辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

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126話 平民街

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 リヒトとシルトたち一行は、プフランツェ侯爵領から馬に騎乗して王都へと入り…
 王宮や、大神殿、貴族の邸宅が密集する中心街をくるりと囲む、外郭に位置する平民街を通り抜けようとした時、すぐに以前とは違う気配を感じた。


「瘴気だ!!」
 胸にリヒトを抱き込むようにして、馬の手綱を握るシルトは…
 前回来た時と比べて、明らかにすさんでいる王都に、思っていたよりも悪い状況だと知る。 

「シルト様、これは…!」
 北方でリヒトが祭祀を執り行う前の、シュネー城塞を思い出させる、濃い瘴気が辺り一面にただよい、街並みさえも薄汚れた灰色に見えた。

 すれ違う王都で暮す民たちは皆、顔色が悪くうつろな目をしている。

「瘴気がこれ以上濃くなれば、心を病む者が出て来て、そのまま魔獣化するかもしれない」
 険しい表情で、シルトは前方だけを見ながら、リヒトと話し続けた。

「民たちが魔獣…化…!!」
 リヒトは身体の震えが止まらなかった。
 
「我々も例外ではない、濃い瘴気に長くさらされれば、誰でもそうなる…」




 平民街を抜け、大神殿へと近づくほど瘴気は極端に薄くなった。

「大神殿の神官たちが日夜、女神に祈りを捧げ続けているから、瘴気も薄い… リーラ公爵もこの辺りに自分の邸を持っているだろう?」
 冷笑を浮かべて、シルトはリヒトにたずねた。

「はい、プファオ公爵邸も、ブラウ公爵邸もすぐ近くにあります…」
 手綱を握るシルトの腕をキュッ… とつかみ、リヒトは答えた。

「リーラ公爵は自分の邸宅と王宮にばかりいて、王都の外郭にあたる平民街を漂う瘴気を、自分の肌で感じていないから、愚かなことができるのさ!」

「私もそう思いました… 父上は子供が好きだから、平民街に作った孤児院や救護院へ、様子を見に通っていたので、あの瘴気の状態に危機感を強く感じていたでしょうね」
 リヒトとヴァルムが成長し、母の手をわずらわせなくなると…
 公爵と公爵夫人は平民街に孤児院を作り、孤児院で育てた子が高度な教育を受けられるようにと、次は無償で学べる学校を作った。


「そうか…」

「正直に言うと、私は平民街をほとんど見たことがありませんでした…」
 落ち込みを隠せず、顔を伏せたリヒトの声は、どうしても弱々しくなってしまう。

「それは多忙過ぎて、見に行く暇が無かったからだろう?」
 繊細な貝殻のようなリヒトの耳に唇を寄せ、1つキスを落としシルトは慰めた。

「はい、シルト様… ですからシュネー城塞に戻ったら、私はもっと民たちの所へ行きたいです」
 尊敬する父や母のようになりたくて…
 シュナイエン領の領民たちと、リヒトはもっと親交を深めたいのだ。

「いくらでも、連れて行ってやる、いくつも美味い店があるんだ!」
 シルトの顔から冷笑が消え、本物の笑みが浮かぶ。

「もう、そういう意味ではなくてですね…!」
 身体をひねって、リヒトは背後のシルトを見上げようとする。

「分かっているさ!」
 シルトは身体をかがめて、リヒトの頬にすりすりと自分の頬をこすり付けた。

 髭がチクチクして痛いが、暖かいシルトの頬が好きだから、リヒトは文句を言わなかった。




 日が暮れる前に、リヒトとヴァルムは誰かに見つかることも無く…


 無事に目的地の大神殿へと到着した。











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