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80話 誘拐
しおりを挟むゴツンッ…! と何かに身体をぶつけて、アルセは目が覚めた。
だが目覚めたとたん、ガンガンッ… と頭を殴られ続けているようなひどい頭痛に襲われ… うめき声をあげる。
「ううっ… くっ… なんでこんなに、頭が痛むんだ? ああ…クソッ…?! 痛っ…ううくっ!!」
そうだ! 学園で卒業試験を終えて… それから帰ろうと学舎の玄関ホールへむかっていたら、コルティナ侯爵家のジャベたちに会って… それから… それから…?! ダメだ!! そこから何もおぼえていないよ?!
痛むのは頭だけではなかった。
腕を背中にまわして縛られていたため、腕のほうもひどく痛んだ。
「クソッ…! ジャベのやつ…… 痛っ……」
ああ… 自分の声まで頭にひびいて痛いよ… ああ、もう!! 悔しい、油断した!!
ガタガタと身体がゆれていて、かたい床にアルセは転がされているようだった。
自分がどこにいるのかを、確認しようと首をまわすと… どうやらアルセは馬車の中にいて、どこかに運ばれている途中らしい。
「・・・っ?!」
僕を誘拐するために、ジャベたちが馬車まで用意したのか? いくらなんでも… ただの学生がそこまでするかなぁ? んんん…?!
ふいに先日会った、王弟殿下の話が頭に浮かび… アルセは青ざめた。
『カンナスにそっくりな、アルセにも執着するのではないかと… 私は思うのだが』
「・・・・・・」
そうだ!! 若い頃から、お母様に執着していたコルティナ侯爵が… お母様とよく似ている僕にも、執着しているのではないか? …と王弟殿下は言っていた!
今… 僕は、ジャベたちではなくて、父親のコルティナ侯爵に誘拐されたのではないの?!
僕を愛人にできなくなっただけで、夜会の帰りにお義母様も乗っていた、僕たちの馬車を襲撃させるような卑劣な人間が… 僕を誘拐したのなら?!
それに… 叔父様を殺したのもたぶん、コルティナ侯爵らしいし?
この状況は、命の危険があるということにならない?
ゲス野郎のジャベたちなら、さすがに後が大変だから、僕を殺したりはしないだろうけれど……
「……ここから、逃げないと!! 早く逃げないと!!」
僕はもうエスパーダ様の“番”だから、僕はエスパーダ様以外のアルファを受け入れられない! コルティナ侯爵が、誘拐してまで連れ出した僕が、自分の愛人にできないと知ったら…? きっと殺される!!
背中で縛られた腕を必死に動かしてみるが… ギチギチにきつく縛られた縄がゆるむ気配はない。
それでも、今は自分の命がかかっているのだから、あきらめずにアルセは腕を動かした。
ガタガタと揺れていた馬車がゆっくりと止まった。
「・・・っ!」
止まった?! 目的地についたの? ああ、クソッ… どうしよう?! 縄は取れないし…!
ガチャッ…! と馬車の扉が開けられた。アルセはとっさに目を閉じて、まだ気を失っているフリをした。
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