英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第1章 誓約編

1話 親友      挿絵 蘇芳と直輝

 東野蘇芳すおうは、日本で高校の終業式が終わるとすぐに渡英した。


 そしてこの国、英国の語学学校に数か月間在籍した後、9月から大学受験資格を取るための新たな学校に通っている。


    英国の短い秋が終わりを迎える頃…


  赤白の旭日旗柄に勇ましく漢字で〝猛獣〟と書いた派手な帽子を被って、手には旅行カバンを下げたルーム・メイトの和田直輝なおきが、満面の笑みを浮かべてダサい太縁眼鏡をかけた蘇芳の頬を撫でる。

「そんな寂しそうな顔、スンなってぇ… 蘇芳すおう! たった2日だぞ? 2日! 向こうに着いたら連絡するし!」

 直輝は眉尻を下げ、困った顔で蘇芳を慰めた。


「イギリス男との、H旅行を一番にゲットしたのが直輝とはね! 負けたわ~っ!!」

 同じ寮の元OLで今は観光学を学ぶ島田さんと、語学学校に通う加藤さんが楽しそうに笑う。


「ああ羨ましい~! このふしだら王子が彼氏とそのままフランス移住するのにオレは1ポンド賭けるぞ!!」

 企業の奨学生で、ビジネス・スクールで学ぶ最年長の戸川さんが、直輝の背後から首を絞める。

 ゲラゲラ笑う直輝。


 パッと見は蘇芳と同じ年ぐらいに見えるけど、直輝の方が2つ年上だ。

 つまりこの寮の日本人留学生の中では、蘇芳が最年少になる。


 入寮したその日に、自分はゲイだと直輝にカミングアウトされた蘇芳は…

 凄く驚いたのと同時に、直輝の勇気に大きく感動した。

 この時から2人は掛け替えのない親友になったのだ。

<…僕が他の寮生たちと馴染めるように、さりげなく助けてくれたりとか、直輝は本当に優しくて格好良いのだ! だからいないと、スゴク寂しい>



「学校もあるし~絶対帰って来るって! …そのまま彼氏と同棲とか出来たら、文句無しだけどね♡」

「直輝ってば気を付けてよ? たまにヤンチャするから… こういう楽しいい時こそ要注意だよ?」

 直輝はテンション高めに軽口をたたき、ソレを見て、真面目で世慣れていない蘇芳はついつい、クギを刺すようなコトを言ってしまう。


「蘇芳こそ また風呂上りに薄着して風邪ひくなよ?」

 心配する蘇芳を、直輝はギュッ… とハグしてから、寮の扉を開けて元気良く出て行く。


 日本人留学生たちは直輝を見送った後…

「やっぱ… あの帽子被って行くのか~ 日本人の繊細な感性を直輝はドコに落としたんだ?」

 戸川さんが首を振り振り部屋に戻っていく。


「スーちゃん~っ! 1人が寂しいなら、私たちと一緒に寝よっか?」

 飼い主に置き去りにされた子犬のように、寮の玄関で寂しそうに佇む蘇芳の頬を、島田さんが指でツンツンと突っついた。


「大丈夫!!」

 元々、中高一貫の男子校出身の蘇芳は、女性に免疫が無くお姉さんたちに揶揄われると、スゴク対応に困るのだ。


「ええ~残念!」
「寂しくなったら、いつでもおいでよ?」

 本気で残念がるお姉さんたちを残し、逃げるように慌てて蘇芳も部屋に戻った。









 ――― 直輝は、旅行から帰る予定の日を過ぎても帰らなかった。


 本当にそんな事態になるとは、蘇芳も思いもしなかったケド…

 着いたら連絡すると言っていたのに、出掛けたその日から直輝と音信不通になり、蘇芳は警察や学校その他モロモロ、思いつく限りのところに相談したが、恋人と旅行に出たと知ると、おざなりな対応で相手にされなかった。


 悩んだ末に蘇芳は… 後見人に会いに行くことにしたが…

 出来れば、一番会いたくない人だった。
 記憶を辿り、青ざめる蘇芳。



  母の信頼する旧友、トーマス・Hヘンリー・ギルボーンさんに会いに行った日。


『悪いね蘇芳… 私自身はとても元気なのに、周りが休めとウルサクてね、息子のアーサー・wウイリアム・ギルボーンが病気療養中の私に代わり、君の後見人をすることになる』
 
 親子だけあって、2人の容姿はよく似ているが中身が全く違うのだ。

 穏やかで気さくなトーマス氏に対し…

 息子のアーサーは冷淡で威圧的、そのうえ日本では滅多に見ることの無い体格。

 高さも(間違いなく190cm越え)厚みもある大男だ。
 

『初めまして… 東野蘇芳です』

 ブルー・グレーの冷ややかな瞳に、少し厚めの唇が端整な顔に野性味を加えている。

 暗い金髪がどこか中世の騎士を連想させ、リアル・アーサー王だと(同名だし)ちょっと感動したのも束の間で…

『後見人など留学エージェントの仕事です、時々メールのやり取りをする程度で、療養中のあなたに厚かましく息子を押し付けるとは… ギルボーン家の施しが真の目的でしょう?』

『止めないかアーサー!』

 蘇芳を無視し、話を進めるギルボーン親子。

 あまりにも衝撃的で絶句し怯えながら、蘇芳は見つめることしかできなかった。

 冷たい刃のような視線に、心を切り裂かれた瞬間を思い出すだけで体が震え、寒気がする。


 ギルボーン家が英国有数の名家で、世界に広がる複合企業を営む富豪だと蘇芳が知ったのは、この後だった。





「でも…直輝のために!! …あの人ならきっと!!」








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