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9話 幸せの絶頂の中で シプレスside
しおりを挟む妊娠してお腹が大きくなった幼馴染のフレサに、シプレスは泣きつかれ…
『もうシプレスったら…! これ以上待たされたら、僕たちの赤ちゃんが、結婚よりも先に産まれちゃうよ?! 非嫡出子あつかいになっちゃうよ?! 僕を愛しているなら、早く婚姻の儀をとりおこなわないと!!』
『わ… わかったよ!先代伯爵夫妻の喪が明けるまでは… と思ったけれど、伯爵領の神殿はやめて、王都の神殿で婚姻の儀をおこなおう… たぶん、誤魔化せるだろうし…!』
……と、醜聞になりそうだけど、これ以上はフレサを待たせられないと、シプレスは先代アルボル伯爵夫妻が亡くなって、1年の喪が明ける前に結婚した。
隠れるようにコソコソしながら、結婚することにフレサは不満そうだったが。
伯爵位と美しいオメガの妻を手に入れ、王都のアルボル伯爵邸で、幸せの絶頂の中にいたシプレスのもとに、一通の手紙が届いた。
「旦那様、アレールセ子爵様から急ぎのお手紙が届いております」
先代の時からアルボル伯爵家に仕える老執事が、冷ややかな笑みを浮かべて、家族用の居間でフレサとイチャつくシプレスに手紙を渡す。
オルテンシアを田舎の伯爵邸から追いだし、王都のタウンハウスに、結婚前からお腹の大きなフレサを連れ込んだ時から、シプレスに対して使用人たちの態度が、急に冷たくなった。
「ああ…」
チッ…! この年寄り執事は、生意気でいけない! さっさと辞めさせないと… 不愉快でたまらない!
そう思いながらも、アルボル伯爵邸のことを誰よりも把握している老執事を、シプレスは何の落ち度もないのに、簡単に解雇するわけにもゆかずにいる。
その前に辞められて一番困るのは、シプレスの方である。
老執事はシプレスに手紙を渡しても、その場を去らず新婚のアルボル伯爵夫妻を、軽蔑の眼差しで見おろしていた。
「ちょっと… いつまでそこに立っているの? 目障りだからどこかに行って!!」
フレサがイライラと老執事に命令したが…
「申し訳ありません奥様、先ほどもお伝えしたように、急ぎのお手紙なのです… 旦那様からのお返事を持ち帰るために、アレールセ子爵家の使用人が待っておりますので」
老執事はかたくなに、譲らなかった。
「ふんっ…! だったら、最初からそう言え良いのにっ…!!」
「仕方ない! すぐに読むから待っていろ!」
イライラとする、身重のフレサの背中をなでてなだめると… シプレスはアレールセ子爵家の紋章印が押された封蝋を、乱暴にくだき手紙の封を開けると、その場で読んだ。
手紙を読むシプレスの顔が、カァッ… と真っ赤に染まった。
「なんだって?! オルテンシアがアレールセ子爵と結婚しただと?!」
結婚なんて… 出来るはがずない! だって、16歳のオルテンシアは、王国法で保護者の許可が無ければ、結婚出来ないはずだ?!! 僕は許可なんて出してないし… あいつは田舎のアルボル伯爵邸を追い出したきり、一度も会っていないというのに… どういうことだ?!
手紙の内容は、オルテンシアとアレールセ子爵タリオが、半月ほど前に地元の神殿で婚姻の儀をとりおこない、結婚したという報告だった。
「どうしたの… シプレス?」
様子がおかしくなったシプレスに気付き、首を傾げてフレサが声をかけると…
「はあぁぁぁ?!! …そんなバカな!!!」
怒りで真っ赤だった顔が、サァ―ッ… と血の気を失い、真っ青になり、シプレスの手紙を持つ手がブルブルと震える。
「シプレス…?」
「先代の… アルボル伯爵が、密かに遺言書を残していたらしい…」
「え?! なにそれ…?」
「…オルテンシアと僕が結婚しなかったから、遺言書が開封されたと手紙には書いてある……」
シプレス宛の手紙には『結婚しなかったから遺言書を開封した』 と書き記してあったが…
実際は、『オルテンシアが望んだ時にのみ、遺言を開封するように』と亡くなった故人、先代アルボル伯爵が生前に意志表示をしていたため、オルテンシアの希望で、弁護士が保管していた遺言書が開封されたのだ。
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