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37話 襲撃
しおりを挟む広大な敷地を持つグラーシア公爵邸は、上位貴族たちの邸宅がならび息苦しく見える、王宮がある王都の一等地からは、少し離れた場所にある。
……それはつまり、人の目をあまり気にする必要の無い、解放感のある場所に、グラーシア公爵邸はあるという意味で、そんな事情を悪用しての襲撃だった。
「襲撃だ!」
「襲撃…?!」
「どうやら、我々の馬車を追って来た者たちがいるようだ… 人数は7人だと護衛騎士がサインで伝えて来たから、間違いなく襲撃だろう」
窓の外をのぞいた時に、護衛騎士とエスパーダとの間で、言葉は使わなくても手や指のサインだけで、情報の伝達をしていたのだ。
「一体誰が…… もしかして、コルティナ侯爵… ですか?」
恐怖で声を震わせながら、アルセがたずねると…
「夜会であっさり引いたと思ったら、コルティナ侯爵は、こういう汚い計画を立てていたらしいな… グラーシア公爵家にケンカを売るとは、良い度胸だ!」
ゆれる馬車の中で、エスパーダは座席の座面を上げて、下にある収納箱から剣を取り出した。 アルセもエスパーダに剣を渡される。
「すみません… 僕がエスパーダ様と、お義母様を巻き込んでしまった!」
これは僕のせいで起きた襲撃なんだ! クソッ…! コルティナ侯爵が、こんなことまでするなんて!!
エスパーダに渡された剣を持つアルセの手が、恐怖でぶるぶると震える…。 その手をエスパーダが、大きな手で上からギュッ… とつかみ、アルセの唇に素早く2回、チュッ…! チュッ…! とキスを落とす。
「アルセ… これぐらいの襲撃なら大丈夫だ! その剣も、ちょっとしたお守り代わりだと思って、持っていれば良い…」
「そうよ、アルセ! 私の息子はこういう時、本当に頼りになるから…」
アルセの隣に座る、先代公爵夫人も震える華奢な手で、アルセの腕をなでた。
「・・・っ!」
僕よりも小柄なお義母様に、なだめられるなんて… 恥ずかしい! もっとしっかりしないと! 僕だって騎士の息子なんだから!! こんな時こそ、お父さまに習った剣術を、頼りにしないと!!
アルセはエスパーダに渡された、どっしりと重い剣の柄をにぎりしめ、感触を確かめた。
再び窓の外をエスパーダがのぞくと、ならんで馬で走る護衛騎士が、しきりに腕をふって、サインを送って来た。
「騎馬よりも馬車の方が、いくら急いでも走るのがおそい…! 襲撃犯たちが、もうすぐ追いつくぞ! 2人ともどこかにつかまれ!」
エスパーダがアルセと先代公爵夫人に、指示を出した直後… 馬車がガタガタッ…! と大きくゆれて、急激に速度が落ちてゆく。
「私が出たら扉を閉めろ! 身体をふせて外から見えないように、隠れていろ! アルセ、絶対に馬車から出るなよ?!」
「は… はい! エスパーダ様もどうかご無事で!!」
エスパーダは馬車が止まる直前に、扉を開けて飛び出した。
アルセは急いで馬車の扉を閉めて、先代公爵夫人を背中でかばいながら剣を鞘から抜き、馬車の床に膝をついてエスパーダの指示通り身体をふせる。
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