42 / 86
41話 承諾
しおりを挟む「あ… あの、パダム様、皆様が見ておられます…」
真赤な顔で、ようやく騎士たちの視線に気づいたアイルは、自分の腰に巻き付いた、強固な腕を引き離そうとするが…
「私が眠りに落ちる前… 君が側に居て… 君は… 君は本当に会いに来たのでは無く、私の願望が見せた幸せな妄想なのだと… 少し前までそう思い込んでいた」
アイルの耳元でパダムは、口ごもりながら、静かに話し掛ける。
「パダム様は本当にお疲れだったから… ハンガット様に聞きましたよ、休憩の時は休まなければ、皆様も安心して休憩を取れませんよ?」
アイルは手を伸ばし、パダムの頬を撫でる。
「フフフッ… 分かってはいるが、休んでいる間に隣にいた奴が、死んでいたら嫌だからな…コレばかりは君の言うコトは聞けないなぁ」
のんびりと、抵抗するパダムにアイルは苦笑を浮かべる。
「困った方ですねぇ… ハンガット様、大目に見てあげて下さい、パダム様は嫌だと言ったら絶対曲げないのです」
ハンガットや周りにいた騎士たちも、アイルと同じような表情だ。
「ソレよりアイル、まだ私の妻になる気は無いのか?」
「・・・・・・」
パダムのその言葉で、甘い気分はサッと消え、アイルの瞳が暗く陰る。
<私はパダム様を愛している… だからパダム様にとって最善の道を選びたい、だけど今はどう選択すれば良いのか分からない… 私の身分では、妾にはなれても、妻にはなれない… パダム様の足を引っ張ってしまう!>
本当にソレで良いのか? と、アイルはまた迷う。
「まだ、ダメか?」
大きなため息をつくパダムに、アイルは申し訳なく思う。
「…アイル様、後悔してからでは遅いですよ?」
黙っていられず、口を挟むハンガット。
「ハンガット様?」
ハンガットが、側に寄り、アイルとパダムにダケ、聞こえるように声を押さえて話す。
「ご両親が亡くなったとき、ちょうど私の地方騎士団への入団が決まり、王都を離れるとミニャックに伝えたら、彼女に結婚を早めて、共に連れて行けと泣かれたのです」
目を伏せてハンガットは、寂しそうな顔をする。
「ああ… 覚えています、妹は酷く落ち込んで…」
アイルとは地方騎士団に配属になったハンガットがオバット伯爵家に挨拶に来た時に会ったきりだった。
つまりハンガットは、その時がミニャックと会った最後になったのだ。
幼馴染だった若い2人は、誰が見ても愛し合っていて、だからアイルの両親は婚約を許可したのだ。
「彼女はまだ在学中で、あと3年残っていたから、あの時は卒業まで待てと説得しました… でも、彼女はご両親の死で傷ついていた、そんな子に私は… 3年我慢しろと、置き去りにしたのです! ミニャックは、見捨てられたと思ったのでしょう… 私は彼女を連れて行くべきでした!」
声を震わせながら、ハンガットは誰にとっても切実な問題なのだと、アイルに語る。
「お前の言う通りだ、ハンガット… 私の父も大臣たちに説得され、私ごと母を手放し、どれほど後悔したか、だから私は父のように、後悔したくないのだ!」
パダムはアイルの腰を片手だけ放し、ハンガットの肩を力強く掴む。
ハンガットは顔を上げ、パダムを見つめてから、アイルへと視線を移した。
「アイル様… "次も会える" という保証は、誰にも無いのです、ですから本当に悩んでいるのなら、今… この瞬間が最後だとしたら? パナス・ダラム様に2度と会えないとしたら… アナタはどうしますか?」
今から魔獣と戦おうという騎士たちの中にいるのだ、この場にいる誰もが感じている危機感だ。
いくら強くても、パダムも不死身では無いのだから、例外ではない。
アイルの心臓が一気に冷え、呼吸が止まる。
自分の心音がうるさくて、他は何も聞こえなくなった。
<パダム様を失うのが怖くて、私はココまで来たのに… 何を迷うことがあるの?>
答えはとっくに出ている。
「私は… 私はパダム様の幸せを望みます!」
パダムはアイルの腰を掴み、クルリと回し、向き合わせると…
「なら妻になれアイル! ソレが私の幸せであり! 望みだ!」
「・・・・・・」
深紅の瞳が、水色の瞳を瞬きも無しで、見つめる。
「アイル」
「・・・・・・」
名を呼ばれ、水色の瞳を大きく見開き、深紅の瞳を見つめる。
「アイル!!」
「・・・っ!!」
止めていた息を、アイルは深く吸い込み、一気に吐き出す。
「…パダム様の妻になります」
身体の力が抜け、アイルがズルズルと崩れ落ちそうになるのを、パダムはガッシリと抱きしめ支える。
「聞いたか? ハンガット!」
アイルの頭越しでニヤリと笑うパダムに、ハンガットも笑う。
「確かに聞きました!」
「お前は証人だ、アイルがまたゴネ出したら、証言してくれよ?」
「ええ、その前にオークの襲撃で生き残らないと!」
「ああ! 忘れていた、腕が鳴るな!」
満面の笑みのパダムに周りの騎士たちは、ホッと微笑む。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】
日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。
それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。
ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。
「このままでは、あなたは後宮から追い出される」
実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。
迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。
けれど、彼には誰も知らない秘密があった。
冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました
蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人――
“赤い鷲”の女将軍イサナと、
“青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。
最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。
死を覚悟したその瞬間――
イサナは思わず、矢面に立っていた。
「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」
理由などなかった。
ただ、目の前の男を失いたくなかった。
その報告を受けた皇帝エンジュは、
静かに、しかし飄々とした口調で告げる。
「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」
「ただし、子を成すこと。それが条件だ」
敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。
拒否権はない。
こうしてソウガは、捕虜でありながら
《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。
武でも策でも互角に戦ってきた男が、
今は同じ屋根の下にいる。
捕虜として――そして夫として。
反発から始まった奇妙な同居生活。
だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、
じわじわと二人の距離を変えていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる