
かん高い声でラーマがさけび声をあげて、オルテンシアの手を放し父親に向かって駆け出した。
「ふふふっ… ラーマったら…! あの元気には負ける…」
ラーマはタリオの長い足にギュウ~ッ… としがみつく。
寂しげだったタリオの顔は、甘える息子の顔を見ると満面の笑みに変わり、ラーマを抱きあげた。
「なんだ! ラーマもお母様に会いに来たのか?」
「おとうしゃまぁ… しゅごく大きな赤いの、見っけたよ? オルてんちぁと、 ジャムぅ~ ちゅくりゅぅ~!」
「はははっ…! 何を見つけたって?!」
「大きな赤いの~!! ジャムぅ~ ジャムぅ~!」
親子のお話しタイムを邪魔をしないよう、オルテンシアは静かに墓の前でひざまずき、墓石の前に供えられた一輪の赤いバラの隣に、コスモスの花をそっと置く。
オルテンシアは瞳を閉じ… 亡くなった従姉、アレールセ子爵夫人に許しを願い求める。
「・・・・・・」
僕のわがままを許して下さい… クラベールお姉様! 裏切り者で恥知らずの尻軽シプレスに、罰をあたえてやりたいのです!! そして僕が両親から受け継ぐべきモノを、取り返したいのです!!
少しの間だけ目をつぶって、見ないふりをして下さい! どうか、お願いします! 僕の復讐を手伝って下さい!
長い間、オルテンシアは従姉のクラベールに祈り続けていると… トンッ… トンッ… とふいに、大きな手で肩をたたかれ、顔を上げた。
「大丈夫だよオルテンシア… きっとクラベールも、助けてくれるはずだ!」
片手にラーマを抱いたまま、タリオは切れ長の瞳をなごませ、端正な顔でオルテンシアに微笑みかけた。
「/////////」
オルテンシアは思わず… あまりにもタリオの微笑みが美しすぎて、頬をうっすらと染めて見惚れてしまう。
「オルテンシア?」
「あっ… はい!」
ごめんなさいクラベールお姉様! あなたの愛する旦那様に見惚れてしまいました! 本当にごめんなさい! タリオ様ってば… 大人の艶が… もう、色気がダダもれすぎて……
あわてて膝に着いた汚れを払いながら、タリオの隣に立ち… オルテンシアは、今は亡き5歳年上の従姉、クラベールの言葉を思い出す。
『私みたいな地味で平凡な顔だとね、美しいタリオの隣に立つのが、恥ずかしく感じる時があるのよ…』
当時のオルテンシアはまだ子供だったため、10歳以上も年上のタリオのことを、美しいと思う従姉クラベールの感覚が、理解できなかった。
だが、結婚できる年齢になって初めて、オルテンシアもクラベールの気持ちがわかった気がした。
タリオに見惚れた自分自身にとても動揺して、疚しい気分になり… オルテンシアはもう一度、子爵夫人クラベールの墓に、許して欲しいと熱心に願う。
「・・・・・・」
クラベールお姉様! 僕はけしてあなたの夫を奪おうと、思っているわけではありませんから! 間違えないで下さいね?! ちょっとドキッ…! と、したのは本当だけど……。
他人に何を言われても、僕は気にしないけど… あなたにそう思われるのだけは、耐えられません!!
本当に一時期だけ、お姉様の美しい旦那様をお借りします!!
ほんの少しの間だけですから!!
それから半年後……。
オルテンシアの両親と子爵夫人が亡くなってから1年が過ぎ、喪が明けると…
アレールセ子爵邸近くの神殿で、オルテンシアとタリオは婚姻の儀式をとり行った。
オルテンシアの復讐の始まりである。
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