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36話 どう生きて行くか
しおりを挟む廊下の途中にある大きな鏡の前で、ヴィトーリアは身なりを綺麗に整えてから、音楽室へ静かに入る。
前日の朗読会が好評だった為、今日も昼から音楽室に椅子を並べて公爵夫人が、おっとりとした暖かな声で昨日の続きを読んでいた。
一番端に座る大奥様の隣席が丁度空いていたので、静かに席に着く。
大奥様は、なぜかヴィトーリアの手を、サッと撫でて微笑みながら小さく頷く。
<もう、トパーズィオが私の醜聞を触れ回ったの?!>
密かに怯えるヴィトーリア。
ヴィトーリアがほとんど聞いていなかった朗読会が終わると、公爵夫人が大奥様の隣に来て楽し気に、朗読していた本について語り合う。
「話し合いは上手く行きましたか?」
公爵夫人に尋ねられ、顔が強張るヴィトーリア。
「…はい」
ヴィトーリアは途方に暮れていた。
<アーヴィの顔が見たい… 今夜くるかなぁ?>
「トーリアさん、顔色が悪いけど… 新しい抑制剤が身体に合わないのではなくて?」
公爵夫人が心配そうに、ヴィトーリアの顔を覗き込む。
朝までヴィトーリアの部屋にいたアーヴィは、昨日の朝と同様に大奥様を抱き上げて朝食室まで連れて行ってくれたので、公爵夫妻と朝食を摂った時に、ヴィトーリアの抑制剤の話題が出たのだ。
「あ… いいえ、少し強めの抑制剤は、良く効いて調子が良いぐらいです」
<公爵夫人は本当にお優しい人だ… ソレに大奥様も…>
ヴィトーリアの青ざめてた顔に微笑みが戻る。
ジッと公爵夫人を見つめ、ヴィトーリアは次に大奥様を見つめる。
<トパーズィオがまた騒ぎを起こすかも知れないと、スグに言わなければ… ご迷惑をお掛けするのは分かっているのだから、特に大奥様には… そして私は付き添い役を辞めるコトになる…>
ヴィトーリアは、2つ覚悟を決めた。
1つ目は、自分がふしだらな行為をしたと告白するコト。
「お2人にお話しなければならないコトがあります」
2つ目は、アーヴィと再会してからあまりにも幸福で、スグに聞けなかったコトを…聞く覚悟だ。
<私をどう思っているのか… アーヴィは私をどうする気なのか… 愛人にするというならソレでも良い、今の私は彼の側に居られるダケで幸運だから…>
考えたダケで、涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。
<愛人もダメなら…?>
故郷を出る時に父カルネイロが、何度もヴィトーリアに言い聞かせた言葉が、今も心に根付いている。
『耐えるんだ… 私たちはコレからどう生きて行くかを考えなくてはならないのだから、どうしようもないコトに関わっている暇は無い』
<私はコレからどうすれば良い? …まずは父に会いに行こうか? 1年近く顔を見ていない… でも旅費にお金を使うより借金返済に充てた方が良いのかも知れない… やはり弟に会いに行こうか? 去年学園を卒業したから、仕事を紹介してくれるかも知れない>
どう生きて行くかを決める。
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