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54話 オエスチ侯爵夫妻
しおりを挟む晩餐の控室でオエスチ侯爵夫妻は、招待客たちから順番にお祝いの言葉を受け取った。
今夜はアーヴィもいつもの騎士服ではなくて、ヴィトーリアと同じく一般的なフォーマルな服装に着替えていた。
つまり第二騎士団の副騎士団長としてではなく、ヴィトーリアの夫オエスチ侯爵としての参加だ。
再会して初めて見る騎士服以外の姿にぽ~っと見惚れる新妻。
<漆黒の上下に純白のシャツで、蜜色の髪が映えて素敵だなぁ… 優しいラベンダー色の瞳はキラキラして見えるし…>
夫の何が一番好きかと問われれば、ヴィトーリアは容姿が好きだと少々軽薄だが、そう答えるだろう。
「とても良い結婚式でしたね、オウロ公爵家の結婚式は本当にいつも素晴らしい」
デビュタントたちの母親たちが、オエスチ侯爵夫妻にそう言うと…
「侯爵夫人が羨ましいです!! 侯爵様に抱き上げられて、神に誓うところなんか… もうっ…素敵過ぎて!! …ああ!!」
「元婚約者だったなんて… きっとお2人は生まれた時から運命の赤い糸で結ばれていたのですね!! あああんんっ… 何てロマンチックなの!!!」
デビュタントたちは頬を赤らめて、自分たちの夢に浸る…
当の侯爵夫人は遠い眼をして微笑んだ。
<正直、結婚式のコトは、忘れてしまいたいと思う程、恥ずかしかった記憶しか思い出せない>
ヴィトーリアにとって怒涛の如く、過ぎ去った激しい一日だった。
義弟たちにふしだらだ、男娼だと罵られ、醜聞騒ぎになりそうで迷惑がかかると公爵夫妻と大奥様に告白したら、結婚しなさいと言われて、半時後(約1時間)には結婚の準備に追われ…
<アーヴィと再会して、10日も経たない内にこの私が侯爵夫人と呼ばれてるし!! コレは本当に現実なの…? 確かに昔は婚約者っだったけど>
「トホホ…」
晩餐の準備が整い招待客たちは、控室から順番に移動し、挨拶を受けていたオエスチ侯爵夫妻が最後に移動する。
侯爵夫妻だけになるのを見計らい、フェリア―ド家の叔母と義弟たちが話しかけて来た。
「本当に綺麗になってトーリア… 愛する人と一緒だからね、幸せになってね」
叔母が優し気にヴィトーリアの手を取って暖かい手で撫でる。
「叔母様…」
感動で言葉を詰まらせるヴィトーリア。
「本当に君にはガッカリしたよトーリア… 1番の友達だと思ったのに僕に黙って…」
ヘメージオは不貞腐れて、子供っぽくグダグダと文句を垂れ、その横からトパーズィオがヴィトーリアを睨みつけてくる。
「お黙りヘメージオ、1番の友達なら、1番幸せを喜んでやるのが筋でしょう? 恥を知りなさい!」
「ふんっ」
性格は良くても、甘やかされたアルファの長男は、どこの家でもこんなモノである。
苦笑いを浮かべるヴィトーリアの隣で、アーヴィはニッコリ笑っているように見えるが、目が全然笑っていなかった。
「ヘメージオ、君も騎士団に所属しているとヴィトーリアに聞いたが?」
話の成り行きを黙って見ていたアーヴィは、おもむろに口を挟み、ヴィトーリアの細い腰を抱き寄せる。
チラリとヴィトーリアの腰にあるゴツイ手を見て、ヘメージオは不服そうに返事をする。
「はい、北方騎士団の本部は近いので、騎士団の仕事の合間に領地の運営の勉強をしています」
北部は商業もあまり盛んでは無く、農業と畜産が主な産業で人も少ない。
いわゆる広いダケの何もないド田舎で、比較的治安が良いから家業と兼業する騎士が多い。
アーヴィのようなゴリゴリの騎士から見ると、北方の騎士が半端に見えても仕方ない。
「我々はしばらく西方へ里帰りするが、王都に戻ったら第二騎士団で鍛えてやろう」
「え?!」
「せっかく義理の兄弟になったのだから、遠慮はしないでくれ」
「い…いえ、お忙しいでしょうから!!」
不貞腐れた顔が一気に青くなる。
「イヤイヤ、そんな堅苦しいコトを言ってくれるな、ヘメージオ」
ニッコリ笑顔を絶やさず、ヘメージオをいたぶる手を緩めようとしない、ちょっと大人げないオエスチ侯爵。
「シッカリ鍛えてやるよ、君が胸を張って北方に帰れるように」
アーヴィの分厚くでっかい手で、ヘメージオの騎士にしては細身の身体をバンッと勢いよく叩く。
王立第二騎士団は大小数ある騎士団の中でも、わが国で強い騎士が、最も多く揃う騎士団と言われている。
ソレだけ普段の鍛錬が他騎士団よりも厳しいと言う意味だ。
「遠慮するな!! …君の頑張り次第で、第二騎士団への入団も夢ではないぞ?」
「まぁなんて光栄なんでしょう、ありがとうございます侯爵様!!」
叔母様がオエスチ侯爵の思惑を知ってか知らずか? 追い打ちを掛ける。
「母上…」
ヘメージオ、言葉を失う。
爽やかに腹黒笑顔を振りまくオエスチ侯爵を、パカリと口を開けて見上げる新妻。
<わぁ~っ!! ウチの旦那様、大人げな~い!!>
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