呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

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53話 美聖女アイル

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 真夏の真昼のような、目映い光の中に立つ、清らかな水色の瞳に銀色の髪を持つ、美しい聖女が騎士に尋ねた。

「アナタはその手を、何処に落として来たのですか?」

 聖女は怪我をした騎士の前に跪き…


「は… はい?」

 まだ学園を卒業したばかりの若い騎士は、怪我をした腕を聖女にそっと触れられドキリッとした。


「ここから先の手です」

 聖女は困った顔で若い騎士の腕を持ち上げ、手首から切り取られた先のコトを尋ねていた。


「え? ああ、手ですか… その辺に転がっているかと」

 このオークの悪臭に満ちた、禍々しい危険な場所には不似合いな美女が、自分の前にイキナリ現れたせいで、若い騎士はボンヤリ見惚れていたのだ。


「オイオイその辺て…! 自分の手だろうに、コレでは切り落とされた手の方が可哀そうだ」

 美聖女と共にいる男が、杖を使い発光魔法で辺りを照らしながら、呆れた顔でボソボソとつぶやく。


 怪我をした若い騎士と、美聖女の会話を聞き、見るに見兼ねた、年長の同僚騎士が何処かへ走って行き、サッと手を拾って帰って来た。


「治療師殿、申し訳ない! コレだと思うのだが…」
 
 美聖女に手首から先の手を渡す。


「アナタの手はコレですか?」

 ニッコリ微笑み、怪我をした若い騎士に美聖女は聞いた。


「はい、タブン」

 差し出したされた、血まみれの手は無視して、美聖女の顔しか見ない若い騎士。


「…タブン?」

 戸惑う美聖女。


「これだから、王立騎士団の坊やは!! アイル様、もう何でも良いからくっつけて終わらせましょう! 何ならその辺に落ちてるオークの手でも良いのでは無いですかネ?」

 罵る、美聖女のお供。

「そうですね、とても動揺している様子ですから、付けてしまいましょう」

 
 美聖女は、切り落とされた手首から先を浄化し、ペタリと騎士の腕にくっつけ


「ええ? くっ付くのですか?!」

 若い騎士はこの時になって、初めて美聖女がやろうとしているコトに気付く。


「お前、一体何を聞いていたのだ?!」

 美聖女のお供が、目を吊り上げて、若い騎士を叱る。


「手首から先を、新たに生やしても良いのですが、ソレだと大量の血が必要になり、アナタはこの場で昏倒してしまうので、少々複雑で面倒ですが、くっ付けるコトにしたのです」

 美聖女は説明をもう一度する。


「ビリビリするでしょうが、けして動かないで下さい、ズレると厄介なので」

 白く光り大量の魔力が、美聖女によって損傷した腕に送り込まれた。


「ウウ…ッ…!!! ウッ…!!! おおおおおっ!!」

 若い騎士は、ビクビクと痛みと刺激で身体を震わせる。
 
 騎士は、美聖女の前で醜態は晒したくないと言う一心で、苦痛に耐えた。


「はい、終わりました… 1週間は安静にして下さいね?」

「ありがとうございます聖女様!! どうかアナタのお名前をお教えください!! そして私の妻になって下さい!!」

 若い騎士は怪我をしてない方の手で、美聖女の細い手を掴みキュッと握りこみ唇を寄せた。


「お前、婚約者がいるだろう?」

 若い騎士の手を拾って来た年長の騎士が、呆れながら思い出させようとする。


「聖女様! アナタは命の恩人です!」
 
 若い騎士は言い募る。


「いや、手の恩人だろう?」

 お供の男が呆れて突っ込む。


「私はルマハ侯爵家の長男カチャと、申します! どうか聖女様、お名前を!」

 自慢げに、家名を明かす若い騎士。


「オバット伯爵家の長女アイルと申します…?」

 美聖女アイルは激しく困惑する。


「オバット伯爵家のアイル嬢ですか!!」

 家名と爵位を聞き、若い騎士は "伯爵家の娘ならモノにできる" とニヤニヤ笑う。


「は… はい」

 美聖女アイルは面倒そうに、掴まれた手を引き抜こうとするが…


「どうかアイル嬢!! 我が妻に!! ルマハ侯爵家の未来の侯爵夫人に!!」

 熱っぽく口説く若い騎士は、自分が断られるなどと思ってもいない様子だ。



「これだから王立騎士団は!!」

アイルのお供ブラットは忌々し気に罵る。

 王立騎士団所属の独身騎士は大方、アイルの治療が終わった途端、妻に欲しいと口説き始めるのだ。


 アイルを口説く若い騎士の頭を、オークの返り血で汚れ悪臭を放つ大きな手が、ガッシリ鷲掴みにする。

「うわっ!!」

 イキナリ頭を物凄い力で掴まれ、逃れようと暴れる若い騎士だが、大きな手はビクともせず…

「なななっ… 何だ?! オイ誰だ!! 私は侯爵家の長男カチャだぞ!! 無礼では無いか!! 放せコラ! クソッ放さないか!!」

 頭を鷲掴みにした大きな手が、グルリと若い騎士を回し…

 若い騎士は、ギラギラと野蛮に光る、深紅の瞳の大男と向き合った。



「私の妻となる女を口説こうとするとは、いい度胸だな?」

「パパパパパパパ…パ…パナス・ダラム殿下…?!」

 ウットリとバラ色だった若い騎士の頬は、一瞬で蒼白になる。


「お前の名を、聞いておこうか?」

 深紅の瞳を、パダムは獲物を狙う猛獣のように細めた。


「いいい…いえ、名… 名乗る程の名前では… ああああ… ありませんっ!!」

 ビクビク震えながら、名乗るのを遠慮する若い騎士に、美聖女アイルは気を利かせて紹介する。


「パダム様、 こちら王立騎士団所属のルマハ侯爵家、長男カチャ様です!」

 ニッコリと少しも邪気の無い笑みを浮かべ、良いコトをしているという顔で、紹介する美聖女アイル。


「…アイル嬢!!!」

 小さく叫ぶルマハ侯爵家長男カチャ。


「ほお~う… 騎士団長と少し話し合わねばならないな、魔獣と戦う最前線で治療師を口説く愚か者がいると」

 パダムは微笑むが、目が少しも笑っていない。



「どどどど… どうか、どうか、ソレだけは… おお… お許しください!」





 
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