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13話 灰色の悪魔
しおりを挟む朝食を摂ろうと、カチャンを連れてアイルが半地下にある台所へ行くと、村から来た女性が丁度、焼きあがったパンを窯から出していた。
パダムの話を聞き、コレ以上女性を驚かせては気の毒だと、パンを全部窯から出し終え、火掻き棒を竈の脇に置くまで黙って待ってから、アイルは声を掛けた。
「おはようございます、とても美味しそうな香りですね?」
アイルは慎重に、落ち着いた声で話し掛けた。
予想通り、女性はビクつき、アイルの声で飛び跳ねていた。
竈の熱で、丸くふくよかな顔を、真っ赤にした女性は、アイルの顔を見て、ホッとした様子だ。
「まあっ!! おはようございます …奥様ですね? 近くのカンプン村から来たエナックと申します」
小柄でふくよかな身体を曲げ、ペコリとお辞儀をする。
「奥様っ!?」
ギョッとするアイル。
「オバット伯爵様にお聞きしておりますよ、コチラで旦那様のお怪我が治るまで、ご夫婦でお暮しになられると・・・ んまぁ!! 可愛らしい坊ちゃまも、ご一緒でしたか!!」
カチャンは初めて会う女性に、恥ずかしがってアイルの背中に隠れてしまう。
「は・・・はい? こ…この子はカチャンで、私はアイルと申します」
<旦那様?! お、お兄様はパダム様と私を夫婦だと言ったのね?!>
「お食事はどうされますか? お部屋で召し上がりますか?」
エナックはニコニコと微笑みながら、前掛けで汚れた手をゴシゴシと拭き、パタパタと足音を立てて、アイルとカチャンの前まで来た。
台所の真ん中に備え付けてある、大きな調理用のテーブルをアイルはチラリと見て…
「ココで頂いても良いかしら?」
エナックにニコリと微笑みながら聞くと…
「はい! スグにご用意しますね」
エナックは2人分のパンを切って、お皿に並べると、肉と野菜がたっぷり入ったシチュウを鍋から木製の器にもり、手際良くスプーンとバターと蜂蜜を並べると、牛乳を注いでパンの横にに置く。
台所から出て、向かい側にある使用人用の食堂から、エナックは簡素な椅子を2脚ガタゴトと運んで来て、調理用のテーブルの前に置き、ぼろ布でザっと拭いた。
「さあ、どうぞ!」
「どうもありがとう」
カチャンと2人で並んで座ると、神に祈りを捧げて食事に手を付ける。
「そうそう、奥様、今朝がたココに来た時、灰色の悪霊が居たのです!」
エナックは両手を組み合わせ、神に祈るように怯えた顔をする。
「グフッ――っ!!」
アイルは口に入れた牛乳を、吹き出しそうになった。
<ソレはパダム様のコト?! パダム様のコトよね?!>
牛乳を吹き出す前に、アイルは口を押さえてゴクリと呑み込み…
少しだけ鼻から出た牛乳を、エナックに見つかる前にサッと指で拭った。
「悪… 悪霊?」
何と答えてよいやら、アイルは悩む。
「もう、恐ろしくて、恐ろしくて!! 神の名を唱えて、祈りを捧げたら退散したので… もしも、奥様も悪霊に出会った時は、そうなさるとよろしいですよ」
「あああ―――… エナック?」
<その灰色の悪霊が、旦那様だと伝えたら、怖がって明日から来てもらえなくなるかしら?>
「はい、ウソではありませんよ?! 本当に恐ろしくて恐ろしくて!!」
「ええ―――っと… エナック?」
<でも、パダム様がお気の毒だし… 何と伝えれば…?!>
「はい、奥様?」
「エナック… その灰色の悪霊は… きっと噛みついたりしないわ」
<あれ? 私は唇に噛みつかれたわね? んん?>
「はい、奥様?」
「いえ、違うわ! 灰色の悪魔は… ええ―――っと… 皮膚の病で… 灰色の薬を塗っている旦那様です」
「…まあっ!!!」
口に手を当てて驚くエナック。
<ウソをついて、ごめんなさい!! エナック! パダム様! でも、魔獣になりかけて灰色だと言うよりはきっとマシなはず? だってそっちの方が、ずっと怖いもの>
何とも微妙な罪悪感に、アイルは襲われた。
「ソレで裸だったのですか?! まあ! まあ! まあ! 私ったら、裸だからてっきり悪霊かと!! お気の毒!!」
「ええ! 服で薬が落ちないように…」
<裸でなければ悪霊扱いされなかったのかしら?>
首を傾げるアイル。
「悪霊にしては、アソコが立派過ぎると思っていたのですよ!!」
ポッとエナックは頬を染める。
怯えていても、ソコを観察するだけの余裕はあったらしいエナック。
「お食事は私が運びますから…」
<ああああ… パダム様、いろんな意味でお可哀そう!>
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