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112話 準備
しおりを挟む空色のシャツを着ると、リヒトは首から姿変えのペンダントを下げる。
シャツの上に北方の寒さに対応した、風を通さない分厚い紺色の生地に、金のパイピングを施したシュナイエン騎士団の真新しい騎士服を、リヒトはニコリと微笑みベッドの上に広げ、じっくりとながめた。
シュッ… シュッ… と衣擦れの音を立てて騎士服に袖を通しボタンを掛け、リヒトは付いてもいない埃を、ぱんっ、ぱんっ、と払う。
王都の騎士団に所属する騎士たちは、貴族出身の者がほとんどで、また仕事内容も貴族に関する案件ばかりである。
その為、見た目を意識し装飾過多で華美な印象の騎士服を採用する騎士団が多い。
流石に魔獣と戦うのが主な仕事であるシュナイエン騎士団は、質実剛健な考え方が染みついているだけあり、装飾が少なく見た目は質素で渋いが、機能的な造りだ。
(着る人を選ばない、誰にでも似合う、着やすい騎士服でもある)
艶やかな孔雀色の髪を項の辺りで1つにまとめ、背中にたらすと…
剣を装着する為の幅広いベルトを、リヒトは細い腰にキュッと締めた。
ベルトに付いた金具に、父プファオ公爵から贈られた孔雀色の魔石がはめ込まれた剣の鞘を、カチリッ… と音を立てて固定する。
右利きのリヒトは、腰の左側に差した剣の柄を握り、鞘から引き抜いてみると、ほんの少し、途中で剣が引っ掛かるような違和感を感じた。
ベルトと金具の部分で、剣の角度を調整してから、再度試しに抜くと…
今度はなめらかに剣が鞘をすべる感覚を掌に感じ、リヒトは満足して剣を鞘に納める。
リヒトの身分は辺境伯夫人から、シルト付の見習い騎士となった。
細いリヒトの腰に、にゅうっ… と太くてごつい手が絡みつき、グイッ… と引き寄せる。
「何を着ても、リヒトは良く似合う! 無骨な騎士服さえ、優雅に見えるな…」
背後から腰を抱き、リヒトの項に鼻をこすりつけ、シルトは満足そうに囁いた。
「ふふふふ… そういうシルト様の方が、良くお似合いですよ!」
リヒトがいつも惚れ惚れとする、シルトの堂々たる身体を際立たせる、シュナイエン騎士団の騎士服を着ていた。
騎士団の騎士服は、簡単な身分証代わりにもなり…
魔獣が出没する地域に行くとなれば、騎士団に所属する騎士の身分は、何かと便利に使えるからだ。
「とても似合うのに、なぜ普段は騎士団の騎士服を着ないのですか?」
素朴な疑問を口にして、リヒトは自分の腰に回った長い腕を撫でた。
シルトはいつも、1人だけ自前の騎士服を着ている。
「父と兄に反抗していた頃の名残だ…」
「名残?」
身体をひねり、リヒトは不思議そうにシルトを見上げた。
「昔の私は青くて頑なだった、野蛮人などと呼ばれて意地になり、私は同僚の騎士たちに差を付けて、孤高を気取りたかったのさ」
シルト自身が特別に仕立てさせた、こだわりの騎士服には、頑丈な防御の魔法を組み込んである。
シュナイエン騎士団の騎士服にも組み込まれているが、シルトは独自の防御魔法が使いたかったのだ。
風の魔法を受け継がなかったせいで、魔法に関して何度も苦い思いをした経験から…
大雑把に見えて、シルトは案外凝り性だった。
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