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76話 勘違い
しおりを挟むクラン公爵は、前夜の夜用礼装を着たままの、アイルを見つめ、小さく頷いた。
「オバット侯爵、君が私に提案した件だが、一日も早く、進めた方が良さそうだな」
穏やかに微笑みながら、アイルを見つめる公爵の姿は…
先日、カチャンを連れて、公爵邸で面談した時とは、雲泥の差だった。
「はい、パナス・ダラム殿下のご意向を考慮して、そうすべきかと」
クラン公爵とフジャヌの間で、何らかの取引について、合意に至ったらしい。
「お兄様?」
自分を見つめ続ける、クラン公爵の視線に、居た堪れなくなり…
アイルはソワソワと、フジャヌに助けを求めた。
「先日、公爵とお会いした時に、パダム様の意向をお伝えし、お前をクラン公爵家に養女として出すことになった」
サラリとそんな話を、口にするフジャヌを、信じられない思いで、アイルは見つめた。
「養女?! 何故ですか?!」
「愚か者!! 少しは自分で考えてから、口を開け」
いつもの調子で、フジャヌに叱られ、アイルは真っ赤になる。
「つまりだ… 私がアイルを、妻に欲しいと言ったら、公爵家からアイルが嫁ぐ形にすれば、面倒ごとが全て無くなると、言うコトだよ」
パダムがアイルを、背後から抱きしめたまま答えた。
「ああ!」
パンッとアイルは、両掌を叩く。
「元々当家から、王子妃を出すコトは、決まっていたから、他家からも文句は出ないだろうとな …ソレにアイルが、公爵家の娘になるコトは、子供の頃からの契約だったし」
クラン公爵がパダムの話を、引き継ぎ、口を挟んだ。
「でも、ソレだと… ブラヌ様が…?」
不安そうにアイルは、クラン公爵の後ろに立っている、ブラヌを見つめた。
アイルと目が合い、フワリと頬を染める、喪中の黒いドレス姿のブラヌ。
「マニスが死んだ今、増々ブラヌを嫁がせるわけには行かなくなり、婿養子を取るコトになったから、心配しなくても良い」
後ろのブラヌを振り返り、クラン公爵は、次にハンガットを見つめた。
結婚はしていたが、マニスには、子供が居なかったからだ。
「えええ?!」
アイルは、ただ、ただ、驚愕する。
「この愚か者!! ブラヌ嬢は私では無く、ハンガットを愛しておられるのだ」
「えええええ―――――っ?!」
「私は単に、それぞれの家へ、橋渡し役をしたに過ぎない」
「でもでも、東屋で!!!」
「ブラヌ嬢の結婚相手に相応しくなるよう、ハンガットをパダム様の側近に推薦したとお伝えしていたのだ」
「まぁ!!」
顎が外れそうになるほど、驚くアイル。
「パダム様… 本当にこんなに愚かな娘で、良いのですか? 兄の私が、言うのもなんですが」
呆れるどころか、心配そうにフジャヌは、パダムを見た。
「こういうトコロが、可愛いのではないか! 何より私は、聖女を妻にするのだし、文句など1つも無いさ」
上機嫌のパダム。
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