花嫁になれなくて。

金剛@キット

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4話 素晴らしい胸筋。

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「逃亡防止目的で女装させて部屋に軟禁?! …独占欲、強過ぎる恋人だな」

 ワイシャツの袖を肘まで捲り、英俊はマグカップに注いだコーヒーを明穂に手渡した。


「スマホに免許証も全部取り上げられて、バイトも出来ないし」

 英俊の部屋で服を借りて着た明穂は、ソファにちんまりと座りマグカップを受け取ると、ペコリと頭を下げて礼を言う。

<スマホを奪われて何が一番辛かったかって… 今までずっとお世話になって来た、英さんのお宝映像(ずりネタ)が見れなくなったコトだよ!>

 中学時代から、お宝映像にお世話になり続けたという経緯が、英俊は明穂の "今も好きな人" になった要因でもある。


 ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを胸まで外した英俊が、熱いコーヒーを一口飲んでから、マグカップを一旦テーブルに置き、シュルシュルと音を立てて着替える。


 俯き加減でマグカップに口を付け、明穂は英俊の着替えをドキドキと胸躍らせながら盗み見た。

<ああ、クソッ!! 今はこの素晴らしい英さんの胸筋を撮影できないコトが、痛恨の極みだし!!>



「それにしても高校を卒業して、スグに年上の恋人と同棲生活とは、可愛い顔をして明穂もなかなかヤルなぁ!」

 ニヤリと笑う英俊に、明穂の頬は薄っすらと赤くなる。


「実際は居候の方が正しいよ、せっかく就職した製菓工場は潰れちゃって… 僕も仕方なかったから」

<本当に僕は絶望的に運が悪いなぁ…>

 苦笑を浮かべて首を横に振り、明穂はソレ以上は自分に起きた不幸を考えないようにした。

 考え出すと、ウンザリして何もかもがバカらしくなるからだ… 
 ソレこそ、生きるコトさえ嫌になってしまう。


「ソレで、明穂は実家に戻るんだろう?」

 トレーナーを頭から被り腕を通しながら、英俊は明穂をジッと見つめた。


「やっぱり… 一度、恋人の家に戻ろうと思う」

 <全財産が詰まったカバンを取り戻さないと、身動きが取れないし…>


 英俊と再会できたのは嬉しかったけど、明穂も落ち着いて考えてみれば、何の用意も無くキレて飛び出したのは、間違いだったと反省していたところだ。


「オイオイ! やり直すつもりか?」

 眉をひそめて心配そうにする英俊に、明穂は顔の前で掌をひらひらと振る。


「ソレは無いけど、話し合ってみようかと思うんだ…」

 グウゥゥゥ~ッ… と話の途中で明穂の腹が鳴りだし…


「腹減ったな… ピザでも取るか」

 苦笑する英俊。



「材料あれば作るけど? 何かある?」

 ウルサイお腹を押さえて、明穂は赤い顔で尋ねた。



<料理は得意だ、なんせ元カレの家で "花嫁修業" をしていたのだから>


 女装姿で。





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