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31話 ブラヌ2
しおりを挟むクラン公爵家の子供は、長男マニスと、長女のブラヌの、2人だけだった。
ブラヌの母親、クラン公爵夫人はマニスを溺愛しており、ブラヌのコトはいつも二の次で、ソレは大人になった今も変わらなかった。
「あの人は… お母様にも上手く取り入って… 私の話を捻じ曲げて大袈裟にして話すの」
眉間にシワを寄せて、話すブラム。
「捻じ曲げて?」
「私が、婚約者のパナス・ダラム様は魔力が強い騎士様だから、"会うのが少し怖い" と話したら… あの人は、"野蛮な騎士は、会うのも汚らわしい" と母に告げ口したり…」
悔し気にブラムは隣に座るアイルを見つめ、自分の味わった屈辱の強さを訴える。
「ああ…! アンジンはそういう人だわ、アナタに嫉妬しているのよ」
アイルもブラヌの気持ちはよく分かると何度も頷き、痩せ細った腕を撫でた。
「でも私には… 嫉妬されるようなモノは、何も無いわ!」
ブラヌは学園からは評価されていたのに…
肝心の家族から、努力を評価されるコトが無く、そうやって育った女性だから、いつも自信が無いのだ。
「いいえ、アナタは聡明で誰にでも好かれる人で、魔力も強く、努力家だから」
ブラヌの事情を、少しだけ知っているアイルは、無駄に褒めるのでは無く、正しい評価を口にするよう心掛ける。
「私はただ、公爵家の娘として正しいコトをして来たダケで…」
頬を薄っすらとブラヌは赤らめた。
「アンジンを好きだと言う人に、私は一度も合ったコトが無いわ、ソレに魔法はソコソコでも、学業は落ちこぼれだと、ミニャックが鼻で笑っていたもの!」
アンジンはミニャックとも、本当に仲が悪かった。
「ふふふっ… ミニャック様… 会いたいなぁ…」
昔を思い出し、ブラヌは遠くを見るような瞳で微笑む。
「会えるわよ… ほら、今蝶々を追いかけている!」
アイルは笑いながらカチャンを指差す。
「え?」
「あの子の中にミニャックがいるわ」
「あ… ミニャック様のお子様?」
「カチャン! ブラヌお姉さまが、美味しいお菓子を、下さるそうよ! 蝶々は諦めて、こちらに来なさいな!」
「おかチ…?!」
"お菓子" に反応して、カチャンはぴょこっと首を伸ばし、振り向く。
「お・か・し!」
一文字づつ、言い直すアイル。
きゃぁぁぁぁ―――っ!! と嬉しそうな叫び声を上げて、カチャンが東屋に、パタパタと可愛い足音を立てて、駆けてくる。
「おか~チ! おか~チ! おか~チ~!」
子供らしい妙なリズムを付けて、お菓子をねだる。
「さぁカチャン、ブラヌお姉様におててを出して!」
サッと両手を出した、土で汚れたカチャンの小さな掌を、アイルは濡れた布巾で綺麗に拭くと…
ブラヌは微笑みながら、干した果実を混ぜ込んだ、焼き菓子を乗せる。
パクリと全部口の中へ入れ、カチャンは頬を膨らませて、モグモグと食べる。
「あらあらカチャン、お姉さまにお礼を言わないと、もう一つもらえないわよ?」
「おむむう~あうあふぐううむう~」
口にお菓子を入れたまま、お礼らしき言葉を、もごもごと言うカチャン。
「うふふっ… なんて可愛いのかしら!」
「ねぇ? 陽気に無茶をするところなんて、似ているでしょう?」
「うふふっ… ミニャック様も楽しい時は、よく叫び声を上げていましたね」
「ソレから"あら、失礼! 妖精にお尻を抓られたの" と澄ましていたわよね」
「うふふっ…うっ…ふっ…」
ブラヌはフッと笑った後、また泣き出してしまう。
アイルは泣くのを止めさせず、また背中をゆっくり撫でた。
<繊細なブラヌ様に、アンジンが毎日のように意地悪をしているのね…>
アンジンの口から放たれた毒は、ずっと昔のコトでも… 今だにアイルを蝕む時がある。
『マニス様もお可哀そう! アナタのような、何処にでも落ちている、石のように硬くて平凡な女では、一緒にいても詰まらないでしょうね、ソレに魔法も使えないなんて!』
ブラヌの心は、今にも砕け散りそうな程、傷ついていて…
アイルは何も話せなくなった。
パダムのコトを、どう思っているのかを、尋ねたかったのだ。
<やはり、ブラヌ様はパダム様を怖がっているのは確かだわ… でもソレはブラヌ様自身が傷ついていて、心に余裕が無いからではないかしら?>
嗚咽を漏らすブラヌを、見つめ… 深く、深く、考え込むアイル。
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