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【閑話】〜リッツヘルム〜中編
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いくら学園内の事とはいえ筆頭公爵令嬢で皇太子の婚約者が刺されたんだ。
皇宮内は大騒ぎになっていた。
公爵は皇太子との婚約白紙に刺した虫けらを寄越せと要求。
騎士団長は公爵に懇願し一族を引き合いに出してまで猶予をもらい、皇帝も便乗して婚約白紙を保留にした。
公爵の護衛として付いてきていた俺は内心呆気にとられていた。
公爵令嬢を、しかも皇太子の婚約者を刺すような虫けらの為に一族全てをかけるのか?
こいつの領地の民でなくて良かった。
便乗した皇帝はわかる。
冠を持つ奴はこんなもんだ。
臣下がしっかりしてりゃ上が暗君や暴君でもない限りなんとかなる。
だが皇太子まで虫けら並ならどうなるか。
俺は皇太子をチラリと見たが自分の立場しか心配していないだろう。
現に婚約者の容態さえ聞かない。
皇后は学園は平等とか息子は関係ないとか言ってるが本気か?
学園内で皇太子の婚約者を皇太子の側近が皇太子の愛人を連れている時に刺したんだぞ。
もう突っ込むのも疲れた。
公爵が皇宮の執務室で俺にオウクスとオウクスの元家族、そしてマセル公爵家の親族で不穏な動きをしていた貴族を全て捕え拷問するよう命令してきた。
オウクスは死なない程度に、他は死ぬまでに自白したら犯罪奴隷にして売る。
辺境で拷問した側とされた側の両方の経験がある俺が適任だった。
この時にオウクスを何故養子にしたか皆がわかった。
オウクスがマセル公爵子息として行動してれば本当に次期として選ばれ、反すれば身内の掃除をする生き餌として使う。
後者となったオウクスは中央広場で罪状を読み上げて処刑だったんだが、虫けら皇太子が出てきて処刑は取り止めになった。
公爵は公爵家の面子を潰されまくってるから怒り心頭だ。
オウクスは平民として邸から放り出されたが、拷問による傷は深く明日まで生きられないだろう。
邸の使用人全員がオウクスを見送った。
嫡子に害を為せばこうなると見せしめだ。
わかってない奴も何人かいるがそのうち消える。
それから暫くしてサウスリアナ様が記憶喪失だと皇宮の公爵の元に連絡が来た。
公爵はさすがに邸に戻りサウスリアナ様と会ったが···
その日は皇宮に戻らず翌日もサウスリアナ様と面会して、記憶喪失の娘にボロカスに言われ凍りついていた。
サウスリアナ様は普通の事を言っていた。
この場合の普通とは真っ当な親子関係の事で、貴族それも感情の希薄なマセル公爵には異常な発言だった。
俺も驚いてる。
サウスリアナ様は公爵に似た方だったからだ。
今のサウスリアナ様は平民の普通の女の子と同じで喜怒哀楽がしっかりある。
公爵は執務室で暫く篭ってから俺を呼びサウスリアナ様の専属護衛をするように命じられた。
特に拒否する理由もないので命令に従いサウスリアナ様の護衛となった。
お嬢様は知識も教養もなく、このままでは社交界に出られない。
ましてや虫けら皇太子と婚約が無くなれば公爵位はお嬢様が継ぐがそんなもん無理だ。
お嬢様の希望と公爵の危機感が合わさり、口の固い家庭教師がやってきた。
セルシュ・ディ・ロッゼル。
頭脳明晰、容姿端麗、博学多才でお嬢様が記憶喪失なのを知っているから、始めは幼児に教えるようだったが、1度で吸収していくので、どんどん早くなっていった。
それに文句を言いながらもついていってる。
そんな中虫けら共が先触れ無しに邸に来た。
おそらくお嬢様が一人で対応すると思い、言いくるめるつもりで突撃訪問したんだろう。
相手の誤算はセルシュ様がいた事だ。
案の定セルシュ様に言い負かされ退散していった。
しかも隠し部屋から会話を全て記録させて公爵に早馬で送っている。
抜け目がないな。
その件が決定打となって婚約は白紙になり、虫けらは騎士団の反省室、通称拷問室に入れられた。
騎士団長も職を辞す事になり引き継ぎ次第、爵位も兄弟に譲る。
それから学園に通うまでお嬢様は地獄のような日々を送っていた。
授業は阿呆な俺にはもうついていけない内容だし、マナー、ダンスも加わり、それを見ていた俺は貴族令嬢に生まれなくて良かったとつくづく思った。
ある程度外面を保てるようになったお嬢様を尊敬した。
ーー内面は平民だが。
学園で俺とアヤナが付くのを特別に許可され、付いて行ったが、一日でわかった。
外面は保てているが、以前と違い好戦的で好奇心旺盛だ。
何やら企んでいてアヤナを副理事長と接触させている。
理事長は皇族なので信用してないんだろう。
学園通学再開から三日目に虫けら共が接触してきた。
お嬢様に触れる阿呆を押さえ込んだら、ピンク髪の女が俺を非難してきた。
女狐を正面から見たのは初めてだが、全身の毛が逆だった。
見た目は庇護欲をそそりか弱い振りをしているが、此奴はおぞましいモノだ。
お嬢様と虫けらの会話を聞きながら、俺はアレが何かを注意深く観察した。
だが殆ど綻びが少なかった。
最後は俯いたままで表情は分からなかったが、俺の警戒心は強まる一方だった。
翌日の学園でお嬢様は友達募集のような事を言っているが無理だろ。
人をやり込める時にあんな爛々とした金の瞳で、頭から食べますよと言わんばかりに口に弧を描くような肉食獣を、誰が友達にしたいと思う?
見た目は美少女、中身が幼児の肉食獣なんぞ皆逃げる。
アヤナは中身が幼児って知ってるから、侍女をやっていけるんだろう。
俺は孤児院の悪ガキで慣れてるしな。
皇宮内は大騒ぎになっていた。
公爵は皇太子との婚約白紙に刺した虫けらを寄越せと要求。
騎士団長は公爵に懇願し一族を引き合いに出してまで猶予をもらい、皇帝も便乗して婚約白紙を保留にした。
公爵の護衛として付いてきていた俺は内心呆気にとられていた。
公爵令嬢を、しかも皇太子の婚約者を刺すような虫けらの為に一族全てをかけるのか?
こいつの領地の民でなくて良かった。
便乗した皇帝はわかる。
冠を持つ奴はこんなもんだ。
臣下がしっかりしてりゃ上が暗君や暴君でもない限りなんとかなる。
だが皇太子まで虫けら並ならどうなるか。
俺は皇太子をチラリと見たが自分の立場しか心配していないだろう。
現に婚約者の容態さえ聞かない。
皇后は学園は平等とか息子は関係ないとか言ってるが本気か?
学園内で皇太子の婚約者を皇太子の側近が皇太子の愛人を連れている時に刺したんだぞ。
もう突っ込むのも疲れた。
公爵が皇宮の執務室で俺にオウクスとオウクスの元家族、そしてマセル公爵家の親族で不穏な動きをしていた貴族を全て捕え拷問するよう命令してきた。
オウクスは死なない程度に、他は死ぬまでに自白したら犯罪奴隷にして売る。
辺境で拷問した側とされた側の両方の経験がある俺が適任だった。
この時にオウクスを何故養子にしたか皆がわかった。
オウクスがマセル公爵子息として行動してれば本当に次期として選ばれ、反すれば身内の掃除をする生き餌として使う。
後者となったオウクスは中央広場で罪状を読み上げて処刑だったんだが、虫けら皇太子が出てきて処刑は取り止めになった。
公爵は公爵家の面子を潰されまくってるから怒り心頭だ。
オウクスは平民として邸から放り出されたが、拷問による傷は深く明日まで生きられないだろう。
邸の使用人全員がオウクスを見送った。
嫡子に害を為せばこうなると見せしめだ。
わかってない奴も何人かいるがそのうち消える。
それから暫くしてサウスリアナ様が記憶喪失だと皇宮の公爵の元に連絡が来た。
公爵はさすがに邸に戻りサウスリアナ様と会ったが···
その日は皇宮に戻らず翌日もサウスリアナ様と面会して、記憶喪失の娘にボロカスに言われ凍りついていた。
サウスリアナ様は普通の事を言っていた。
この場合の普通とは真っ当な親子関係の事で、貴族それも感情の希薄なマセル公爵には異常な発言だった。
俺も驚いてる。
サウスリアナ様は公爵に似た方だったからだ。
今のサウスリアナ様は平民の普通の女の子と同じで喜怒哀楽がしっかりある。
公爵は執務室で暫く篭ってから俺を呼びサウスリアナ様の専属護衛をするように命じられた。
特に拒否する理由もないので命令に従いサウスリアナ様の護衛となった。
お嬢様は知識も教養もなく、このままでは社交界に出られない。
ましてや虫けら皇太子と婚約が無くなれば公爵位はお嬢様が継ぐがそんなもん無理だ。
お嬢様の希望と公爵の危機感が合わさり、口の固い家庭教師がやってきた。
セルシュ・ディ・ロッゼル。
頭脳明晰、容姿端麗、博学多才でお嬢様が記憶喪失なのを知っているから、始めは幼児に教えるようだったが、1度で吸収していくので、どんどん早くなっていった。
それに文句を言いながらもついていってる。
そんな中虫けら共が先触れ無しに邸に来た。
おそらくお嬢様が一人で対応すると思い、言いくるめるつもりで突撃訪問したんだろう。
相手の誤算はセルシュ様がいた事だ。
案の定セルシュ様に言い負かされ退散していった。
しかも隠し部屋から会話を全て記録させて公爵に早馬で送っている。
抜け目がないな。
その件が決定打となって婚約は白紙になり、虫けらは騎士団の反省室、通称拷問室に入れられた。
騎士団長も職を辞す事になり引き継ぎ次第、爵位も兄弟に譲る。
それから学園に通うまでお嬢様は地獄のような日々を送っていた。
授業は阿呆な俺にはもうついていけない内容だし、マナー、ダンスも加わり、それを見ていた俺は貴族令嬢に生まれなくて良かったとつくづく思った。
ある程度外面を保てるようになったお嬢様を尊敬した。
ーー内面は平民だが。
学園で俺とアヤナが付くのを特別に許可され、付いて行ったが、一日でわかった。
外面は保てているが、以前と違い好戦的で好奇心旺盛だ。
何やら企んでいてアヤナを副理事長と接触させている。
理事長は皇族なので信用してないんだろう。
学園通学再開から三日目に虫けら共が接触してきた。
お嬢様に触れる阿呆を押さえ込んだら、ピンク髪の女が俺を非難してきた。
女狐を正面から見たのは初めてだが、全身の毛が逆だった。
見た目は庇護欲をそそりか弱い振りをしているが、此奴はおぞましいモノだ。
お嬢様と虫けらの会話を聞きながら、俺はアレが何かを注意深く観察した。
だが殆ど綻びが少なかった。
最後は俯いたままで表情は分からなかったが、俺の警戒心は強まる一方だった。
翌日の学園でお嬢様は友達募集のような事を言っているが無理だろ。
人をやり込める時にあんな爛々とした金の瞳で、頭から食べますよと言わんばかりに口に弧を描くような肉食獣を、誰が友達にしたいと思う?
見た目は美少女、中身が幼児の肉食獣なんぞ皆逃げる。
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