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2話 学園生活2
しおりを挟むお腹を殴られ、ぐったりとしたアルセは… アルファたちに引きずられながらも、弱々しい声で抵抗し続けた。
「放せ……! 放せ……! 僕は… 尻軽じゃない…っ! こんなバカなことは… 止めろ…っ! ううっ… くぅ……」
何で僕がこんな目にあわなければ、いけないんだ…っ?! 僕は何も悪いことなんて、していないし… 誰かに侮辱されるようなことも、していない! なのに…… こんなの変だよ! 絶対におかしいよ!
1年ほど前にアルセの両親、先代のクルシジョ子爵夫妻と弟が乗った馬車が、強盗に襲われ家族3人が亡くなり… 学園で寮生活をしていたアルセだけが難を逃れた。
その後、叔父がクルシジョ子爵を継ぐと… アルセはさらなる不幸に襲われる。
(※爵位の継承はアルファにのみ認められている)
叔父の息子で1歳年下の従弟、オメガのムゲーテが突然アルセに牙を剥いたのだ。
一番人が多い昼食の時間を狙って、学園の食堂で従弟のムゲーテは、赤く腫れた頬を押さえながら、悲し気に涙を流し… アルセの婚約者マンディブラ伯爵家の長男リブレに、アルセの裏切りを告白した。
『夜中に学園の寮を抜け出して、アルセお兄様が恋人と会って淫らな行為をしているのです! だから僕は、アルセお兄様に婚約者のリブレ様がお可哀そうだから、止めて欲しいとお願いしたら… 火がついたみたいに怒りだし… いきなり僕の頬を殴って…っ!』
人の多い食堂をアルセが普段から使わないのも、狡賢い従弟のムゲーテは計算に入れ… アルセ本人がその場で反論できないよう、不在の時と場所を選んで計画を実行したのだ。
『アルセ… 何て奴だ!! 以前からあいつは、ふしだらな尻軽ではないかと、疑っていたんだ! やっぱりオレの予想通りだったな! 父上にこのことを報告して、アルセとの婚約を破棄してやる!!』
とても美しいが人目をひく、アルセの赤みがかった派手な金髪と、珍しい紅玉色の瞳を… 婚約者のリブレは“ふしだらで生意気そうに見える” …と、嫌っていた。
何よりアルセはオメガにしてはすらりと背が高く… 細身の身体だが、男性ベータとあまり変わらない体格をしている。
アルセの容姿はベータ男性に比べると、はるかに優雅で端麗だが、一般的なオメガ特有の華奢で可愛らしい印象が薄い。
ごくごく平凡なアルファの容姿をしているリブレでは、アルセの隣に立つと見劣りしてしまうのだ。
『そんな… リブレ様、どうかアルセお兄様を許してやって下さい! だってお兄様はご両親と弟を亡くしてから、その寂しさを慰めて欲しくて… 町に出て恋人を作ったみたいだから…』
『本当にムゲーテは優しいなぁ… だが、いくら従兄でもあんな尻軽オメガを、庇ってやる必要なんてないからな!』
『そんな… リブレ様…! アルセお兄様を悪く言わないで… 彼は寂しいだけなんです!』
『気にするな、ムゲーテ! ふしだらで尻軽なオメガが好きな奴は、いくらでもいるから… オレでなくても他の誰かが、今まで通り慰めてくれるさ! 結婚する前にアルセが不誠実な奴だとわかって良かったよ!』
この一件以来、汚名を着せられたアルセのそばから友人はいなくなり、学園中でふしだらな尻軽オメガだと、陰口をたたかれ… 誰もアルセの言葉に耳を傾けなくなった。
「・・・・・・」
僕もずっと、彼のことを… 元婚約者リブレのことを… 疑っていた。
もしかして、従弟のムゲーテと付き合っているでは? …と。
だって普段から、2人だけで仲よく買い物に出かけたり、昼食も一緒だったし… それに、ムゲーテの髪は僕とは違って、桃色がかった優しい色の金髪で、大きな瞳は淡い水色… 目に見えない部分が狡猾でどす黒くても、ムゲーテの見た目はすべてリブレ好みの、小柄で可憐な可愛らしい容姿をしているし…
ムゲーテとリブレの方が、ずっと尻軽じゃないか!!
婚約破棄が成立するとアルセの予想通り、リブレとムゲーテはすぐに婚約した。
アルセは2人に、はめられたのだ。
乱暴者のアルファたちに引きずられながら、アルセは従弟と元婚約者に、共謀してだまされ裏切られたことを思い出し、紅玉色の瞳に涙がにじむ。
いまだにそのことを思い出すたびに、アルセは悔しくて… 悔しくて… 涙がこぼれそうになるのだ。
アルセは気力をふり絞って、涙をこらえた。
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