英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第2章 コテージ編

47話 濃霧 前編

 空を見上げると、雲間に月が見えた。


 街中と違いコテージの灯り以外は真っ暗で、雲が無ければもっと星が綺麗に見えていただろう。

「残念… 星はダメでも月は綺麗…」


 月明りを頼りに、蘇芳はコテージ前の林へと続く道を進んで行く。

 ウールのシャツとセーターだけでは、オシャレだけれどさすがに寒く、胸の前で腕を組み脇をギュッ… と締めた。

「こんな気分の時は空手の稽古をして、頭の中を静かにさせたい…」
 
 とにかく1人になりたくて、アーサーが追いつく前にずんずん道を歩き進む。

 イライラと考え事をしているせいで、注意力散漫さんまんになり自分が進むごとに、どんどん霧が濃くなっていくコトに蘇芳は気付かなかった。



 林を抜けると湖に出た。

 ココが霧の発生源だ。

 湖に突き出た木製の桟橋さんばしを何の躊躇ちゅうちょも無く蘇芳は歩き進む。

 小さなさざ波が、桟橋さんばしを支える柱に当たり、チャプッ… チャプッ… と水音がする。

「アーサー… すごく怒ってた… でも僕だって怒っているからね!」

 ゼフィロスで聞いたシャイデマンの話、一ヶ月前の蘇芳なら信じなかっただろう。

 でも今は、アーサー本人に避けられたり、無視されたりして…
 蘇芳は傷つき不安になり、何を信じて良いのか分からなくなっていた。

「苦しいね… 苦しいよぉ…」

 ため息をつき、月明りのせいで幻想的な雰囲気の、濃霧が漂う湖をゆっくりと見まわす。

「"一寸先いっすんさきは闇"  じゃなくて霧だから… "五里霧中ごりむちゅう" のがピッタリかな?」

 この時初めて、蘇芳は霧の濃さに気付きドキリッ… とする。

「帰ろう… 寒いし」

 濃霧で何も見えないコテージを振り返り、蘇芳は桟橋を引き返した。









 ライトで霧が漂う道を照らし、もう一方の手に蘇芳のコートを掛け、イライラと足早に進むアーサー。

「何も見えない! こんな夜に1人で慣れない土地を出歩くとは… 帰ったらお仕置きだからな蘇芳!」


 湖の近くまで来ると、叫び声が聞こえた気がして、立ち止まり耳を澄ますが何も聞こえない。

「・・・っ!」

 もしや? と慌ててアーサーは走り出した。

「蘇芳―――ッ!!」

 大声で呼ぶが返事は無い。

 自分の息遣いと、湖の奥で大きな水音がするのがかすかに聞こえた。

「クソッ落ちたのか?! 蘇芳―――っ!!」

 大声で叫びながら桟橋を進むが…
 霧でぬれた桟橋はスベりやすく、アーサーは何度も転びそうになった。

 桟橋の端まで行くが蘇芳の姿はドコにも無い。

 引き返そうとした時、湖からコポコポと音がして…
 2,3m先で泡が水面に上がる。

「蘇芳… クソッ…! そんなダメだ!」

 迷うことなくアーサーは、コートとセーターを脱ぎ、ライトを持ったまま湖に飛び込んだ。

「ドコだ蘇芳! …蘇芳!」
 
 身を切るような冷たい水中に潜りライトで照らす。

 白っぽい物が一瞬見えたが、防水でないライトが消え、暗闇の中をアーサーは手探りで捜す。

 息継ぎをし、更に深く潜り手探りをする手に何かが触れ、慌てて掴んで引き寄せた。


「蘇芳!! 蘇芳―――っ!! 蘇芳―――っ!!!」

 桟橋に上げて、頬をパンッ… パンッ… と叩き名前を呼ぶが反応が無い。
 
 頭の額から上部に手を当て… アゴの先を上げ気道を確保し、胸を見ながら口と鼻に耳を寄せると…
 蘇芳の呼吸が停止していた。

「息をしろ蘇芳!  こんなところで死ぬ気か!?  ドジが過ぎるぞ!!」
 
 鼻をつまみ鼻孔を塞ぎ、口からゆっくり胸がふくらむように息を吹き込む。

 2回やって再び呼吸音を聞く。
 
「反応が無い!!」

 服をめくり胸を出し、心臓マッサージをするための位置を探しながら叫ぶ。

「頼むから呼吸してくれ!  目を開けて私を見ろ! 好きなだけ愛してやる! 一生側にいても良い! 全財産やるから! 息を吸え蘇芳! 息を吸え!! クソ―――ッ!!!」

 手を組んで胸骨をグッ… グッ… グッ… と押したとき、蘇芳がゴボッと水を吐き出した。

 水が気管に入らないよう顔を横に向け、ゴホッ… ゴホッ… とせきき込む蘇芳の背中をさする。


「良い子だ… 良い子だ… 蘇芳、勝手にドコにも行くな… 私を置いて行くからイケナイのだ…!」

 額に、頬に、頭にキスをしながら、自分に言い聞かせるように、アーサーはささやいた。




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