呪われた騎士に贈られた花嫁

金剛@キット

文字の大きさ
80 / 86

78話 叔父の罪

しおりを挟む

 オバット侯爵邸の書斎で、アイルはポットからお茶を注ぎ…

 フジャヌにティーカップを渡すと、自分もお茶を飲む。 


「ニャムック叔父の、処分が決まった」

 お茶の香りを嗅ぎながら、フジャヌは口を開いた。


「・・・・・・」

 叔父ニャムックが、アイルの魔法を封じたせいで、長い間、魔法が使えず…

 救えなかった命が、たくさんある。

 
 叔父の裏切りにも、傷ついたが…

 自分の目の前で、たくさんの騎士たちが、命を落としたコトが、何よりもアイルは辛かった。

 亡くなった騎士たちの中には、アイルよりも若い騎士もいた。

 遺言を預かった騎士たちの遺族へ、アイルは泣きながら、手紙を書いて送っている。


 普段は寛容で、穏やかなアイルだが、とても叔父を、許す気にはなれない。



「サキット家は貴族の身分を剥奪され、叔父自身は、本来なら処刑されて当然なのだが、貴重な治癒魔法が使える治療師なのを考慮され、最近魔獣が頻繁に出没する、北東部の国境沿いを護る騎士団付き、治療師として、生涯死ぬまで強制的に奉仕させられることになる」

 ぬるい処遇ではあるが、コレからもっと魔獣の被害が出るコトが予想されるのなら、簡単に治療師を処刑出来ない。

代わりに奴隷紋を付け、最も危険な地で 奉仕させるのだ。


「奴隷紋を付けたコトで、叔父の口から、いくつか興味深い真実を聞き出せた」

 奴隷紋を付けられると、ウソを付けば、酷い苦痛を味わうコトになり、真実しか語れなくなるのだ。 


 お茶で口を濡らし、フジャヌはティーカップを、テーブルに置く。



「興味深い真実…?」

 アイルも、お茶をテーブルに置き、フジャヌの話を聞く体勢を整える。


「叔父は父上や母上の襲撃にも、関与していたらしい」

「そんなっ…!!」



 叔父が婿入りした、サキット家は魔法を使う、騎士の家系で…

 暴漢騒ぎの際も、2人の両親は、魔法で攻撃されたのは明らかで、叔父の妻の親類が手を下したのだ。


 アイルが生き残ったのは、叔父ニャムックには、計算外の出来事だった。

 叔父よりもずっと、優秀な治療師だった父ブサルだからこそ…

 最後の力を振り絞り、アイルを助けられたのだ。



「少し考えてみろ、私たちの両親が亡くなって、一番、得をしたのは、叔父ではないか?」

 冷ややかにフジャヌは、アイルを見つめた。


「…ああ! 私は… 私は… そんな人の言いなりに、なっていたなんて!!」 

 顔を掌で隠し、アイルはジワリと滲む涙を抑えた。


「お前が治療の為に、サキット家に居た時、ミニャックが看護の為に、一緒に居たコトは覚えているな?」


「まさか、ミニャックも… 心を操られて?!」

 アイルもずっと、ミニャックの心変わりに、違和感を感じていた。

 ミニャックは婚約者のハンガットに、夢中だったからだ。


「・・・・・・」

 フジャヌは黙って頷いた。

 魔法を封じても、アイルを気に入ったクラン公爵が、マニスとの婚約を解消させなかったコトから…

 叔父は新たにミニャックを巻き込む謀略を、巡らせたのだ。


 長女アンジンは、叔父と共謀して、マニスを上手くそそのかし、醜聞騒ぎを起こさせた。


 アンジンはクラン公爵の怒りを買い、最北の地にある修道院に、送られるコトになっている。




「そんな… そんな… そんな…っ!!」

 今度こそ、アイルの涙は止まらなくなった。



「泣くなアイル!! 簡単に泣いてはイケナイ!!」

 鋭い声で、フジャヌが叱った。


「でも… でも… お兄様!」

 ボロボロと、涙を流しながら、アイルは顔を上げた。


「お前は聖女の称号を得て、パダム様の妻になり、王子妃の地位に付く… コレからは、今までとは比にならない程の、悪意に曝されると言うコトだ、簡単に、負けてはイケナイ!!」


「・・・っ!!」

 パダムの名を出されて、アイルは胸を突かれた。


「パダム様の胸の中でなら、涙を流しても良い、伴侶なのだから… だが、他ではダメだ!」

「お兄様…」



「お前が王子妃になれば、私もお前の臣下になるのだから、そのコトを忘れるなよ」

 いつも厳しいフジャヌにしては、優し気な言い方だった。


「はい…」

 ポケットからハンカチを出し、アイルは涙を拭い、悲しみと後悔を抑え込んだ。


 この時アイルは、生前の父ブサルを思い出していた。

<普段は優しいのに、治療師の訓練を始めると、お父様は悪魔のように厳しく、口が悪かった… よくよく考えると、お兄様はお父様によく似ている… 今まで… 私は何故、気付かなかったのだろう?>



「お茶を飲め、気持ちを整えろ、簡単に弱みを見せるな」


「はい」

 フジャヌに言われるまま、ティーカップを取り、アイルはゆっくりお茶を飲む。


「良かったではないか、パダム様はお前にべた惚れだ! お前が恥ずかしい失態を犯そうと、全て受け入れてくれる、器の大きな方だ! 神に感謝しろ!!」




 意地悪な悪口にしか聞こえないが…

 フジャヌなりの、不器用な慰めだった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...