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77話 侍女バル
しおりを挟むオバット侯爵邸へ一人で戻ると、アイルは真っ直ぐ自室へと向かう。
フジャヌはまだ、クラン公爵やパダム、王太子と協議するコトがあるらしく…
アイルだけ先に、王宮から返されたのだ。
侍女のバルに手を借り、装飾品を外し、ヨレヨレになった、イブニングドレスを脱ぎ、大きなため息をついた。
「お昼寝をしようかしら…」
寝間着に着替えようと、バルに出してもらったが…
「…やっぱり今は、とても眠れそうにないわ」
考え直し、普段着用のドレスを出してもらい、そちらに着替えた。
アイルはヘトヘトに、疲れていたけれど…
王宮で聞いた話が、今も信じられず、とても昼寝などしていられる心境では無かったからだ。
明るい窓際に置かれた椅子に座り…
ボンヤリとアイルは宙を眺め、王宮で聞いたパダムの言葉を、記憶の端から、引っ張り出した。
『つまりだ… 私がアイルを、妻に欲しいと言ったら、公爵家からアイルが嫁ぐ形にすれば、面倒ごとが全て無くなると、言うコトだよ』
<私は… 本当にパダム様の妻になれるの? 本当に?! パダム様と結婚が出来るの?!>
「良かった! 良かった…」
うれし涙が零れ、アイルは何度も指先で、涙を拭うが…
拭っても、拭っても、涙が溢れて来た。
「お嬢様?! 大丈夫ですか?」
アイルの為に、厨房へお茶を淹れに行って、戻って来た侍女のバルが…
椅子に座って、ボロボロと涙を流す、アイルを見つけ、ティーセットをその場に置いて、慌ててアイルの前に来て、質素な木綿のハンカチを出し、涙を拭ってくれた。
「バル… 私ね、パダム様と、結婚出来るの! 今朝、王宮でクラン公爵様が、私を養女にしてパダム様の妃として、嫁がせてくれると言うのよ!! アナタも一緒に来てくれる?」
水色の瞳を、キラキラと輝かせて、アイルはバルの手を握り、尋ねた。
「まぁ! 勿論ですわ、お嬢様! 奥様もきっと、お喜びですわ!」
バルは涙ぐみ、アイルを母のように抱き締めてくれた。
元々バルは、アイルの亡くなった、母の侍女だった女性で…
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今までバルは、他家で働いていたが、アイルが戻るコトになり、フジャヌが呼び寄せたのだ。
アイルを偏見の目で見ず、口の堅い信用できる侍女を、新たに探すより、知っている人間を、呼び寄せる方が、合理的だとフジャヌが判断したのだ。
「でもね、バル… お妃教育というのを、私は受けなくては、イケナイらしいの… 礼儀作法だって、やっと思い出せたばかりなのに…」
弱々しい、自信無さげな顔で、アイルは子供の頃に戻った様に、愚痴を零す。
「ふふふふっ… お嬢様は子供の頃から、不屈の精神の持ち主だと、私は記憶しておりますが?」
バルは少しも、心配していない様子。
「ソレは大好きな、魔法のコトだったから…!」
唇をキュッと拗ねたように アイルは尖らせた。
「次の試練も、大好きなパナス・ダラム殿下の為ではありませんか?」
片眉をピクリと跳ね上げて、バルはアイルに思い出させた。
「もう… バルは本当に、私をその気にさせるのが上手ね!! 大好きよ!!」
目尻を、へにゃっ… と、下げて笑うアイルに、バルも微笑む。
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