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第2章 コテージ編
49話 命の恩人
蘇芳はベッドに横たわったまま、ベッド脇の椅子に座る医師と看護師の説明を聞いていた。
「脳機能も正常、水中にいた時間の短さが幸いした… 奇跡だね、霧深い夜の湖に沈んだ人間を見つけ出したコトも、その後の処置も、素晴らしい命の恩人に感謝し、これからは彼の言うコトを聞き危険行為はしないコト」
「はい」
…"命の恩人" 心の中で蘇芳は、その意味を噛みしめた。
落ち込む蘇芳をアーサーは腕組みし無表情で見つめている。
「フェアリーの助けもあったのよ!」
その場の空気を穏やかにするためか、ニコニコと看護師の女性がほほ笑み口を開いた。
「Mr.ギルボーンの勇気と判断力が救ったのだ、この町の住民は良いコトは全部、フェアリーの贈り物だと言い、人間の功績を軽んじる傾向があるようだ」
あきれ顔で医師は、散々聞かされウンザリしている様子だ。
「ですから、Mr.ギルボーンが善人だからフェアリーも手を貸したに決まってますよ!」
医師と看護師がにぎやかに言い争う中、蘇芳は無表情のアーサーと目が合う。
「医師と相談したのだが、君は1日病院で静養すると良い、明日迎えに来るから」
「…迎え?」
「私は今夜ロンドンへ帰らなければならない」
「僕も… 一緒に‥帰ります」
<そんな手間をかけなくても… 一緒に帰れば手間が省けるし>
いつの間にか医師と看護師も言い争いを止めて、蘇芳とアーサーの話を聞いていた。
「ダメだ! 無理して寮に戻っても疲れるダケだ… 君は数時間前に死にかけた身だぞ?!」
「Mr.ギルボーンを困らせてはイケナイ」
医師が蘇芳の肩に手を置き穏やかに諭す、看護師も困り顔だ。
「・・・っ」
アーサーがすごく疲れた顔をしているのに気付き、蘇芳は青ざめた。
<…コレ以上迷惑をかけたくないダケなのに、ごめんなさい! ごめんなさい!>
蘇芳は力無くうなずいた。
「側にいられなくて悪いな蘇芳」
ベッドの脇に立ち、アーサーは上掛けを掴む蘇芳の手を大きなで包み込んだ。
アーサーの掌は傷だらけで、蘇芳は思わず手を掴みよく見ると…
大きな掌にいくつも黒い刺が入っている。
サッと手を引きアーサーは蘇芳の頭を子供のように撫でる。
<…迷惑ばかりかけて恥ずかしい! 僕は利己的で我儘ばかり言って>
目頭が熱くなり涙がにじみ、蘇芳はうつむいたまま顔を上げられなくなる。
その夜、病室で1人ボンヤリしていると訪問者があらわれた。
「今晩は、お加減はいかがですか?」
小柄でぽっちゃりした女性が、バスケット片手に現れた。
「…はい?」
ショートの黒髪に、青い瞳で30代ぐらいで…
ニコニコと陽気に微笑む姿が、イタズラ好きな小妖精みたいで素敵な人だ。
「先生に許可をもらったので、お食事を持ってきました… 焼きたてパンとスープだけど食べられるかしら?」
バスケットからイイ香りがして、グゥ~とタイミングよく腹が鳴り赤くなる。
「…はい」
「良かった! Mr.ギルボーンのコテージを管理しているメイソンです、あなたの荷物を持って来たので後で運びますね」
「ああ… ありがとうございます」
<コテージで食べた食事を作ってくれた人だ>
「さぁ、温かいうちに召し上がれ! 私はお湯を貰って来ます」
手際よくスープとパンを並べ、Mrsメイソンはデザートのプディングまで出した。
「頂きます」
Mrsメイソンは2つのマグカップにティーバックをいれ、部屋を出ていく。
落ち着いて食べられるよう、蘇芳を1人にしてくれたのか…
食事を食べ終えた頃、Mrsメイソンが戻って来た。
「とても美味しかったです」
ハーブティのカップを渡され、蘇芳はお礼を言って受け取った。
指輪が光る左手にマグカップを持ち、ベッド脇の椅子に座るMrsメイソン。
「嫌いにならないで下さいね… 湖のコト」
「はい」
即答はしたが、微妙な気分の蘇芳。
「フェアリー・ゲート湖という名称ですが、あの湖は伝説の中心地なんです」
「知りませんでした」
「湖から出る濃霧が妖精伝説を多く生み出した要因だと、民俗学の先生が本を出版してるほどで…」
看護師がフェアリーのコトで昼間騒いでたのを、蘇芳は思い出した。
「あの湖はこの辺りで一番の観光名所なんです… 神秘的で美しいでしょう?」
「残念だけど濃霧でよく見えなくて…」
「まあ、ゴメンナサイ! 本当に災難でしたね… でも話だけでも聞いて下さいね!」
「はい」
Mrsメイソンの熱意に蘇芳は苦笑する。
「ほんの数年前までこの町はサビれる一方だったのを、Mr.ギルボーンがフェアリー伝説を目玉に観光客を呼ぶ方法を考えて下さり資金まで出して下さったの」
「アーサーが?」
「町の救世主なんです… 気難しいグレイ・フォール伯爵にフォグランド・ホールの一般公開を説得してくれましたし」
アーサーの伯父オリバーが、爵位を継いだと、蘇芳は以前トーマスに聞いてた。
この地はギルボーン家の本拠地でもあるらしい。
「Mr.ギルボーンは他にもたくさんの偉業を成し遂げたのですよ」
「アーサーはそういう話、してくれないから」
「自慢話に聞こえると思ったからではないかしら? プライドの高い方だから」
「そうですね」
<…以前はもっと話をしてくれたのに、今はほとんどしてない…
僕の相手が面倒になったのでは?
僕は足手まといで我儘だから?
別に良いパートナーを見つけたから?>
落ち込みたくなど無いのに、どうしても蘇芳は落ち込んでしまう。
<…迷惑をかけたから、どんな理由でも、どれだけ辛くても僕はアーサーが決めたコトを、受け入れなければイケナイのに… 心が嫌だ! 嫌だ! と我儘を言って、胸が痛む>
痛む胸を押さえて、蘇芳は目を閉じる。
<だけど、パリの愛人についてダケは、どうしても一言、文句を言いたくてたまらない!>
「脳機能も正常、水中にいた時間の短さが幸いした… 奇跡だね、霧深い夜の湖に沈んだ人間を見つけ出したコトも、その後の処置も、素晴らしい命の恩人に感謝し、これからは彼の言うコトを聞き危険行為はしないコト」
「はい」
…"命の恩人" 心の中で蘇芳は、その意味を噛みしめた。
落ち込む蘇芳をアーサーは腕組みし無表情で見つめている。
「フェアリーの助けもあったのよ!」
その場の空気を穏やかにするためか、ニコニコと看護師の女性がほほ笑み口を開いた。
「Mr.ギルボーンの勇気と判断力が救ったのだ、この町の住民は良いコトは全部、フェアリーの贈り物だと言い、人間の功績を軽んじる傾向があるようだ」
あきれ顔で医師は、散々聞かされウンザリしている様子だ。
「ですから、Mr.ギルボーンが善人だからフェアリーも手を貸したに決まってますよ!」
医師と看護師がにぎやかに言い争う中、蘇芳は無表情のアーサーと目が合う。
「医師と相談したのだが、君は1日病院で静養すると良い、明日迎えに来るから」
「…迎え?」
「私は今夜ロンドンへ帰らなければならない」
「僕も… 一緒に‥帰ります」
<そんな手間をかけなくても… 一緒に帰れば手間が省けるし>
いつの間にか医師と看護師も言い争いを止めて、蘇芳とアーサーの話を聞いていた。
「ダメだ! 無理して寮に戻っても疲れるダケだ… 君は数時間前に死にかけた身だぞ?!」
「Mr.ギルボーンを困らせてはイケナイ」
医師が蘇芳の肩に手を置き穏やかに諭す、看護師も困り顔だ。
「・・・っ」
アーサーがすごく疲れた顔をしているのに気付き、蘇芳は青ざめた。
<…コレ以上迷惑をかけたくないダケなのに、ごめんなさい! ごめんなさい!>
蘇芳は力無くうなずいた。
「側にいられなくて悪いな蘇芳」
ベッドの脇に立ち、アーサーは上掛けを掴む蘇芳の手を大きなで包み込んだ。
アーサーの掌は傷だらけで、蘇芳は思わず手を掴みよく見ると…
大きな掌にいくつも黒い刺が入っている。
サッと手を引きアーサーは蘇芳の頭を子供のように撫でる。
<…迷惑ばかりかけて恥ずかしい! 僕は利己的で我儘ばかり言って>
目頭が熱くなり涙がにじみ、蘇芳はうつむいたまま顔を上げられなくなる。
その夜、病室で1人ボンヤリしていると訪問者があらわれた。
「今晩は、お加減はいかがですか?」
小柄でぽっちゃりした女性が、バスケット片手に現れた。
「…はい?」
ショートの黒髪に、青い瞳で30代ぐらいで…
ニコニコと陽気に微笑む姿が、イタズラ好きな小妖精みたいで素敵な人だ。
「先生に許可をもらったので、お食事を持ってきました… 焼きたてパンとスープだけど食べられるかしら?」
バスケットからイイ香りがして、グゥ~とタイミングよく腹が鳴り赤くなる。
「…はい」
「良かった! Mr.ギルボーンのコテージを管理しているメイソンです、あなたの荷物を持って来たので後で運びますね」
「ああ… ありがとうございます」
<コテージで食べた食事を作ってくれた人だ>
「さぁ、温かいうちに召し上がれ! 私はお湯を貰って来ます」
手際よくスープとパンを並べ、Mrsメイソンはデザートのプディングまで出した。
「頂きます」
Mrsメイソンは2つのマグカップにティーバックをいれ、部屋を出ていく。
落ち着いて食べられるよう、蘇芳を1人にしてくれたのか…
食事を食べ終えた頃、Mrsメイソンが戻って来た。
「とても美味しかったです」
ハーブティのカップを渡され、蘇芳はお礼を言って受け取った。
指輪が光る左手にマグカップを持ち、ベッド脇の椅子に座るMrsメイソン。
「嫌いにならないで下さいね… 湖のコト」
「はい」
即答はしたが、微妙な気分の蘇芳。
「フェアリー・ゲート湖という名称ですが、あの湖は伝説の中心地なんです」
「知りませんでした」
「湖から出る濃霧が妖精伝説を多く生み出した要因だと、民俗学の先生が本を出版してるほどで…」
看護師がフェアリーのコトで昼間騒いでたのを、蘇芳は思い出した。
「あの湖はこの辺りで一番の観光名所なんです… 神秘的で美しいでしょう?」
「残念だけど濃霧でよく見えなくて…」
「まあ、ゴメンナサイ! 本当に災難でしたね… でも話だけでも聞いて下さいね!」
「はい」
Mrsメイソンの熱意に蘇芳は苦笑する。
「ほんの数年前までこの町はサビれる一方だったのを、Mr.ギルボーンがフェアリー伝説を目玉に観光客を呼ぶ方法を考えて下さり資金まで出して下さったの」
「アーサーが?」
「町の救世主なんです… 気難しいグレイ・フォール伯爵にフォグランド・ホールの一般公開を説得してくれましたし」
アーサーの伯父オリバーが、爵位を継いだと、蘇芳は以前トーマスに聞いてた。
この地はギルボーン家の本拠地でもあるらしい。
「Mr.ギルボーンは他にもたくさんの偉業を成し遂げたのですよ」
「アーサーはそういう話、してくれないから」
「自慢話に聞こえると思ったからではないかしら? プライドの高い方だから」
「そうですね」
<…以前はもっと話をしてくれたのに、今はほとんどしてない…
僕の相手が面倒になったのでは?
僕は足手まといで我儘だから?
別に良いパートナーを見つけたから?>
落ち込みたくなど無いのに、どうしても蘇芳は落ち込んでしまう。
<…迷惑をかけたから、どんな理由でも、どれだけ辛くても僕はアーサーが決めたコトを、受け入れなければイケナイのに… 心が嫌だ! 嫌だ! と我儘を言って、胸が痛む>
痛む胸を押さえて、蘇芳は目を閉じる。
<だけど、パリの愛人についてダケは、どうしても一言、文句を言いたくてたまらない!>
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