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教え子の後始末(後)〜セルシュside〜
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首座主教室に呼ばれ、司祭がノックをして私の訪いを告げ中から扉が開かれる。
首座主教は執務机に座り両側に二人の枢機卿が立っていた。
部屋に入ってすぐに跪く。
「我らが偉大なる神ノーダムの使徒たる首座主教様にご挨拶致します。
本日は愚生に身に余るお慈悲を賜り感謝の念に耐えません。」
「昨日の今日でよく教会に来れるものだ。貴方の厚顔さには驚かされますよ。」
アルマエルが怒りを抑えて嫌味を言ってきた。
気持ちはわかる。サウスリアナ様に自身の信仰心を例に説教され、エジエル枢機卿の前であれ程の無礼を働いたのだ。
「昨日の非礼はお詫び申し上げます。
サウスリアナ様は記憶がない上に個人の秘密の最たる日記を軽々しく扱われる事に感情的になってしまったのです。
愚生も共感し、崇高なるアルマエル枢機卿に卑賎の者の心中を晒してしまい慚愧に堪えません。」
アルマエルの顔が一瞬引き攣る。
教会の神至上主義は理解できるがまったく共感出来ないので、多少の嫌味は言える。
他の者からすると私は変わり者らしいが。
「よく動く口ですね。」
「アルマエル、止めなさい。昨日の件は我等にも非があった。サウスリアナ殿やセルシュ殿の言い分も理解せねばならない。」
アルマエルは悔しそうに唇を噛み締めたが、それ以上は何も言わなかった。
「セルシュ殿、我らはまだ足りない部分もあります。それによりサウスリアナ殿の心を傷つけた。だがそなたの挑発的な発言はこれ以上は控えるように。
サウスリアナ殿が昨日の件で立ち直れないようなら私が謝罪に訪うと伝えて下さい。」
サウスリアナ様が傷心?
有り得ない。馬車の中で問題なかったとか言ってたぞ。
「エジエル様にそのような真似はさせられません!
必要なら私が行きます!!」
「私の責任だ。己で責を果たさねば神ノーダムの教えに背くことになる。」
固い。私には頭が痛くなる程、固いエジエル枢機卿だが、アルマエルはキラキラした目で見ている。
ちょっと気持ち悪い。
先に進もう。
「エジエル枢機卿、サウスリアナ様は自身こそが神ノーダムに非礼を働いたとお悩みでした。エジエル枢機卿のお言葉を嬉しく思うでしょう。昨日の件はお許し頂けたとお伝えしても?」
「ええ、お願いします。」
サウスリアナ様にじゃなくマセル公爵にね。
「首座主教様。もう一つご相談したい事がございます。」
首座主教は読めない笑顔で促す。
「キリカの件で皇帝陛下が皇太子殿下等の処刑を独断で行う恐れがございます。
杞憂であればよいのですが、皇室の醜聞を抑える為なら強硬手段に出てもおかしくありません。」
さて、どうでるかな?
「それは困った。
明日にでも皇室にこの件の公表を言い渡すつもりなのだが·····」
思わず舌打ちしたくなった。
此方の望みを知っていて焦らせ言わそうとしている。
エジエル枢機卿に膝を折らせた報復にしては軽い方だと己を納得させ跪き頭を垂れた。
「首座主教様にお願い申し上げます。どうか王妃陛下、皇太子殿下、第二皇子殿下の教会での保護をお許しください。」
これが通らなければサウスリアナ様の王妃冊立はほぼ確定だ。
そして皇宮で暗殺され病死として扱われる。
それを避ける為ならどんな屈辱でも耐えなければならない。
私が覚悟を決めた時、首座主教から笑い声が聞こえた。
「こちらも王妃達を保護しようと思っておった。
これ以上の懇願は要らぬよ。」
やはり教会も保護したかったか。
動かなかったのは、私達が動くと予想していたからだろう。
相手の手のひらの上で踊る腹立たしさはあるが、万が一教会が王妃達を切り捨てたらサウスリアナ様には後がなかった。
「そなたも可愛い教え子に振り回されるな。
いや、望んでその立場におるのかな。」
食えない笑顔で首座主教が謎かけのような言葉を向けてきた。
「少々変わっていますが私の教え子なので見捨てる訳にはいきません。」
首座主教とアルマエルが驚いたような顔をした。
「そなたは自分の心と向き合った方が良い。」
「ひねくれすぎて自分の心すらわからぬのでしょう。」
首座主教は兎も角アルマエルの勝ち誇った顔は腹が立つ。
私はいつも自分には正直だ!
首座主教は執務机に座り両側に二人の枢機卿が立っていた。
部屋に入ってすぐに跪く。
「我らが偉大なる神ノーダムの使徒たる首座主教様にご挨拶致します。
本日は愚生に身に余るお慈悲を賜り感謝の念に耐えません。」
「昨日の今日でよく教会に来れるものだ。貴方の厚顔さには驚かされますよ。」
アルマエルが怒りを抑えて嫌味を言ってきた。
気持ちはわかる。サウスリアナ様に自身の信仰心を例に説教され、エジエル枢機卿の前であれ程の無礼を働いたのだ。
「昨日の非礼はお詫び申し上げます。
サウスリアナ様は記憶がない上に個人の秘密の最たる日記を軽々しく扱われる事に感情的になってしまったのです。
愚生も共感し、崇高なるアルマエル枢機卿に卑賎の者の心中を晒してしまい慚愧に堪えません。」
アルマエルの顔が一瞬引き攣る。
教会の神至上主義は理解できるがまったく共感出来ないので、多少の嫌味は言える。
他の者からすると私は変わり者らしいが。
「よく動く口ですね。」
「アルマエル、止めなさい。昨日の件は我等にも非があった。サウスリアナ殿やセルシュ殿の言い分も理解せねばならない。」
アルマエルは悔しそうに唇を噛み締めたが、それ以上は何も言わなかった。
「セルシュ殿、我らはまだ足りない部分もあります。それによりサウスリアナ殿の心を傷つけた。だがそなたの挑発的な発言はこれ以上は控えるように。
サウスリアナ殿が昨日の件で立ち直れないようなら私が謝罪に訪うと伝えて下さい。」
サウスリアナ様が傷心?
有り得ない。馬車の中で問題なかったとか言ってたぞ。
「エジエル様にそのような真似はさせられません!
必要なら私が行きます!!」
「私の責任だ。己で責を果たさねば神ノーダムの教えに背くことになる。」
固い。私には頭が痛くなる程、固いエジエル枢機卿だが、アルマエルはキラキラした目で見ている。
ちょっと気持ち悪い。
先に進もう。
「エジエル枢機卿、サウスリアナ様は自身こそが神ノーダムに非礼を働いたとお悩みでした。エジエル枢機卿のお言葉を嬉しく思うでしょう。昨日の件はお許し頂けたとお伝えしても?」
「ええ、お願いします。」
サウスリアナ様にじゃなくマセル公爵にね。
「首座主教様。もう一つご相談したい事がございます。」
首座主教は読めない笑顔で促す。
「キリカの件で皇帝陛下が皇太子殿下等の処刑を独断で行う恐れがございます。
杞憂であればよいのですが、皇室の醜聞を抑える為なら強硬手段に出てもおかしくありません。」
さて、どうでるかな?
「それは困った。
明日にでも皇室にこの件の公表を言い渡すつもりなのだが·····」
思わず舌打ちしたくなった。
此方の望みを知っていて焦らせ言わそうとしている。
エジエル枢機卿に膝を折らせた報復にしては軽い方だと己を納得させ跪き頭を垂れた。
「首座主教様にお願い申し上げます。どうか王妃陛下、皇太子殿下、第二皇子殿下の教会での保護をお許しください。」
これが通らなければサウスリアナ様の王妃冊立はほぼ確定だ。
そして皇宮で暗殺され病死として扱われる。
それを避ける為ならどんな屈辱でも耐えなければならない。
私が覚悟を決めた時、首座主教から笑い声が聞こえた。
「こちらも王妃達を保護しようと思っておった。
これ以上の懇願は要らぬよ。」
やはり教会も保護したかったか。
動かなかったのは、私達が動くと予想していたからだろう。
相手の手のひらの上で踊る腹立たしさはあるが、万が一教会が王妃達を切り捨てたらサウスリアナ様には後がなかった。
「そなたも可愛い教え子に振り回されるな。
いや、望んでその立場におるのかな。」
食えない笑顔で首座主教が謎かけのような言葉を向けてきた。
「少々変わっていますが私の教え子なので見捨てる訳にはいきません。」
首座主教とアルマエルが驚いたような顔をした。
「そなたは自分の心と向き合った方が良い。」
「ひねくれすぎて自分の心すらわからぬのでしょう。」
首座主教は兎も角アルマエルの勝ち誇った顔は腹が立つ。
私はいつも自分には正直だ!
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