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48話 アルセの心意気(こころいき)2 エスパーダside
しおりを挟む寝室で物思いに耽りながら、アルセが戻るのを待っていると…
廊下で言い争う声が聞こえた。
裸の身体に足首まであるローブを羽織り、エスパーダはようすを見ようと自室の扉を開いた。
「こんな真夜中に私の部屋の前で、誰がケンカをしているのだ?」
…と言っても、もうすぐ夜明けだが。
「あっ! エスパーダ様… 僕は部屋に入っても大丈夫だと、護衛騎士さんに言ってやってください!」
アルセは困った顔で、エスパーダに助けを求める。
「ああ…」
戦いを終えた後の私は、ティエーラの竜が戦いで使った力の分を、他人の命を奪って補おうとする。
敵から奪えるだけ力を奪うが… 特に私がケガをした時は傷を修復しようと、さらにティエーラの竜は、大量の力を欲しがる。
そのせいで、まわりにいる人間が危険なんだ! だから戦いの後は、私に誰かが襲われないよう、部屋の前で騎士に見張らせることにしていたのを忘れていた!
実際… 私はアルセから命を吸い取ろうとしたし…。
そう言えば、あの後アルセは気を失ってしまったから、なぜ私に力を吸われて、アルセが無事なのかがわからない…?! あのままアルセが死んでしまっても、おかしくない状況だったのに?! …なぜだ?!
発情で赤く頬を染めているが、アルセの元気そうな顔を見下ろし、エスパーダは首を傾げた。
「あの… エスパーダ様…?」
僕を部屋には入れてくれないの? …とアルセは不安そうに、エスパーダの腕をつかんだ。
「私は大丈夫だ! 今夜はもう下がって良い」
いけない、思わず考えに耽ってしまった! 今はこの場を治めなければ…
「ですが、閣下!」
チラリとアルセを見てから、護衛騎士は心配そうな顔をする。
「今夜は落ち着いているから、危ないことはない… だいじょうぶだ! 遅くまでご苦労だったな、自室へ戻って休んでくれ!」
付き合いの長い護衛騎士たちは… 私が後悔することにならないようにと、私を気づかい心配してくれる。
本当になぜかは分からないが、今夜は大丈夫だから!
エスパーダは護衛騎士の肩をトンッ… トンッ… とたたいて労いの言葉をかけた。
ジッ… とエスパーダの金の瞳を見つめた後、大丈夫だと判断したらしく、護衛騎士はうなずく。
「わかりました、では失礼します」
命令にしたがい、護衛騎士はその場を去った。
ふたたび自室に招き入れると、アルセは居間のテーブルに、小さな革袋を置いた。
「これは何だ?」
「お義母様が用意して下さった、避妊薬です」
「母上が?!」
ああ、そうか! 母上にアルセの抑制剤を用意してくれるように、頼んだ時に… 一緒に避妊薬も手配したのか…! 私が自分の血を残したくないから、子供は作らないと… グラーシア公爵夫人の母上なら、その気持ちが理解できるはずだと、母上にだけは話してあるから…
テーブルの上に置かれた、水差しからゴブレットに水をそそぎ、アルセは革袋から避妊薬の包みを出して、エスパーダの目の前で飲んで見せた。
「・・・・・・」
本当にアルセは誠実で、心が真っすぐな子だ!
さっきは欲望に流さて… アルファの本能のまま、アルセを抱いてしまわなくて良かった…!
アルセがここまで、自分の真心を見せてくれたのだから…
やはり伝えなければ、ずっと、アルセに伝えるのを先延ばしにして来たあのことを… 今こそ話さなければ!
アルセを連れ戻そうとした、クルシジョ子爵が話したことの真相を……
『年を重ねるごとに心が病んでゆき、いずれは血に飢えた獣のように、人を惨殺することに喜びを感じるような、怪物になると言っているのだ!』
「・・・・・・」
そして… 私の話を聞いた後、少しでもアルセの紅玉色の瞳に、迷いが浮かんだら……?
私は今度こそアルセを諦めて、白い結婚をつらぬく!
それだけは相手がアルセ自身でも、絶対にゆずれない!
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