呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

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48話 アイルの魔法3 フジャヌside

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 両親が亡くなる前から、アイルとフジャヌは、仲の良い兄妹というワケでは無かった。

 妹とはいえ、同じ師匠の元で学ぶ、競争相手だったからだ。

 オバット伯爵家の長男に生まれたフジャヌには、後継者としての意地があり、そう素直に競争相手と、仲良くは出来なかった。

 だから、嫌っているかというと、そういうワケでも無い。



 存命中、師匠の父もフジャヌの負けず嫌いを上手く利用し、アイルと競わせようとするコトがあった。


「良いぞフジャヌ、損傷部位を探すのは、アイルよりもフジャヌの方が上手いな」

 父ブサルが、カラカラと上機嫌で笑った。


「ですが父上… 浄化魔法で、一気に呪毒を消し飛ばすのは、アイルのが上です」

 悔しくてフジャヌは、拗ねながら愚痴っぽく言ってしまう。 


「ソレで良いんだよ! そうやって悔しいと思う気持ちが大切なのだ、悔しいと思えば、完璧に使いこなそうとする… つまり "完璧な治療が出来る" 治療師に成長できるが…」

 父はニヤリと笑う。

「え? 何ですか?」

 父の顔を次の言葉を待ちながら、フジャヌがジッと見つめると…
 
 不意に父の顔に真剣な表情が浮かぶ。

「悔しいとも思わずに、ただ覚えれば良いだけと、ボンヤリと次の課題に進むようでは… "一応治療が出来る" 治療師止まりで、終わってしまうのだ… フジャヌこの違いが分かるか?」

 怖いほどジッと父に見つめられ、フジャヌは答えを間違えては大変だと、慎重に答えた。

「ええっと… 精度の高さの問題でしょうか?」

父ブサルは、流石私の息子だと、満面の笑みで肩を叩く。 


「そうだ! 例えば足の怪我を "一応治療した" が、後でその怪我で歩けなくなっても、命が助かったから良いでは無いかと、言い返すような、情けない治療師にはなるなよ?」


「"完璧に治療したら" 歩けるのにという意味ですね、分かりました」

 息子の "完璧" な答えに、ニコリと笑うブサル。

「だから、お前には悔しくとも、アイルという競争相手が必要なのだ! 虐めたりせずに妹を大切にするんだぞ?」


「はい!」


 自分より年下の妹アイルが、フジャヌと肩を並べ、競争相手になれる程、努力に努力を積み重ねる姿に、敬意と誇らしささえ抱いていた。


 妹と同年代なのに、従妹のアンジンなどとは大違いだ。
 




 両親が亡くなり、オバット伯爵家の兄妹の間に、叔父ニャムックが割り込んでからは、状況が一気に変わった。

 暴漢に襲われ亡くなった両親と、大怪我を負ったアイルは何故か、オバット伯爵家ではなく、ニャムック叔父のサキット家に運ばれていた。


 学園を卒業してスグ、治療師として王都近郊へ、派遣されていたフジャヌが、連絡を受け慌てて戻ると…


「私は… 私は… 叔父様の治療が… 受けたい…」

 心も身体も、ボロボロに傷ついた妹が、フジャヌには不憫でならなかった。


「だが、アイル… 他家で叔父の治療を受けるより、生まれ育った家で、私の治療をゆっくり受けた方が早く治るはずだ」
 
 フジャヌはなるべくアイルに寄り添い、穏やかに説得した。


「叔父様が良い! お兄様よりも叔父様の方が良い!!」

 なぜかアイルは頑固に、フジャヌを拒否し、叔父の治療を求めた。


「フジャヌ、アイルもこう言っているのだし、私に任せなさい! お前はまだ若くて未熟だ、何か問題があっては困るでは無いか… アイルもそう思うだろう?」

 いつもの横柄で傲慢な叔父が、珍しくアイルを労わるように話す姿は、父ブサルにそっくりだった。


<叔父がオカシイ!>

 フジャヌは首を傾げる。


「叔父様の… 言う通りです… ううううっ… 叔父様の…言う通りです! …うううっ」

 アイルも以前は、叔父を怖がっていたのに… 

 今は父上に対するように、頼り切っている。


「ああ可哀そうにアイル… 泣かなくて良い、フジャヌも私が治療した方が良いと、言ってくれるよ」


<絶対私が治療すべきだ! 叔父上にアイルを任せたくない! 未熟で問題を起こしそうなのは、叔父上の方ではないか!!>
 
 若くともフジャヌは、叔父のように "一応治療が出来る" 治療師ではなく…

 父に認められ助手として、魔獣退治の救護所へと何度も行った経験のある "完璧に治療が出来る" 治療師へと成長していたのだから。


<何かが、オカシイ! 叔父上はこんなに親切な人ではないはずだ!! いつも面倒ごとは父上に押し付けていたのに、今回だって自分から言い出すなんてオカシイ!!>


「アイル!」

「嫌ッ… 叔父様が良い!」

「フジャヌ、怪我人に無理強いしてはイケナイよ、妹なのだからもっと優しくしてやりなさい! その冷たいモノの言い方が、アイルを怖がらせているのだよ!!」

 叔父は親切そうにフジャヌを諭し、アイルをまるで娘のように抱きしめた。



<何かがオカシイ!! オカシイ!! オカシイ!!>



 数ヶ月後、アイルがオバット伯爵家に戻った時には、魔法が一切使えなくなっていた。

 フジャヌが診ても、他の治療師に診てもらっても…
 学園の魔法講師に診てもらっても…
 魔法を研究する専門家に診てもらっても…
 

 心の傷が原因で、魔力はあっても魔法が使えないのだという、共通の診断結果を貰ったダケだった。


<私が尊敬し誇らしいと思った、競争相手は消え… 愚かな妹になってしまった>





 救護所テントの床に寝かされたパギを、アイルは、手際よく致命傷だった傷を綺麗に直した。

 何年も魔法が使えなかったとは、思えないほど… 完璧だ。


「父上… やっと本来のアイツが戻って来ましたよ」




 亡くなる少し前に、父の口から語られたアイルの話がフジャヌの脳裏に浮かんだ。


『アイルを魔獣退治の救護所に連れて行き、そろそろ経験を積ませるか!』

『あいつの腕なら遅いぐらいです! 私と一緒にもっと前から出ていても、良いぐらいです』

『フジャヌよ… 腕は上がってもアイルは心がまだまだ未熟だから、危ないのだよ、その点お前は早熟だったから頼りになったがな』

『心ですか?』

『あの子にはとても脆いところがある、慎重に鍛えてやらないと壊しかねないのだ』 

 
 アイルを救護所で経験を積ませる計画を、フジャヌと2人で立てていたが…

 その前に、父は母と共に亡くなった。



 救護所テント内の怪我人の治療を大方終え、フジャヌがテントの外へ出ると…


 アイルが怪我人を、次々と治療してゆく姿が目に入る。



<お見せしたかった父上… アナタが育てた自慢の娘が、立派に成長した姿を!!>

 いくらか苦労した経験のせいか… 

 アイルから叔父の言いなりになっていた頃の、弱さも消えていた。



<愚か者め!! 最初から私を信じ、私の治療を受けていれば、こんなに苦労しなくて済んだものを!!>


 フジャヌは嬉しくて、ニヤリと笑う。









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