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127話 大神殿の大神官
しおりを挟むリヒトとシルト一行が神殿内に入ると、中央部にある女神の円環でおおよそ200人近い神官たちが祈りを捧げていた。
まさに大神殿という規模で、シュネー城塞の神殿が4つは入りそうな広さに、柱や壁、天井と朱色に塗られ、金と銀でシュメッターリング王国の象徴である蝶を描き…
そこに何種類もの宝石が散りばめられているのである。
極彩色の絢爛豪華な装飾は華やかさを通り越して… キンキラキンで、強烈に派手だった。
初めて訪れたノイは、口をパカリと開いて床から天井まで、ぼうぜんと見つめている。
ボンヤリしている場合では無いのだが、それでも思わず見てしまう派手さだ。
「歴代の"花の令息" の称号を持つ王妃たちと、国王がそろって祈りを捧げる場所だけあるだろう? "豪華王" と呼ばれた6代前の国王陛下のしわざらしいぞ」
開ききったノイの口を、ぱくんっ… と下顎を持ち上げて閉じながら… オーベンは、大神殿マメ知識を披露した。
ノイは、純白の石に繊細な彫刻を施した、シュネー城塞の神殿が急に恋しくなる。
「いつ来ても、落ち着きのない神殿だな」
珍しく寡黙なフェルゼンが、ぽつりともらした。
神官の1人がシルトたちに気付き、静かに立ち上がり、女神の円環から離れた。
「お待ちしておりました、シュナイエン辺境伯様、私は大神官ヴァッサーファル様付き、補佐神官を務めるタヴェレと申します」
タヴェレは頭を下げ、シルト一行に深くお辞儀をすると、リヒトにそっと微笑みかける。
「リーラ公爵家とブラウ公爵家に、縁のある神官が、こちらにはいるとシュピーゲル様に聞いたのですが?」
ひそひそとリヒトが気になっていた問題を、タヴェレにたずねると…
「ブラウ公爵家に縁のある者たちが、自分たちの保護を求めて来たので、その時リーラ公爵家の者が誰かを聞き出し、今は知人の治療師に協力してもらい、その者たちを眠りの魔法で深く眠らせてあるので、3日は起きないはずです」
タヴェレはニヤリと、神官らしくない悪い笑みを浮かべる。
「なるほど、それは良い手だ! 流石に私も神官は切りたくないからな」
物騒な発言の後、シルトもタヴェレと同じく、悪い笑みを浮かべた。
「あっ!」
タヴェレの後ろから、もう1人の大神官付き補佐神官レーゲンに支えられ、ゆっくりと歩いて来る大神官ヴァッサーファルの姿を見つけ、リヒトは心配そうに声を上げる。
「ヴァッサーファル様! どこかお身体を悪くされているのですか?」
久しぶりの再会だが、挨拶よりも先にリヒトは心配ごとを口にした。
「いやいや、最近はずっと朝から晩まで祈りを捧げているから、少し疲れてしまってなぁ」
「治療師は?!」
「なに、ちょっと眠ればすぐに治るから大丈夫だよ」
「本当に?」
ヴァッサーファルからレーゲンへ視線を移し、本当にそうですか? とリヒトが目顔で問うと…
苦笑いを浮かべたレーゲンはコクリッ… とうなずく。
「良かった!」
ニコニコとリヒトは破顔する。
「リヒト」
話が落ち着いたところを見計らい、シルトは紹介しろとリヒトに声をかけたのだ。
お互い有名人であり、名前だけは知っていたが、ヴァッサーファルとシルトは初対面だった。
「ああ! はい、ヴァッサーファル様 この方がシュナイエン辺境伯シルト様です、ええっと… 私の… その… 夫…ですぅ…」
自分がシルトと、愛し愛されて結婚したという事実にまだまだ慣れなくて…
子供の頃から自分を知る、ヴァッサーファルが相手だと思うとついつい照れてしまい、恥ずかしがり屋のリヒトは、ごにょ… ごにょ… となってしまう。
「リヒト… 私が夫だとそんなに恥ずかしいか?」
いつもは生真面目に、ハキハキと話すリヒトが… 顔を真っ赤にして両手の指を組み合わせ、もじもじする姿に、シルトはちょっとだけ傷ついた。
「ええ?! 違います! 違いますから!! シルト様がではなくて… ええっと…ですね! ですから、私が… 私が…っ」
朱色に塗られた神殿の柱に負けないぐらい、さらに赤くなるリヒト。
「フッフッフッフッ… いやいやシルト殿、昔からリヒトはこの調子なのですよ」
子供の頃リヒトは、当時はそれなりに仲の良かった王太子にエスコートされ、王宮の庭園を散歩した時…
顔から火を噴きそうなほど赤く染まり、散歩の途中で鼻血を出し、その夜には高熱を出した経験がある。
ちなみにシルトに初めて抱かれた時は、発情期と性奴隷紋を刻まれた衝撃が重なり、リヒトに照れてる余裕が無かった。
「そうか! 可愛いなぁリヒト」
愛し気にリヒトの頭を撫でるシルトに、増々リヒトは赤くなり…
「そそそそ… それより、早… 早く祭… 祭祀を、とり… とり行いましょう!!」
掌で真っ赤な顔を隠し、急かすリヒト。
「そうだな、リヒトの言う通り祭祀をとり行おう」
ニコニコと微笑みがら、ヴァッサーファルはリヒトに同意する。
「やっぱり可愛いなぁ… リヒトは!」
しみじみと、シルトは自分の妻を褒める。
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