66 / 86
65話 国王陛下
しおりを挟む
青白い顔で微笑む国王と王太子を見つめ、アイルは少し離れた場所に立つ、フジャヌを見た。
最後にパダムを見つめ、少し前にクルスイから聞いたコトを、思い出していた。
『何年も前から、チュルミヌ伯爵家の治療師の質が落ちたと、言われ続けていたのですが』
国王の主治医はチュルミヌ伯爵で…
先程、国王の手を取った時に、アイルは詳しくは無理だったが、少しだけ身体を診た。
<いつ亡くなってもオカシクナない程、陛下は弱っておられる… 持っても残り数か月のお命… 出しゃばるのは嫌だけど、このような機会は滅多に無い>
もう一度パダムをアイルはジッと見つめ、覚悟を決めた。
今までに無い厳しい表情で見つめられて、何事かとパダムもアイルを見つめ返した。
<初めて会った時のパダム様のように、無駄に苦しむのを放ってはおけないわ! 治療は早い方が良い>
「陛下、恐れながらもう一つだけ… 宜しいでしょうか?」
聖女クニンの杖を片手に持ち、跪いたまま真っ直ぐ国王を見上げた。
少し前までの穏やかさがが消え、凛とした態度のアイルに何かを感じ取った国王が頷いた。
「陛下御自身が、この聖女クニン様の杖を、お試しになる気はございませんか?」
自分の脇に寝かせて持っていた杖を、アイルは前に出し両手で持ち上げ、国王に見せた。
「其方が言うのだから、私の身体の治療をしたいのか?」
「はい」
長い間、不十分な治療を続けたせいで、手の施しようが無いほど悪化しているが…
クニンの杖が有れば魔力の心配なく、やりたいコトが出来る。
「面白い! やって見せよ」
国王は笑った。
「陛下!! 危険です、陛下のお身体は治癒魔法に耐えられません!! どうか、お止めください!!」
チュルミヌ伯爵が声を荒げて、叫ぶ。
<確かに、普通に治癒魔法を使えば耐えられない…>
身体中の血の道が脆く劣化し、少しでも刺激を与えると破れて大量に出血する恐れがあるからだ。
特に悪いのは、頭の中の血の道にコブが出来ていて、そのコブが何時破れるか分からない状態なのだ。
他にも極端に血の道が狭くなり、血が通わない場所まである。
国王が1人で、上手く歩けないのはそのせいだ。
<コレは本当に苦しい思いをしておられるハズだわ… お気の毒に…>
悪い部分だけを治療すれば、ソコだけ血の流れが良くなり、他の部分の血の道に負荷がかかり、治療してない血の道が破れかねない。
<同時に治療するしかない、それには 治療師3人分の魔力を一気に使うほどの労力が必要… でも、今はこの聖女クニン様の杖が有る、コレならきっと…!!>
フジャヌと目が合うと、やはり厳しい顔をしていたが、シッカリ頷いて見せた。
<お兄様は私を信じて下さるのね!!>
アイルはフジャヌに微笑んだ。
「陛下、お止めください!! 聖女殿はまだ、お若く経験が足りませぬ!! 長年診て来た私をどうか信じて下さい!!」
バタバタとチュルミヌ伯爵は許しも無く、陛下の御前へと飛び出して来て、アイルを睨みつけ侮辱した。
「どうせ先は短いのだ、私が選んだ聖女の力を試して何が悪い? 何より若くて美しい聖女の治療を一度は受けてみたいしな」
国王は機嫌良く笑うが、流石に王太子は判断が出来ずに青い顔で黙っていた。
王太子のこういう部分が、フジャヌが言う "気弱な質" なのだろう。
「どうせ、先が短いのなら試すぐらい良いでは無いか? 父上もこう言っているのだし」
パダムが口を挟み、ケロリと言い放つ…
「兄上!!」
王太子は目を剥いて、腹違いの兄を見た。
「まぁダメでも、アイルのせいでは無いから、その辺は父上も先に認めておいてくれよ?」
パダムの国王に対しての不敬な発言に、周りに居た騎士や大臣たちは顔を青くしていたが…
「お前のその口の悪いところは、若い頃の母親に良く似ているな」
国王自身は、顔をクシャリと皺だらけにして、楽し気に笑った。
「どうせ死ぬなら、暗い寝室ではなく美女の腕の中で死にたいのだ、最後の望みだと思って、皆黙って聞き入れてくれ! 私が死んでも聖女アイルに何の罪もない、コレは私の我儘である!」
王がそう宣言すると、パダムが後の言葉を引き取った。
「ほらな! 聞いただろう? さぁ、アイルさっさと父上を診てやってくれ、膝枕はしなくて良いからな」
アイルはパダムの言葉に笑ってしまったが…
笑っているのは当のパダムとアイル、国王ダケだった。
他の人々は顔を強張らせて、黙っていた。
最後にパダムを見つめ、少し前にクルスイから聞いたコトを、思い出していた。
『何年も前から、チュルミヌ伯爵家の治療師の質が落ちたと、言われ続けていたのですが』
国王の主治医はチュルミヌ伯爵で…
先程、国王の手を取った時に、アイルは詳しくは無理だったが、少しだけ身体を診た。
<いつ亡くなってもオカシクナない程、陛下は弱っておられる… 持っても残り数か月のお命… 出しゃばるのは嫌だけど、このような機会は滅多に無い>
もう一度パダムをアイルはジッと見つめ、覚悟を決めた。
今までに無い厳しい表情で見つめられて、何事かとパダムもアイルを見つめ返した。
<初めて会った時のパダム様のように、無駄に苦しむのを放ってはおけないわ! 治療は早い方が良い>
「陛下、恐れながらもう一つだけ… 宜しいでしょうか?」
聖女クニンの杖を片手に持ち、跪いたまま真っ直ぐ国王を見上げた。
少し前までの穏やかさがが消え、凛とした態度のアイルに何かを感じ取った国王が頷いた。
「陛下御自身が、この聖女クニン様の杖を、お試しになる気はございませんか?」
自分の脇に寝かせて持っていた杖を、アイルは前に出し両手で持ち上げ、国王に見せた。
「其方が言うのだから、私の身体の治療をしたいのか?」
「はい」
長い間、不十分な治療を続けたせいで、手の施しようが無いほど悪化しているが…
クニンの杖が有れば魔力の心配なく、やりたいコトが出来る。
「面白い! やって見せよ」
国王は笑った。
「陛下!! 危険です、陛下のお身体は治癒魔法に耐えられません!! どうか、お止めください!!」
チュルミヌ伯爵が声を荒げて、叫ぶ。
<確かに、普通に治癒魔法を使えば耐えられない…>
身体中の血の道が脆く劣化し、少しでも刺激を与えると破れて大量に出血する恐れがあるからだ。
特に悪いのは、頭の中の血の道にコブが出来ていて、そのコブが何時破れるか分からない状態なのだ。
他にも極端に血の道が狭くなり、血が通わない場所まである。
国王が1人で、上手く歩けないのはそのせいだ。
<コレは本当に苦しい思いをしておられるハズだわ… お気の毒に…>
悪い部分だけを治療すれば、ソコだけ血の流れが良くなり、他の部分の血の道に負荷がかかり、治療してない血の道が破れかねない。
<同時に治療するしかない、それには 治療師3人分の魔力を一気に使うほどの労力が必要… でも、今はこの聖女クニン様の杖が有る、コレならきっと…!!>
フジャヌと目が合うと、やはり厳しい顔をしていたが、シッカリ頷いて見せた。
<お兄様は私を信じて下さるのね!!>
アイルはフジャヌに微笑んだ。
「陛下、お止めください!! 聖女殿はまだ、お若く経験が足りませぬ!! 長年診て来た私をどうか信じて下さい!!」
バタバタとチュルミヌ伯爵は許しも無く、陛下の御前へと飛び出して来て、アイルを睨みつけ侮辱した。
「どうせ先は短いのだ、私が選んだ聖女の力を試して何が悪い? 何より若くて美しい聖女の治療を一度は受けてみたいしな」
国王は機嫌良く笑うが、流石に王太子は判断が出来ずに青い顔で黙っていた。
王太子のこういう部分が、フジャヌが言う "気弱な質" なのだろう。
「どうせ、先が短いのなら試すぐらい良いでは無いか? 父上もこう言っているのだし」
パダムが口を挟み、ケロリと言い放つ…
「兄上!!」
王太子は目を剥いて、腹違いの兄を見た。
「まぁダメでも、アイルのせいでは無いから、その辺は父上も先に認めておいてくれよ?」
パダムの国王に対しての不敬な発言に、周りに居た騎士や大臣たちは顔を青くしていたが…
「お前のその口の悪いところは、若い頃の母親に良く似ているな」
国王自身は、顔をクシャリと皺だらけにして、楽し気に笑った。
「どうせ死ぬなら、暗い寝室ではなく美女の腕の中で死にたいのだ、最後の望みだと思って、皆黙って聞き入れてくれ! 私が死んでも聖女アイルに何の罪もない、コレは私の我儘である!」
王がそう宣言すると、パダムが後の言葉を引き取った。
「ほらな! 聞いただろう? さぁ、アイルさっさと父上を診てやってくれ、膝枕はしなくて良いからな」
アイルはパダムの言葉に笑ってしまったが…
笑っているのは当のパダムとアイル、国王ダケだった。
他の人々は顔を強張らせて、黙っていた。
1
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました
蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人――
“赤い鷲”の女将軍イサナと、
“青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。
最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。
死を覚悟したその瞬間――
イサナは思わず、矢面に立っていた。
「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」
理由などなかった。
ただ、目の前の男を失いたくなかった。
その報告を受けた皇帝エンジュは、
静かに、しかし飄々とした口調で告げる。
「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」
「ただし、子を成すこと。それが条件だ」
敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。
拒否権はない。
こうしてソウガは、捕虜でありながら
《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。
武でも策でも互角に戦ってきた男が、
今は同じ屋根の下にいる。
捕虜として――そして夫として。
反発から始まった奇妙な同居生活。
だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、
じわじわと二人の距離を変えていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる