オメガの恨みは恐ろしい!~自分だって地味顔のくせに‼

金剛@キット

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11話 遺言書



 オルテンシアの保護者は、自分ではないという事実を、ようやく理解した義兄シプレスは、顔を強張こわばらせてジッ… と自分の手を見つめていた。

「別にお義兄様は、僕の保護者になりたかったわけではないよね? だって、いきなり浮気して、その浮気相手を妊娠させて、それで都合が悪くなったからって、あんなふうに僕をアルボル伯爵邸から追いだした人だもの…」
 本当にこうやって落ち着いて、話をしていると… とんでもないクズだよね? このゲス野郎は?! かえってこのゲス野郎が浮気して、別のオメガと結婚したおかげで、僕はこいつの妻になって、一生しばられずに済んで、良かったのかもしれない……。
 うん…! やっぱり僕は、幸運だったんだ!

 応接間のソファに座り、隣でオルテンシアを勇気づけようと、ギュッ… と手をにぎってくれる、タリオを見あげた。
 タリオもオルテンシアの視線を感じて、ニコリッ… と微笑む。


「・・・っ」
 シプレスはジロリと、オルテンシアを悔しそうににらんだが… 何も言わなかった。

 オルテンシアは一度、深呼吸をすると口を開いた。

「それでね、シプレスお義兄様、ここからが本題なんだけど……」

「…本題?」

「うん、お父さまの遺言書ゆいごんしょにね… “僕と結婚した人”がアルボル伯爵家の財産を、相続することになっているんだよね?」

「何だって…?!」
 ギョッ… とシプレスは、目を見開いた。

「だから… “僕と結婚した人” …つまりアレールセ子爵のタリオ様が、アルボル伯爵家が所有する領地ややしき、お金を継ぐことになっているの!」

「何を言っているんだ?! 僕は先代の養子で、義理でもお前の兄だぞ?! だから僕がアルボル伯爵をいだ!! それは王国法で決まっていて、間違いないはずだ!」

「だから~… 王国法にしたがって、伯爵位は養子のシプレスお義兄様が継いだけど… 財産は全部、亡くなったお父さまの遺言で… が、相続することになっているの!! わかった?!」

 田舎のアルボル伯爵邸で大ゲンカをして、シプレスに追い出されたオルテンシアは、先代伯爵が残してくれた、遺言書を開封して内容を知っていたが…
 浮気をして、オルテンシアを捨てたシプレスから、確実に伯爵家の財産を奪い返すために… シプレスが浮気相手のフレサと結婚するのを、辛抱しんぼう強く待っていたのだ。

「そ… そんな…?!」

「だから、シプレスお義兄様… 今すぐ、僕の旦那様に財産を返して!」

「なっ… そんなの嘘だ!!」

「アルボル伯爵、オルテンシアの言葉が信じられないのなら… オルテンシアの保護者として指名された、プルガル侯爵に直接たずねてみると良い! まぁ、婚姻こんいんの儀を終えた今は… 夫の私が、妻オルテンシアの保護者となったわけだが?」

「クソッ…!!」

「お義兄様が結婚するまでに使った、アルボル伯爵家のお金は免除めんじょしてあげるよ! …だけど、婚姻こんいんの儀に使った費用や、フレサ様に使ったお金… 結婚後から今日まで使ったお金は、全額請求するから返金してよね!!」

 王都のアルボル伯爵邸で働く、先代伯爵に忠実だった老執事が中心となり… シプレスとフレサが使った、アルボル伯爵名義の請求書をすべて集めて、金銭に関する帳簿といっしょに弁護士に渡してある。


「嘘だろう……?! オルテンシア… なぁ? そんな薄情はくじょうなこと言わないよなぁ? 僕のこと、ずっと愛していたじゃないか……?」 

 シプレスはソファーから立ち上がり、あわててオルテンシアの足元にひざまずく。

「止めてよシプレス! 本当に、なんて恥知らずなのさ?!」
 気持ち悪い! き気がする…! この男にアルファのプライドはないの?! 信じられないよぉ!!

 オルテンシアの手を取り、シプレスはキスをしようとしたが… オルテンシアの隣に座るタリオが、長い手をのばしパシッ…! と音を立ててシプレスの手をたたき払い、怒鳴どなった。

「アルボル伯爵、私の妻に無礼なことは止めて下さい!!」

「嘘だ!! 嘘だと言ってくれ… オルテンシア…!!」

「アルボル伯爵! あなたと、あなたの奥方の荷物をまとめるように、さきほど伯爵邸の使用人たちに、指示を出しました… 今日中に伯爵邸から、出て行ってくれ! 優しいオルテンシアの心をみにじったあなたに、これ以上オルテンシアの大切な場所を、けがされたくない!」

「そんな、アレールセ子爵…! お願いだ、オルテンシア―――ッ?!」

「今すぐ、オルテンシアの前から消えろ!!!」

 アレールセ子爵タリオは、その誠実な性格から… シプレスを嘲笑ちょうしょうしたり、さげすむことはしなかった。
 だが、亡くなった愛妻あいさいと同じ病で苦しんだ… み上がりのオルテンシアにした、シプレスの残酷ざんこくなしうちだけは、タリオはどうしても許せずにいた。 
 ここまでオルテンシアにまかせて、タリオは黙っていたが… 今さら自分勝手に、許しを願おうとするシプレスに怒りが爆発し、我慢出来なくなったのだ。


「タリオ様……?」
 あ… タリオ様?! いつも穏やかで、怒ったことなんて無いのに…? こんなタリオ様はあまり、知らないから、少し怖いけど… でもありがたい! 僕のために、怒ってくれるんだよね?! 

 今までタリオが、怒り狂う姿など、見たことがなかったオルテンシアは… 怒鳴りつけられる、シプレス本人よりも驚いていた。

 タリオは威嚇いかくするように立ち上がり、大またで移動して… シプレスの服をつかみ、応接室からズルズルと引きずって、玄関ホールへと出る。

 使用人に扉を開けさせて、タリオは外にシプレスを放り出す。

 数ヶ月前、田舎のアルボル伯爵邸で、オルテンシアがシプレスにされたことを… 今度はシプレスがされるがわになった。

 自分が犯した罪のむくいを、自分が受けることになり… まさにシプレスは自業自得じごうじとくである。





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