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10話 保護者
オルテンシアとタリオの結婚を報告する手紙が、アルボル伯爵邸に届いたその日のうちに… 王都にある、アレールセ子爵家のタウンハウスに、シプレスは怒りを隠せないようすであらわれた。
「どういうことだ、オルテンシア?! 保護者の僕が許可していないのに、勝手に結婚するなんて… これだから、世間知らずの無知なオメガは…! こんな結婚は、王国法では許されていないぞ?! 僕はお前たちの結婚を無効にするつもりだ!」
「人の家に突然、押しかけて来て… ずいぶんと偉そうに威張りちらしてるね…? たとえあなたが僕の義兄でも、こんな無礼は許せないよシプレス! あなたは恥ずかしくないの?!」
ふんっ! 大バカのゲス野郎!! お前みたいなやつを、何で僕は好きになったのか、自分でも理解出来ないよ! 昔の自分に教えてやりたい! コイツは顔が地味だから、真面目そうだと騙されてしまったけれど… 本当は中身が腐ったマヌケだと!!
胸の中では真っ赤に燃える、怒りの炎がうずまいていたが、そんな感情は顔には出さず… オルテンシアは冷ややかに、シプレスの無作法を指摘した。
オルテンシアに侮辱されたが、シプレスは自分が、無礼なことをしているという自覚があり、顔を真っ赤にして反論はしなかった。
「アレールセ子爵! あなたまで、どうかしていますよ?! 成人前のオメガが結婚するには、王国法で保護者である僕の許可が必要だと… それぐらいのことは、あなたでも知っているでしょう?!」
意地悪な笑みを浮かべて、シプレスはバカにするように、アレールセ子爵タリオを見る。
タリオは隣に座るオルテンシアに、微笑みかけてから… 『だいじょうぶだよ』 と安心させるように手をにぎると… シプレスの安い挑発にはのらずに、静かに答えた。
「お言葉ですがアルボル伯爵、私は正式にオルテンシアの保護者に、許可をもらってから結婚をしました」
「だから、僕が保護者だとっ……」
反論しかけたシプレスの前に、タリオは指の長い大きな手をあげて、言葉をさえぎった。
「アルボル伯爵、私は先代伯爵が生前、遺言書を新しく用意したことを、聞いていました… 当時、学園生だったあなたを王都へ残して、伯爵夫人の療養のために、田舎の伯爵領へオルテンシアと3人で、暮らし始めた頃の話です」
「なっ… それが何だというのですか?!」
「先代伯爵は、あなたと離れて暮らすことで、あなたの成長を自分の目で観察できないと、不安に思われたようです… 実際にあなたは、婚約者のオルテンシアと婚約破棄をして、別のオメガを妻にむかえたわけですし…?」
安い挑発のお返しに、タリオはチクリッ… とシプレスを刺した。
オルテンシアの父、先代伯爵は… タリオの話のとおりシプレスに不安を感じて、“もしもの時” を考え、遺言書を用意していたのだ。
王国法で弱者とあつかわれ、ほとんど権利を持たないオメガでも、オルテンシアの意志を、最大限に尊重して欲しいと先代伯爵は願っていた。
そこで… オルテンシアが望んだ時に、父親の遺言書を使えるようにと… オルテンシア宛に遺言書を残す契約を、弁護士と結んでいた。
「お父様はその… “もしもの時”のために遺言書に、僕の保護者を… 僕のお母様の弟で、僕の叔父にあたるプルガル侯爵様にすると、指名していたんだよ」
「保護者を指名した?! プ… プルガル侯爵だって…?!」
「私はプルガル侯爵にオルテンシアとの結婚を求め、許可をもらった!」
静かで落ち着いているが、タリオはとても力強い声でシプレスに言った。
先代伯爵と契約を結んだ弁護士は、伯爵夫妻が亡くなり… 流行病がおさまるとすぐに、田舎の伯爵領で療養するオルテンシアに会いに来て、オルテンシアの希望で遺言書を開封したのだ。
シプレスが裏切らなければ、オルテンシアは遺言書を誰にも見せずに、破棄するつもりだった。
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