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20話 コンプラ―ル男爵
エントラーダ伯爵邸から歩いて数分の村にある、伯爵家が管理する教会で、次兄の結婚式は行われることになっていた。
アディとトルセールは、ぺちゃくちゃと楽しいお喋りをしながら教会まで来ると… 2人はお互いのパートナーのところへと行き腰を下ろした。
トルセールは夫である長兄が坐る祭壇近くの最前列へと行き… アディは家族席の後ろに作られた、参列者用の席へと向かった。
エントラーダ伯爵は、コンプラ―ル男爵の財産にはとても興味を示しているが、平民出身でベータ男性の男爵自身には嫌悪感を持っている。
実の息子、アデレッソスと婚約させる約束はしていても、正式に結婚するまでは明確に身分の差を固持し、身内扱いはしないと決めているのだ。
「コンプラ―ル男爵様、こんにちは! 今日は良く晴れた、気持ちの良い日ですね」
顔に笑顔を張り付けて、アディは自分の父親よりも何歳か年上の男爵に挨拶をした。
「これはアデレッソス殿、あなたの輝く瞳に比べれば、ただの青い空など負けてしまいますよ」
でっぷりと太った赤ら顔の男爵は、身体が重くなり過ぎて、最近は膝を悪くし歩く時は杖をついていた。
男爵が愛用する宝石が嵌め込まれた杖が、傍らに立て掛けてあった。
「ふふふっ… コンプラ―ル男爵様はお優しい殿方ですね、いつもそのように僕を褒めて下さって」
「いいえ、今日のあなたはいつもにも増して、瞳が輝いておられるから、何かとても良い出来事があったのではないかと、思ったのですよ?」
穏やかな言葉とは裏腹に、コンプラ―ル男爵の目つきは鋭く、アディは男爵の言葉の中に、子種を上手く受け取ることが出来たのか? と、問い質されているのだと、気が付いた。
「はい… 今夜、その予定です」
頬を染めてアディが答えると…
「おお、それは良かった! ちょっと失礼…」
上着のポケットから、アルコール度数が高い蒸留酒が入った携帯用のボトルを出して、男爵はごくりと飲んだ。
目を丸くしてアディは、男爵がお酒を飲む様子を見ていると…
「アデレッソス殿も、先に祝杯をあげますかな?」
お酒のボトルを男爵に差し出され、強いアルコール臭が鼻につき… それだけでアディは酔ってしまいそうになった。
「い… いえ、私はあまり飲めないので…」
アディは引きつり笑いを浮かべて、首を横に振って断った。
「そうですか?」
ニヤリとアディに笑い掛けると… もう一口飲んでから、男爵はボトルのキャップを締めて上着のポケットへとしまう。
「男爵様はお酒がお好きなのですか?」
「ええ、酒と葉巻が大好きなので、結婚したらこれだけはあなたに我慢してもらわないとね」
男爵は反対側の内ポケットから、金属製の掌サイズのケースを出して、ぱかりと中を開いてアディに3本並んだ葉巻を見せた。
「おやおや…」
アディが苦笑していると…
「まぁ、我慢するよりも、アデレッソス殿も私と一緒に楽しんでくれると、嬉しいのですがね」
「え?! 私も葉巻を… ですか?」
「ええ、やはり嫌ですかね?」
「いえ… 私は高価な葉巻を吸ったことがありませんから、何とも言えません」
「それはいけませんね! 私と結婚したら是非、試してみて下さい… それにあなたが飲めそうな良い酒も教えてあげますよ、酒を飲まないなんて人生を損してしまいますよ?!」
「…はい、男爵様がそう言われるのなら」
葉巻どころかお酒でさえ、エントラーダ伯爵家では、オメガに酒の味など理解できないと…
アディは他家の晩餐会やパーティでしか、飲酒したことが無かった。
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