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29話 クラン公爵家3
しおりを挟む激昂しフジャヌを睨みつけ、立ち上がったクラン公爵。
…だが、小さな子供の怯えた泣き声に、冷静さを取り戻し、大きく深呼吸をすると、静かに腰を下ろした。
「ソレで、オバット伯爵… 君たちは何を求めているのだ?」
青ざめた顔で、眉間にシワを寄せクラン公爵は、フジャヌと話を続ける。
「一番は、わが国の安寧です」
先に脅すようなコトをしたフジャヌが言うと、白々しく聞こえるが、けしてウソでも皮肉でもない。
「…何だって?!」
虚を衝かれた公爵は、戸惑いを隠せない様子で、フジャヌは一層笑みを深める。
「う…っ…ひぃ…くぅ…っうう…!」
「カチャン、大丈夫よ…怖くない、怖くない…」
カチャンが本格的に泣き出しそうになり、アイルが宥めようとすると、ホッとしたのか更に大きな声で泣き始め…
「うううっ…! ううっ…! うええっ…!ええっ…!ええっ…!」
「申し訳ありません…! 少し… お庭を散歩して来ても、よろしいでしょうか?」
アイルは膝にカチャンを乗せて、抱きしめながら、公爵とフジャヌに許可を求める。
「ああ、怒鳴ってスマナイ… 驚かせてしまったようだ… 小さい子が喜びそうな菓子でも用意させよう、東屋で待っていなさい」
クラン公爵が謝罪の言葉を口にすると、フジャヌは黙って頷く。
「ありがとうございます公爵様、失礼します」
丁寧に頭を下げ、カチャンを抱いてアイルは部屋を出る。
カチャンを連れて、公爵邸の花が咲き乱れる庭へと出て…
マニスと婚約していた時、何度も来たコトのある庭を、泣きべそをかくカチャンの小さな手を引いてゆっくり歩く。
「ほら見て、黄色い蝶々が飛んでるね」
「ああっ!」
「可愛いね、綺麗だね!」
「蝶々だ! 蝶々だ!」
アッと言う間に機嫌を直す、無邪気なカチャンに、アイルは微笑む。
カチャンのこういう陽気な気質は、妹のミニャックに、似ている気がするからだ。
<お兄様はカチャンをどうする気かしら? まさか、公爵家に渡す気では?! そんなコト絶対に許せない!!>
「まさか… お兄様が気付いているとは、思わなかったわ」
『誰かの幼少時に、ソックリではありませんか?』
<カチャンはマニス様の子…>
蝶々について2人が歩いて行くと、石造りの東屋が見え、その下で長椅子に座る若い女性の姿が目に入る。
<顔が陰になって、よく見えないけど… きっとブラヌ様に違いないわ!>
クラン公爵家にいる、若い貴婦人は2人。
1人はマニスの妻である、アイルの従姉妹アンジン。
もう1人はマニスの妹ブラヌだ。
ゆっくりカチャンと、手を繋いで歩いて行くアイルに気付き、若い貴婦人は顔を上げた。
マニスとよく似た、赤みを帯びた茶色の髪に、暖かな茶色の瞳をしたブラヌ本人だ。
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