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67話 夜の散歩

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 波乱の方賞授与を終え、晩餐会も無事に乗り切り、王太子に別れの挨拶もし…

(国王はアイルの魔法で熟睡中)

 さぁ、やれやれ、帰ろうかという時に…
  
 フジャヌと2人、馬車を待つ列の中で…

 パダムの使いだと言われ、ハンガットにコッソリとアイルは手紙を渡された。

「アイル様、どうかこの場で確認してください」


「はい?」

 ハンガットに言われるがま、アイルは手紙を開いて内容を確認すると…



"今夜は、月が綺麗だから、君と夜の散歩がしたい、裏庭の噴水前で待っている"


「お兄様? 裏庭の噴水とは何処にあるのですか?」

 王宮に初めて来たアイルは、どうしたものかとフジャヌに尋ねると…


「…ふむ …ふむ!」

 何やら思案した後、フジャヌはアイルの細い肩を掴み、クルリとハンガットの方へ回し、背中を押す。


「えええ?! …あの、お兄様?」

 フジャヌにグイグイと押され、アイルはハンガットの正面に立つ。


「ハンガット、アイルの案内を頼んで良いか? 裏庭の噴水だ」

 穏やかに微笑みながら、フジャヌはハンガットにアイルを託す。


「お任せ下さい、フジャヌ様… さぁアイル様ご案内しますから、お手をどうぞ!」

 手を差し出され、アイルはハンガットの手を取り、フジャヌを振り返る。

<今から、パダム様の所に連れて行ってくれると言うのだから お任せすれば良いのね?> 


「久しぶりにゆっくり話せるのだから、楽しんで来い… だが、パダム様が良いと言っても、あまり羽目は外すなよ? また醜聞騒ぎを起こしたら、今度こそ修道院に押し込むからな!」


「は… はい!」

 穏やかに微笑みながら、怖い脅しをかけるフジャヌ。

 側に居たハンガットも苦笑いを浮かべた。

 ハンガットに付き添われながら、王宮内を暫く歩き回廊へ出ると、ソコから庭に入る。



「近道をしましょう、さっきの回廊をそのまま行っても、噴水に行けるのですが、まだ使用人が何処かにいるかも知れませんから…」

 誰にも姿を見られない方が良いと、それとなくハンガットは、アイルに伝えた。

「はい」

 頬を赤らめながら、アイルは頷いた。

 手紙を貰って、アイルとパダムは今からコッソリ、逢引きをしようというのだから、人の目を気にして当然なのだ。


 月明りに照らされて、噴水らしきものが見え、ちょろちょろと水の音がして…

 よく見ると噴水の縁に、パダムが座っていた。


 その姿を見ただけで、アイルの胸がドキドキと鳴り始める。


「私はココで退散しますね… 良い夜を」

「ありがとうございます」

 
 礼を言い、ハンガットが立ち去るのを見送り、振り向くとパダムが、スグ近くに立っていて…

「まぁ…っ!」



 驚いてよろけると、パダムが長い腕を差し出し、腰を抱き寄せた。







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