竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット

文字の大きさ
3 / 114

2話 学園生活2

しおりを挟む


 お腹を殴られ、ぐったりとしたアルセは… アルファたちに引きずられながらも、弱々しい声で抵抗し続けた。


「放せ……! 放せ……! 僕は… 尻軽じゃない…っ! こんなバカなことは… 止めろ…っ! ううっ… くぅ……」
 何で僕がこんな目にあわなければ、いけないんだ…っ?! 僕は何も悪いことなんて、していないし… 誰かに侮辱ぶじょくされるようなことも、していない! なのに…… こんなの変だよ! 絶対におかしいよ!



 1年ほど前にアルセの両親、先代のクルシジョ子爵夫妻と弟が乗った馬車が、強盗に襲われ家族3人が亡くなり… 学園で寮生活をしていたアルセだけが難を逃れた。 

 その後、叔父がクルシジョ子爵を継ぐと… アルセはさらなる不幸に襲われる。
(※爵位の継承はアルファにのみ認められている)

 叔父の息子で1歳年下の従弟、オメガのムゲーテが突然アルセに牙をいたのだ。


 一番人が多い昼食の時間を狙って、学園の食堂で従弟のムゲーテは、赤くれた頬を押さえながら、悲し気に涙を流し… アルセの婚約者マンディブラ伯爵家の長男リブレに、アルセの裏切りを告白した。

『夜中に学園の寮を抜け出して、アルセお兄様が恋人と会ってみだらな行為をしているのです! だから僕は、アルセお兄様に婚約者のリブレ様がお可哀そうだから、止めて欲しいとお願いしたら… 火がついたみたいに怒りだし… いきなり僕の頬を殴って…っ!』

 人の多い食堂をアルセが普段から使わないのも、狡賢ずるがしこい従弟のムゲーテは計算に入れ… アルセ本人がその場で反論できないよう、不在の時と場所を選んで計画を実行したのだ。

『アルセ… 何て奴だ!! 以前からあいつは、ふしだらな尻軽ではないかと、疑っていたんだ! やっぱりオレの予想通りだったな! 父上にこのことを報告して、アルセとの婚約を破棄してやる!!』


 とても美しいが人目をひく、アルセの赤みがかった派手な金髪と、珍しい紅玉色ルビーレッドの瞳を… 婚約者のリブレは“ふしだらで生意気そうに見える” …と、嫌っていた。 
 何よりアルセはオメガにしてはすらりと背が高く… 細身の身体だが、男性ベータとあまり変わらない体格をしている。
 アルセの容姿はベータ男性に比べると、はるかに優雅で端麗たんれいだが、一般的なオメガ特有の華奢きゃしゃで可愛らしい印象が薄い。
 ごくごく平凡なアルファの容姿をしているリブレでは、アルセの隣に立つと見劣みおとりしてしまうのだ。


『そんな… リブレ様、どうかアルセお兄様を許してやって下さい! だってお兄様はご両親と弟を亡くしてから、その寂しさを慰めて欲しくて… 町に出て恋人を作ったみたいだから…』

『本当にムゲーテは優しいなぁ… だが、いくら従兄でもあんな尻軽オメガを、かばってやる必要なんてないからな!』

『そんな… リブレ様…! アルセお兄様を悪く言わないで… 彼は寂しいだけなんです!』

『気にするな、ムゲーテ! ふしだらで尻軽なオメガが好きな奴は、いくらでもいるから… オレでなくても他の誰かが、慰めてくれるさ! 結婚する前にアルセが不誠実な奴だとわかって良かったよ!』

 この一件以来、汚名を着せられたアルセのそばから友人はいなくなり、学園中でふしだらな尻軽オメガだと、陰口をたたかれ… 誰もアルセの言葉に耳をかたむけなくなった。

 
「・・・・・・」
 僕もずっと、彼のことを… 元婚約者リブレのことを… 疑っていた。
 もしかして、従弟のムゲーテと付き合っているでは? …と。
 だって普段から、2人だけで仲よく買い物に出かけたり、昼食も一緒だったし… それに、ムゲーテの髪は僕とは違って、桃色がかった優しい色の金髪で、大きな瞳は淡い水色… 目に見えない部分が狡猾こうかつでどす黒くても、ムゲーテの見た目はすべてリブレ好みの、小柄で可憐かれんな可愛らしい容姿をしているし…
 ムゲーテとリブレの方が、ずっと尻軽じゃないか!!

 婚約破棄が成立するとアルセの予想通り、リブレとムゲーテはすぐに婚約した。
 アルセは2人に、はめられたのだ。



 乱暴者のアルファたちに引きずられながら、アルセは従弟と元婚約者に、共謀きょうぼうしてだまされ裏切られたことを思い出し、紅玉色ルビーレッドの瞳に涙がにじむ。


 いまだにそのことを思い出すたびに、アルセは悔しくて… 悔しくて… 涙がこぼれそうになるのだ。

 アルセは気力をふりしぼって、涙をこらえた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

処理中です...