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65話 当主の手記
しおりを挟むアスカルがレガロ伯爵夫人になって、2ヶ月が過ぎようとしていた。
ようやく伯爵代行の仕事にも慣れ、執務室の帳簿棚を整理していると… アスカルは隠すように棚の奥に並べられた、帳簿よりも一回り小さな書物を見つけた。
「んん…? 何だろう… あっ?!」
右端の物を手に取り見てみると… 表紙を開いた1ページ目に当主の名前が記されていて、グランデの祖父の手記だと気づく。
<あ…… グランデ様のお父様が亡くなった時のことが書いてある… すごく字が乱れているのは、それだけ息子を亡くしたお祖父様の心痛が強かったせいだね… お気の毒に…>
パラパラと適当にめくり、アスカルは最後のページで手を止める。
「“私は… 後継者に選んだ次男のレクトに期待をかけ過ぎた… 長男のリコルが歪んだ人間に成長したのは、私が2人の息子たちにかけた、期待に片寄りがあったからだ”」
アスカルは手記をそこまで読み、パタンッ… と閉じて表紙をなでた。
<そうか… お祖父様も、先代リコルがグランデ様のお父様を殺したのだと、気づいていたのかもしれない… 実の父親だしね… この手記はあまりにも生々しくて、僕はまだこれは読む気になれないなぁ…>
ひどく胸が痛み、もう少し客観的に見れるようになるまで読むのは止めようと、アスカルは手に持つ手記を、元の場所に戻す。
予想通り、先代リコルの手記は無く… 恐らく歴代当主たちが手記を残していたことさえ、リコルは知らなかったのではないか? と思い、アスカルはため息をつき首を横に振る。
「それよりも、僕は… すごく運が良いのかも知れない!」
別の棚から巻物状の家系図を引っ張り出し、幅広の長い紙を痛めないよう、丁寧にゆっくりと絨毯の上に広げ、アスカルは180年前の当主の名前を探す。
遡ること180年前にも、このインテルメディオ王国で魔王が復活した。
黒騎士団を中心に王国中の騎士が集結し、当時の王族たちと共に、死闘を繰り広げ、全滅ギリギリのところで踏みとどまり、魔王を討伐することに成功した。
<当時のレガロ伯爵が何を考え、どんな行動をとったのか参考にしよう!! 少しでも多くの情報を手記で調べて… 領民への対処もあるし… これ以上グランデ様にばかり頼ってはいられないよ!>
グランデは部下だった元黒騎士たちを雇い、領地に派遣したが… それでも手が足らず、農作物や家畜に大きな被害が出始めている。
いつ領民に死傷者が出ても、おかしくない状況だった。
そのうえ規模は小さいが、3日に一度は魔獣の群れの襲撃が、王国のどこかであり… 黒騎士団は毎日大忙しで、グランデは休む暇も無く、騎士団本部に泊まり込む日が多くなっている。
このまま魔獣との戦いが、日を追うごとに、激化してゆくのは目に見えていた。
「180年前の当主… ああ、この人だ! 第4代目レガロ伯爵、カベサ様!」
カベサの手記を探し出しパラパラとめくると、領内で起きた魔王関連の出来事について詳細に記されてある。
「ありがとうございます、カベサ様! 貴方はとても、良いご当主だったようですね!」
アスカルはニコリと笑い、天に向かって感謝の祈りをささげた。
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