呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

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40話 豪傑パナスダラム

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 沈みかけた太陽が、魔獣との戦いで荒れた大地を血のような真っ赤に染める。

 騎士たちの顔が硬く強張るのを横目で見ながら、最後にパダムを見た場所へと急ぐアイル。


 途中で仲間たちと共に、装備を確認するハンガットを見つけ、声を掛けた。

「パダム様はどちらに?」

「アイル様、パダム様? …ああ、パナス・ダラム様なら部隊長たちと編成を組み直しに、あちらへ…」

 ハンガットは人だかりの方を指差す。


「ありがとうございます!」

 人だかりの一番後ろに立ち、アイルが隙間から覗き見ると…

 パダムを中心に騎士たちが集まり、難しい顔で話し合っていて、隣には王都の騎士団長の姿もあった。

 騎士服を見れば、アイルでもその騎士が、何処の騎士団に所属しているかぐらいは見分けられる。

 ただ、パダムだけは騎士団所属ではないゆえに、独自の騎士服で… 1人ダケ異質の存在に見えた。

 恐らく… 生まれ育ったアンギヌ王国にいる時から、着慣れているモノなのだろう。

 騎士服の上に装着した、鎧もまるで形が違う。


 だが、周りにいる騎士たちが向ける、信頼と尊敬に満ちた瞳を見れば、パダムは能力ダケで無く、人望の厚さが窺い知るコトが出来る。



<とても遠い…> 

 大きな人垣の向こう側にいるパダムと、アイルとの身分の差がハッキリ見えた。

 王国の王子と、醜聞騒ぎを起こし隠遁生活を送る娘では妾でも釣り合わない。


 戦いが始まる前に、一言でも言葉を交わせたらと、アイルは怪我人の処置を終え、急いで来たが遠くから姿を見ただけで、側に行くのが怖くなったのだ。


 美しい深紅の瞳、雄々しく角ばった頬や顎、元は紅かったという漆黒の髪、熱くて力強い大きな身体。
 
 アイルはパダムの姿を心に刻み…

<どうかご無事で…! どうか神様… パダム様をお守りください!!>

 細い指を組み合わせ、水色の瞳を閉じると、そのまま祈りを捧げた。



 静かに人だかりから離れ、再びハンガットの所へ戻り、腰に下げた袋から出した飴をパダムの側近たちに一個づつ渡す。

「コレを嘗めて下さい、疲労回復に効きますから」

 柑橘系の果実から搾り、濃縮した果汁と、砂糖で作った疲労回復に最適なおやつだ。

 疲れている時ほど、酸味が美味しく感じるもので、普段食べると逆に酸っぱくて食べられないのだ。

 騎士たちは、喜んで口の中で転がしているから、疲労が蓄積しているのだろう。

 最後の一個を袋に入れたまま、アイルはハンガットに差し出す。

「コレはパダム様に…」

 アイルが最後まで言う前に、長く太い腕に背後から抱きしめられ、言葉が途切れる。

 後ろにいるのが、誰かスグに分かったからだ。 


「酷いぞ、アイル! 私の顔を見てスグに逃げ出すなんて!」

 甘い声で責めるパダムに、ゆったりと凭れるアイル。


「気付いていたのですか? パダム様はとても、忙しそうだったので…」
 
 恐れ多くて、側に行けなかったとは、アイルも言えなかった。


 硬い鎧と防具のせいで、パダムの熱い体温を直接、感じられないのをアイルが残念に思っていると…

 アイルの柔らかい頬に、顔を摺り寄せるパダム。


「ふふふっ… パダム様… お髭が痛いです!」

 伸び掛けた髭が、ザリザリと当たるのだ。


「おっと、コレはすまない! ソレより、私にはくれないのか?」

 飴を指さすパダムに苦笑し、袋から最後の一個を出して背後に差し出す。

 パクリとアイルの指ごと飴を口に入れるパダム。

<パダム様ったら… ワザと私の指まで嘗めたわね!>

 嬉し気にクスクスと笑うアイル。



 そんな2人の周りで、口の中で飴を転がし、頬をモゴモゴする騎士たちは、ニヤニヤと笑う。

 先にその視線に気づいたパダムは、牽制するのを忘れなかった。


「いいか、お前たち! アイルは私のモノだから、手を出そうとは思うなよ? もしも出したら…  男にとって命より大切な、3本目の足を切り落として、魔獣の餌にしてやるからな!!」


「ウウッ…」 

 ニヤニヤしていた騎士たちは、うめき声を上げ、スゴク痛そうな顔をして、さりげなく股間を押さえた。

 騎士たちにとっては、想像だけで痛いのだろう。



「3本目の足とは何ですか?」

 意味が分からずキョトンとし、目の前にいるハンガットにアイルが尋ねると、騎士たちは真っ赤になって黙り込む。

「ア… アイル様!! 女性は知らない方が、よろしいかと…!」

 ソコまで答えて黙るハンガットに、周りの騎士も、うんうんと頷き掛ける。



「パダム様?」

 今度は背後のパダムを、無邪気に見上げるアイルに…

 珍しくも頬を薄っすらと赤く染め、黙り込むパダム。




 アイルもパダムも、ハンガットと側近の騎士たちも気付かなかったが、集まっていた騎士団長を始め、部隊長にその部下たち全員が、その様子を眺めザワついていた。




「おい、見たか? 豪傑パナス・ダラム様の頬を、赤く染めた女人がいるぞ?! アレは誰だ?!」








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