アイツは可愛い毛むくじゃら

KUZUME

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プロローグは突然に

幕間1 シリウス・ブライトン伯爵

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 ブライトン伯爵家は、国でも有名な貴族の一つだった。
 しかしそれは一族の名声ではなく、若くして爵位を継ぐ事になった当代の伯爵を指しての事だった。

 ──シリウス・ブライトン伯爵は、傲慢で乱暴、おまけに貴族としての品位に欠ける人物である、と。

 伯爵家の一人息子として生まれたシリウスは両親からそれは可愛がられて育った。多少傲慢なところも見られたが、それもまた貴族の資質だろうとある程度の我儘は許されて生きてきた。
 悲劇は、彼の両親が共に馬車の事故で亡くなった事により始まる。
 幸い、この国の爵位は終身であり、爵位保有者が亡くなれば次代の継承者が未成年だろうと自動的に継承される仕組みだった為に、シリウスは無事にブライトン伯爵の地位を得られたが、だった。
 狡猾で冷徹、経験豊富な大人達に混ざって政治という狩り場に出れば幼い爵位継承者などただの獲物に過ぎず、屋敷に帰れば何十人という雇用人達に仕事を与え養わなければならず、心から無条件に信頼し、教え導いてくれる大人もいなかった。

 シリウスはたったの8歳だった。
 彼に何が出来ただろう。両親に守られ、美しい蝶へと進化を遂げる筈だった少年は、醜く恐ろしい怪物へと成長を遂げた。
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