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47話 アイルの魔法2
しおりを挟む救護所テントから出ると、アイルが処置した騎士の中で、致命傷を受けた騎士たちを選び、順番に診て行く。
「アナタたちは、片っ端から浄化魔法で、呪毒を先に消して下さい!」
フジャヌが付けてくれた助手たちに支持を出す。
傷の表面は、軟膏に練り込んだ聖水が、呪毒の穢れを浄化したが…
深い傷の奥に入り込んだ、毒は消し切れてないのだ。
そういう点では、浄化魔法の方が確実である。
「は… はい!」
「重症度に関係なくとなると、この人数では、時間が掛かりますがよろしいですか?」
「はい、呪毒はどう作用するか分かりまん、早いうちに消した方が体力の消耗も防げますし、お願いします」
2人とも戸惑ってはいるが、フジャヌの命令には逆らえないらしく、アイルの指示を聞いてくれそうでホッとする。
全く魔法が使えないアイルは、治療師たちと救護所テントで、初めて顔を合わせた時に…
『魔法を使えない奴に、救護所テント内をうろつかれるのは邪魔だ』
本当のコトだから仕方ないが、イキナリ見下した扱いを受け、少し傷ついていたのだ。
だが、確かにこの現状では、彼らの言うコトは、至極当然な意見だと、アイルも今は反省している。
魔法が使えるようになっても、アイルはこの救護所では、一番の初心者なのだ。
アイルに家族へ最後の言葉を託した騎士の脇へ跪き、まだ息があるコトを確認し、浄化魔法を掛け、内部を魔法で探ると…
やはり胸の中で血が溢れ。呼吸が出来なくて窒息しかけていた。
パギの時と同じ手順で血の道を繋ぎ、同時に胸の中に溢れて溜まった血を、血の道に少しづつ戻し、肉を繋ぎ肋骨をくっ付ける。
胸が上手く膨らみ、呼吸が上手く出来るようになったのを肉眼で見て、3日分の眠りの繭で包み、治療を終わる。
致命傷を受けた怪我人のうち、18人を治療して、9人は既に亡くなっていた。
みんな、アイルに最後の言葉を託した騎士たちだ。
ソレまでに亡くなった人はもっと多い。
「もっと早く、魔法が使えるようになっていたら!!」
涙が溢れそうになるが、アイルは流れる前に服の袖で、グイッと拭い頭を振る。
<なぜ急に魔法が使えるようになったか、分からないけど… いつまでも悔やんではいられないわ!! 次の人を診なければ!>
太腿に深い傷を負った騎士の治療を終え、アイルが顔を上げると、助手の1人が声を掛けてくる。
「ア… アイル様、そんなに続けて治癒魔法を使って、大丈夫なのですか?」
助手のクルスイが心配そうに声を掛けてくる。
「ええ、まだいけます! 以前より、少し時間が掛かってしまいますが、大丈夫です、昏倒するような無様な姿は見せませんよ」
「とても正確なのに、早過ぎて怖いぐらいです!! お若くても、流石オバット伯爵家の直系の方ですね、感服しました!」
目の良い(魔力で解析する能力)クルスイは、アイルの治療の早さに危機感を持ち…
手抜きや見逃しがあったら大変だと、側で治療を監視していたのだ。
不思議そうな顔で、アイルはクルスイを見つめる。
アイルの師匠であった、父はもっと素早く精密に治療をする人だった為、
その基準で考えると早さも正確さも、まだまだなのだ。
「次の怪我人は?」
アイルが尋ねると…
「その人で、最後ですアイル様、後は…」
眉をひそめてクルスイは、結界の外を見る。
「少し前から、怪我人が1人も、救護所テントに来ていませんね…」
もう1人の助手ブラットが、険しい顔で、同じように結界の外を睨む。
オークに囲まれた救護所に、辿り着けなかった怪我人が、力尽きて点々と倒れているのが
見えた。
護衛の騎士たちもみな、怪我を負ってしまい、結界の外へ援護へ出られるような状態では無いのだ。
出られたとしても、出た瞬間、オークに囲まれ集中攻撃をされて終わるだろう。
「まさに結界の外は地獄です!! クソッ!」
クルスイが青ざめながら、見つめる先で、また一人救護所に辿り付けず、騎士がオークに殺された。
「オークの怖さは、途方もない数です、残念ながら治癒魔法しか使えない私たちには…」
ブラットが拳を握り、自分の太腿を悔しそうに、イライラと叩く。
「悔しいですね! 騎士に守られながら、治療するワケにも行かないし」
アイルもイライラと爪を噛む。
治療師は魔力の特性上、治療用の魔法しか使えないのだ。
肉や骨を再生し、くっ付けることは出来ても、攻撃魔法には向いていない。
触れれば、穴を開けるぐらいは出来るけど、その前に獰猛なオークに、手を切り落とされてしまうだろう。
「アイル!」
フジャヌに呼ばれて、アイルが振り向くと…
「お兄様? ソレは何ですか?」
子供の頭部ぐらいある、大きな黄色い魔石が嵌めこまれた杖を、フジャヌが持っていた。
「わっ! その魔石… もしや竜輝石では?!」
隣にいたクルスイが叫び声を上げる。
「そうだクルスイ、良い眼をしているな! この杖は王太子に面倒ごとを押し付けられたから、褒美代わりに貸してくれと強請ったら、快く渡してくれたのさ」
ニヤリと笑いながらフジャヌは、ご機嫌で杖を撫でながら答える。
「いや、でも竜輝石付きの杖なんて、国宝級ではありませんか!!」
触るのさえ恐れ多いとでも言いたげに、マジマジと見るクルスイ。
通常の魔石が、鉱山などから採掘する鉱物だとすれば…
竜輝石は、今は絶滅したと言われる竜が、 体内で何百年もかけ魔力を込めて作り出した魔石で…
稀に地中で発見された竜の化石などから、一緒に採掘される。
その生成される経緯から、竜輝石自体に大量の魔力が宿っているのだ。
つまり鉱物系の魔石は、人が魔力を込めて使うのに対し…
竜輝石は込めなくても大量に魔力を引き出すことが出来る。
「まさに国宝さ! コレは400年前に活躍した、黄色の聖女クニンの杖だ」
「黄色の聖女クニン!!」
「黄色の聖女クニン!!」
クルスイとブラットが目を剥いて、同時に声を上げる。
黄色の聖女と言えば、おとぎ話にもなっている、女の子に大人気の、実在した伝説の聖女だ。
「さてと、私と一緒に結界の外へ行く勇気はあるかな? 聖女アイルよ!」
「結界の外ですって?!」
アイルも目を剥いて、いつもとは別人の、なぜかご機嫌なフジャヌを見る。
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