英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第1章 誓約編

4話 ディナー・パーティー 後編

 綺麗に食べ終えた皿を前に、蘇芳はテーブルの下で小さくガッツポーズをする。

<日本の母校で受けた礼儀作法の講習会に心から感謝! 生まれた時からマナーを仕込まれ始める人たちには、僕のマナーはまだまだ無作法に見えるだろうけど>

 隣のマダムに話しかけられ、蘇芳の顔に引きつり笑いが浮かぶ。
 話しながら上品に食事するのは本当に至難のワザなのだ。

<それも話す時は両隣交互とか、等分にとか? …もう無理! 無理! 話題に付いていくだけでも苦労しているのに!!>

 トーマスと目が合うと微笑まれ…
 どうやら蘇芳が苦戦してるのは全部お見通しらしい。

 こんな蘇芳にトーマスが優しくしてくれるのは… 昔、恋人だった母のおかげだ。
 
 蘇芳の母は、この英国に留学してトーマスと出会い、初めて本気の恋をした。

 その思い出をトーマスが今も大切にしているからだと思うと、蘇芳の胸は熱くなる。
 

 不意に刺すような気配を感じ、蘇芳が顔を上げると、オリバーが顔を背けた。

<…僕を監視してた? 意地悪なことでも考えてるとか?>

 蘇芳は小学校でイジメられてた、暗黒時代を思い出し…

<…本当に大人げない人たち>

 ギルボーン家の支援など期待してないと伝えても、猜疑心でいっぱいのこの一族は、蘇芳の言葉が通じないのだから仕方ない。

 元々蘇芳は、母を安心させる為にギルボーン家の後見を受け入れたダケなのだ。

 大きなため息をつくと、今度はアーサーと目が合い…
 彼は肩を竦め "困った人だ" と言いたげに、チラリとオリバーを見る。

 いつもは蘇芳を無視するのに、今夜は珍しく機嫌が良さそうで、少しだけアーサーが優しそうに見えた。


「蘇芳 前に言ってた本を持ってきたよ」

 明るいロジャーの声に自然と蘇芳の笑みが零れる。

 ロジャーは同じ一族でも例外だ。


「ありがとう、ロジャー!」

「ねぇ蘇芳、本をドコで見つけたと思う?」

「ベッドの下とか?」

「それがさぁ、足が壊れた母さんの飾り棚をアトラスみたいに支えてたんだ!」

「ロジャーの本はお母さんにどんな戦争を仕掛けてお仕置きされたのかな?」

 蘇芳も笑いながら軽口で応酬する。


「つまり君の母上はティタン神族より強いんだね?」

 教授が話に加わった。


「ゼウスの恐妻 女神ヘラと良い勝負だと思いますよ」

(ティタン神族はオリュンポスの神々に負け、オリュンポス神ゼウスは、恐妻ヘラに弱い。)

 ロジャーがつけた落ちに、男性陣は忍び笑いを漏らし、女性陣は呆れる。



 アーサーは招待客たちと玄関で別れの挨拶を済ませ見送った後、スマホを見て慌てて書斎に向かう。


「もしかして直輝のコト… 何か分かったのかな?」

 アーサーの様子を偶然見ていた蘇芳は、慌てて後を追い書斎へ行く。

 


「バカな!! 脅してでも奴を連れて行くぞ!!」

 ドンッ… と書斎のデスクを叩き、怒り狂うアーサー。


「新しい恋人と地球の反対側にいるというのだから… 連れ戻すのは無理ですよ」

 トーマスの時代から秘書をしている、エドモンド・マクガバンは年下の上司を静かに諭す。


「苦労してようやく "ゼフィロス" の会員資格が得られるという時に… クソッ!!」

「明日の夜会は見送るしかありません」

「ダメだ! すべての準備を整えてからの欠席なんてできるか!!」

「そこは違約金‥」

「…誰だ?!」

 アーサーがいきなり書斎の入り口を見て怒鳴った。



 蘇芳はそろそろと重いドアを開き書斎に入る。

「あ…あの直輝のコト‥ 何か分かったのかと…?」

 アーサーの荒々しい怒鳴り声に怯え、微かに震えながら蘇芳はジロリと睨まれ、自分が早とちりしたコトに気付く。


「邪…邪魔してごめんなさい!」

 腰を直角に曲げて蘇芳は頭を下げて謝罪した


「まだ警察から連絡は無い」

 慌てて顔を上げアーサーを見ると、彼の無表情に心底怯え…


「本当に…ごめんなさい!」

 慌てて書斎から出て行こうとするが、アーサーは背後か蘇芳の腕を掴み、グルリと向きを変える。

 ずれた眼鏡を奪い蘇芳の動きを封じるように、両肩をグローブのような大きな手でアーサーが押さえられた。
 
「許し‥ てくだ‥ さい…!」

 涙目で蘇芳は訴えるが、甘い相手ではない。


「ダメだ許さない! 責任を取ってもらう」

 アーサーに震えるアゴを掴まれ、視線を外せないよう、蘇芳の顔を上向きにして固定された。



「許して欲しければ 私の愛人になれ!」







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