3 / 106
第1章 誓約編
2話 意地悪な後見人
近代的なG・I 社(ギルボーン・インダストリーズ社)本社ビル最上階を、蘇芳は不安げに見上げた。
重そうな太縁眼鏡がずり落ち、長い睫毛に覆われた繊細な黒い瞳に、曇り空から差す淡い光が反射する。
「会社まで威圧的に見えるなあ」
蘇芳にとってアーサー・ギルボーンと会うのは… トラウマレベルなのだ。
ギルボーン氏(息子)に会いたいと連絡したら、10分だけ時間をやると言われ、彼の職場まで来たが…
クルリとビルに背を向けて寮に帰ってしまいたい。
自分の両頬をペチペチとビンタして気合いを入れると、蘇芳は肩から斜め掛けにした教材でパンパンに膨れた重いカバンを掛けなおす。
深呼吸して拳をギュッと握りG・I 社をキッと睨む。
「いざ! 直輝のために、頑張れ自分!!」
広々とした明るい最上階のオフィスで、蘇芳は応接セットのソファに座ることも許されず…
オフィスを使用する主にピッタリの、重厚なアンティークらしいデスクから2メートルほど離れた壁際に立ち、30分ほど待たされた。
ちなみに…
蘇芳に応対した係の人にジロジロと迷惑そうに睨まれて、受付で40分待たされている。
その間にも、数人の人たちが慌ただしく行ったり来たりして、ギルボーン氏の指示を待っていた。
10分だけとか言われて、蘇芳は最初ムカついたけど、本当に10分だけでも会うのは大変なんだと、今は反省している。
<…スゴク格好良い人なのに… 意地悪でなければなぁ… 直輝なら大騒ぎしそうな完璧イケメンだし…>
「待たせたな… それで?」
タブレットを見つめたままのギルボーン氏が、唐突に話しかけてきて一瞬、慌てる蘇芳。
「あ…はいっ!! その連絡した時にも話しましたが… 直輝は無責任ではないですし! 連絡が取れないのは本当に変なんです!」
会う前に頭の中で何回も練習した言葉を、蘇芳はつっかえずに話した。
「ソレは警察の仕事だ! 彼らに任せて君は学業に専念するべきだ」
ギルボーン氏は、低いが良くとおる声で蘇芳にキビキビと答えながら、デスク脇に立つ秘書が持つ書類に胸ポケットから出した万年筆でサインして渡す。
「ですから警察は何もしてくれません!」
「旅行に出て5日目? 恋人が一緒なら、ソレぐらい連絡が無くても変ではない… 子供っぽく騒ぐと逆に迷惑になるぞ?」
ムカッ。
鼻息荒くデスクに蘇芳は詰め寄った。
「寮のみんなにも、そう言われたけど… あの直輝が? 絶対におかしいです!!」
「君には経験が無いだろうが… 大方恋人と愛し合うのに夢中でベッドを出られないのさ」
ムカッ。
蘇芳の拳が怒りで震える。
「世間に"ゴシップ・キング" とか呼ばれている自分と、直輝を一緒にしないで下さい!!」
ギルボーン氏は初めて顔を上げ怒りで真っ赤になった蘇芳の顔を見た。
「自分が毎日…違う女性とデートするほど… そ‥そういう事に夢中だからって! …直輝まで…そ…そういう…」
「セックスに夢中?」
顔どころか首や耳まで真っ赤にして、しどろもどろになる蘇芳を面白そうに眺めるギルボーン氏。
「ぼ… 僕が知らないと思ったら‥ 大間違いですから!! …ゴ‥ゴシップ・サイトに…あなたの写真が…っ」
直輝と戸川さんが僕の後見人だと知って、いろいろ調べて教えてくれたのだ。
<有名女優や、大富豪の令嬢、どこかの国の王族とか、毎日違う人とのゴシップをまき散らして… それなのに、花婿にしたい独身セレブのベスト10に常時ランクインしてるとか、結婚適齢期の女性たちは、お金に目が眩んで、絶対に心の窓が曇っているとしか思えない!!>
「ほう…」
ゆっくり指を組み、じっと蘇芳を見つめるギルボーン氏に蔑みの笑みが浮かぶ。
「私は君の後見人であって、君の友人のではない」
「それでもあなたしか頼れないから… 僕は!」
食い下がる蘇芳。
「私は忙しい、今から警察の知人に連絡する… それで君の気が済み仕事の邪魔をしないなら…」
「しません!」
ジロリと睨まれたが、満面の笑みで礼を言い深く頭を下げる蘇芳に、ギルボーン氏はこっそりため息をつく。
「これ以上は期待するな! 一般人に出来るのはココまでだからな」
上着の内ポケットからスマホを取り出すギルボーン氏に、大きく頷きながら蘇芳はふと思う。
<…この人が一般人だとはとても思えないけど…大きな複合企業のCEO? 最高経営‥だっけ? …確か一番エライ人で、お父さんから引き継いだと聞いたけど>
ぼんやり蘇芳が考え込んでいると、当のギルボーン氏にキビキビと矢継ぎ早に、アレコレ聞かれ慌てる。
「直輝の恋人の名前は? 連絡先、住所は?」
スマホで通話しながら、しっかりしろとジロリと睨むギルボーン氏。
「ええっと…"デビット・ウォーカー" という名前しか知りません」
「連絡の取れない留学生は日本の名家出身で… 外務省経由で警察に抗議が来るような面倒は回避したいだろう?」
<名家? 外務省? そんな話、直輝に聞いたことないけど… この人今、サラリと嘘をついた!>
驚愕する蘇芳にスマホをしまいながら、ニヤリと笑うギルボーン氏。
「何か進展があれば私から君に伝える」
「感謝します! 本当にありがとうございます!」
ギルボーン氏は再度、深々と頭を下げた蘇芳を、不愉快そうに眺めた。
「このオフィスに来る時は、その味のある服装を何とかしなさい」
頭のてっぺんから、足の先までジロジロ見られ、蘇芳は自分のヨレヨレの服に薄汚れたスニーカーを見下ろし赤くなる。
「うう…気を付けます」
入口でガードマンに不審者扱いされて止められたから、蘇芳自身、自分が場違いなうえにちょっとヒドイ服装なのは自覚している。
「明日のディナーパーティーには出るのか?」
「はい」
「では明日、ギルボーン・ハウスで会おう」
「はい!」
<つまり用が済んだなら、さっさと帰れという意味だ>
ギルボーン氏のオフィスを出ると、すれ違う社員たちにすごい目で見られた。
ピカピカに磨かれた窓ガラスに映った自分の姿を見ると、左側だけ豪快に寝ぐせの付いた髪が目立ち、慌てて手で撫でつける。
旅行に出た日の朝、直輝に寝ぐせを直してもらった。
『蘇芳ってば洗顔しても、鏡見てないだろう?』
直輝はプッ… と吹き出し、自分のブラシと整髪剤で、蘇芳の寝ぐせを直してくれた。
「直輝がいないから… 全然、気付かなかったよ… ねぇ直輝、今ドコにいるの?」
窓ガラスに映る蘇芳は、ションボリ項垂れる。
重そうな太縁眼鏡がずり落ち、長い睫毛に覆われた繊細な黒い瞳に、曇り空から差す淡い光が反射する。
「会社まで威圧的に見えるなあ」
蘇芳にとってアーサー・ギルボーンと会うのは… トラウマレベルなのだ。
ギルボーン氏(息子)に会いたいと連絡したら、10分だけ時間をやると言われ、彼の職場まで来たが…
クルリとビルに背を向けて寮に帰ってしまいたい。
自分の両頬をペチペチとビンタして気合いを入れると、蘇芳は肩から斜め掛けにした教材でパンパンに膨れた重いカバンを掛けなおす。
深呼吸して拳をギュッと握りG・I 社をキッと睨む。
「いざ! 直輝のために、頑張れ自分!!」
広々とした明るい最上階のオフィスで、蘇芳は応接セットのソファに座ることも許されず…
オフィスを使用する主にピッタリの、重厚なアンティークらしいデスクから2メートルほど離れた壁際に立ち、30分ほど待たされた。
ちなみに…
蘇芳に応対した係の人にジロジロと迷惑そうに睨まれて、受付で40分待たされている。
その間にも、数人の人たちが慌ただしく行ったり来たりして、ギルボーン氏の指示を待っていた。
10分だけとか言われて、蘇芳は最初ムカついたけど、本当に10分だけでも会うのは大変なんだと、今は反省している。
<…スゴク格好良い人なのに… 意地悪でなければなぁ… 直輝なら大騒ぎしそうな完璧イケメンだし…>
「待たせたな… それで?」
タブレットを見つめたままのギルボーン氏が、唐突に話しかけてきて一瞬、慌てる蘇芳。
「あ…はいっ!! その連絡した時にも話しましたが… 直輝は無責任ではないですし! 連絡が取れないのは本当に変なんです!」
会う前に頭の中で何回も練習した言葉を、蘇芳はつっかえずに話した。
「ソレは警察の仕事だ! 彼らに任せて君は学業に専念するべきだ」
ギルボーン氏は、低いが良くとおる声で蘇芳にキビキビと答えながら、デスク脇に立つ秘書が持つ書類に胸ポケットから出した万年筆でサインして渡す。
「ですから警察は何もしてくれません!」
「旅行に出て5日目? 恋人が一緒なら、ソレぐらい連絡が無くても変ではない… 子供っぽく騒ぐと逆に迷惑になるぞ?」
ムカッ。
鼻息荒くデスクに蘇芳は詰め寄った。
「寮のみんなにも、そう言われたけど… あの直輝が? 絶対におかしいです!!」
「君には経験が無いだろうが… 大方恋人と愛し合うのに夢中でベッドを出られないのさ」
ムカッ。
蘇芳の拳が怒りで震える。
「世間に"ゴシップ・キング" とか呼ばれている自分と、直輝を一緒にしないで下さい!!」
ギルボーン氏は初めて顔を上げ怒りで真っ赤になった蘇芳の顔を見た。
「自分が毎日…違う女性とデートするほど… そ‥そういう事に夢中だからって! …直輝まで…そ…そういう…」
「セックスに夢中?」
顔どころか首や耳まで真っ赤にして、しどろもどろになる蘇芳を面白そうに眺めるギルボーン氏。
「ぼ… 僕が知らないと思ったら‥ 大間違いですから!! …ゴ‥ゴシップ・サイトに…あなたの写真が…っ」
直輝と戸川さんが僕の後見人だと知って、いろいろ調べて教えてくれたのだ。
<有名女優や、大富豪の令嬢、どこかの国の王族とか、毎日違う人とのゴシップをまき散らして… それなのに、花婿にしたい独身セレブのベスト10に常時ランクインしてるとか、結婚適齢期の女性たちは、お金に目が眩んで、絶対に心の窓が曇っているとしか思えない!!>
「ほう…」
ゆっくり指を組み、じっと蘇芳を見つめるギルボーン氏に蔑みの笑みが浮かぶ。
「私は君の後見人であって、君の友人のではない」
「それでもあなたしか頼れないから… 僕は!」
食い下がる蘇芳。
「私は忙しい、今から警察の知人に連絡する… それで君の気が済み仕事の邪魔をしないなら…」
「しません!」
ジロリと睨まれたが、満面の笑みで礼を言い深く頭を下げる蘇芳に、ギルボーン氏はこっそりため息をつく。
「これ以上は期待するな! 一般人に出来るのはココまでだからな」
上着の内ポケットからスマホを取り出すギルボーン氏に、大きく頷きながら蘇芳はふと思う。
<…この人が一般人だとはとても思えないけど…大きな複合企業のCEO? 最高経営‥だっけ? …確か一番エライ人で、お父さんから引き継いだと聞いたけど>
ぼんやり蘇芳が考え込んでいると、当のギルボーン氏にキビキビと矢継ぎ早に、アレコレ聞かれ慌てる。
「直輝の恋人の名前は? 連絡先、住所は?」
スマホで通話しながら、しっかりしろとジロリと睨むギルボーン氏。
「ええっと…"デビット・ウォーカー" という名前しか知りません」
「連絡の取れない留学生は日本の名家出身で… 外務省経由で警察に抗議が来るような面倒は回避したいだろう?」
<名家? 外務省? そんな話、直輝に聞いたことないけど… この人今、サラリと嘘をついた!>
驚愕する蘇芳にスマホをしまいながら、ニヤリと笑うギルボーン氏。
「何か進展があれば私から君に伝える」
「感謝します! 本当にありがとうございます!」
ギルボーン氏は再度、深々と頭を下げた蘇芳を、不愉快そうに眺めた。
「このオフィスに来る時は、その味のある服装を何とかしなさい」
頭のてっぺんから、足の先までジロジロ見られ、蘇芳は自分のヨレヨレの服に薄汚れたスニーカーを見下ろし赤くなる。
「うう…気を付けます」
入口でガードマンに不審者扱いされて止められたから、蘇芳自身、自分が場違いなうえにちょっとヒドイ服装なのは自覚している。
「明日のディナーパーティーには出るのか?」
「はい」
「では明日、ギルボーン・ハウスで会おう」
「はい!」
<つまり用が済んだなら、さっさと帰れという意味だ>
ギルボーン氏のオフィスを出ると、すれ違う社員たちにすごい目で見られた。
ピカピカに磨かれた窓ガラスに映った自分の姿を見ると、左側だけ豪快に寝ぐせの付いた髪が目立ち、慌てて手で撫でつける。
旅行に出た日の朝、直輝に寝ぐせを直してもらった。
『蘇芳ってば洗顔しても、鏡見てないだろう?』
直輝はプッ… と吹き出し、自分のブラシと整髪剤で、蘇芳の寝ぐせを直してくれた。
「直輝がいないから… 全然、気付かなかったよ… ねぇ直輝、今ドコにいるの?」
窓ガラスに映る蘇芳は、ションボリ項垂れる。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。