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プロローグは突然に
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青白い顔色で、額には冷や汗まで滲ませたララは大きなソファーの端に出来るだけ身を縮こませる。これ以上ない居心地の悪さを感じながらも見知らぬ、けれど上等な服に身を包んだ老紳士が淹れてくれた紅茶に口をつける。
勿論、ララの顔色が悪いのは紅茶の味が悪いわけではなく、彼女の向かい側のソファーに陣取る恐ろしい獣の鋭すぎる眼光のせいである。
「…チッ!」
ララがちらりと視線を紅茶のカップから上げればタイミング良く獣と目が合い、隠す気もさらさらない舌打ちを貰う。思わず口に含んだ紅茶を吐き出しそうになったところで、老紳士が場を仕切り直すように一つ咳払いをした。
「さて、お嬢さんは魔女クローディアの娘のララさんでお間違いなかったでしょうか?」
「は、はぁ…そうですけど…」
「チッッ!!」
「っ!?」
獣が明らかに苛立ちながら先ほどよりも大きい舌打ちをする。反射的にララが肩をびくつかせると、老紳士は苦笑をこぼして手にしていた大きめなストールをばさりとおもむろに獣の頭に掛けた。
「っ!?てめぇ、何するんだ!!おい!」
「ご主人様、話が進みませんので暫くお顔をお隠し下さいね」
「ガルルル…ッ!」
「ひえええぇぇぇ…」
吠える獣を意に介せず、老紳士はララに向き直るとにこりと柔和な笑みを作ってみせた。
「ララさん、まずはこちらをお読みいただけますか?」
「は、はい」
老紳士が差し出した封筒を受け取り、促されるままに中身を取り出し目を落とす。と、青かったララの顔色は真っ赤になり、そして再度真っ青になった。
「……あああああの!これ、本当ですか!?」
「ええ、事実になります」
「…!!!」
ぺらっぺらの手紙は、久しく会っていないララの実母からのものだった。
曰く、魔法がちょこっと暴発してしまい、意図せぬ相手に意図せぬ効果を発揮してしまったこと。
曰く、現状では暴発した魔法を解く方法が分からないのでちょっくら旅に出てくること。
曰く、やらかした母が逃亡しないように、人質として娘─ララを置いていくということ。
最後にP.Sと添えられた行には、ついでにメイドとしてこき使っても可、とのこと。
「嘘でしょ──!!?私、関係ないですよね!?確かに母は魔女ですけど、でも私は魔女でもなんでもない普通の人なんですけど!?」
「でしたら、賠償金をお支払いいただけますでしょうか?魔法を解くことは勿論、迷惑料を請求致しますが」
「…ちなみにおいくら……」
「そうですねぇ…予定していた公務やらなんやら、色々とキャンセルしたものもありますし、屋敷も少々被害を被っておりまして、そちらの修繕の費用なんかも合わせますと…」
てん、てん、てん。しばし沈黙が室内に満ちる。恐らく老紳士は頭の中で計算をしているのだろう。ララは固唾を飲んでその時を待つ。
「金貨数億枚はくだらないかと」
「メイドとして働くだけでいいんですね?」
ララの脳裏で明るく能天気な母の笑い声が響き苛立ちを誘う。滅多に家には帰ってこないくせに、昔っからトラブルばかり背負い嵐のように突然やってきては去るという事を繰り返してきた母に対して、今度ばかりは縁を切ってやりたいと内心で歯痒い思いをしていると、「では早速…」と老紳士がララの役割について話し出す。
「ララさんにこなしていただきたい仕事は主に2つです。この屋敷の清掃とご主人様の食事準備ならびにお世話です」
「はぁ…。ところで、貴族様、」
「ん?ああ、自己紹介が遅れて失礼致しました。私はこちらのお屋敷に勤めておりますトーマスと申します。一介の執事にすぎませんので、どうぞ砕けてお話しになっていただいて構いませんよ」
「え?じゃあ、ご主人様って…」
老紳士もといトーマスがストールを払う。
「こちらが、この屋敷の主人。シリウス・ブライトン伯爵閣下でございます」
「…フンっ」
「………」
母の手紙の衝撃も相まり、静かになっていた為にすっかり忘れていたその存在にララは呆然と口を開く。
「…いや、は?」
普段は街の喧騒の届かぬ森の奥で生活し、国の貴族について詳しくないからといって、流石にララも動物の貴族だなんてふざけた話はありえないと分かる。
「あ、ああ~!伯爵閣下のペットのわんちゃんですか?」
「テメェ…誰がペットだぁ!?ついでに俺は犬でもねえよ!どう見ても狼だろうが!!」
「ひえーっ!!」」
「ですから、こちらが魔女クローディアの魔法の失敗で狼の姿に変えられてしまった哀れな我がご主人様でございます」
「えええっ!?!?」
にこにこと表情を崩さない執事トーマスに、不機嫌を隠そうともせず吠え立てる狼─もといシリウス・ブライトン伯爵。
思わずソファーから立ち上がりワナワナと口を震わせたララはたっぷりの間をおいてから今日一番の絶叫を上げた。
「私、動物全般苦手なんです───!!!!!」
実母のやらかしてくれた事の尻拭いとはいえ、安請合いをしてしまったとララは既に心中で後悔した。
勿論、ララの顔色が悪いのは紅茶の味が悪いわけではなく、彼女の向かい側のソファーに陣取る恐ろしい獣の鋭すぎる眼光のせいである。
「…チッ!」
ララがちらりと視線を紅茶のカップから上げればタイミング良く獣と目が合い、隠す気もさらさらない舌打ちを貰う。思わず口に含んだ紅茶を吐き出しそうになったところで、老紳士が場を仕切り直すように一つ咳払いをした。
「さて、お嬢さんは魔女クローディアの娘のララさんでお間違いなかったでしょうか?」
「は、はぁ…そうですけど…」
「チッッ!!」
「っ!?」
獣が明らかに苛立ちながら先ほどよりも大きい舌打ちをする。反射的にララが肩をびくつかせると、老紳士は苦笑をこぼして手にしていた大きめなストールをばさりとおもむろに獣の頭に掛けた。
「っ!?てめぇ、何するんだ!!おい!」
「ご主人様、話が進みませんので暫くお顔をお隠し下さいね」
「ガルルル…ッ!」
「ひえええぇぇぇ…」
吠える獣を意に介せず、老紳士はララに向き直るとにこりと柔和な笑みを作ってみせた。
「ララさん、まずはこちらをお読みいただけますか?」
「は、はい」
老紳士が差し出した封筒を受け取り、促されるままに中身を取り出し目を落とす。と、青かったララの顔色は真っ赤になり、そして再度真っ青になった。
「……あああああの!これ、本当ですか!?」
「ええ、事実になります」
「…!!!」
ぺらっぺらの手紙は、久しく会っていないララの実母からのものだった。
曰く、魔法がちょこっと暴発してしまい、意図せぬ相手に意図せぬ効果を発揮してしまったこと。
曰く、現状では暴発した魔法を解く方法が分からないのでちょっくら旅に出てくること。
曰く、やらかした母が逃亡しないように、人質として娘─ララを置いていくということ。
最後にP.Sと添えられた行には、ついでにメイドとしてこき使っても可、とのこと。
「嘘でしょ──!!?私、関係ないですよね!?確かに母は魔女ですけど、でも私は魔女でもなんでもない普通の人なんですけど!?」
「でしたら、賠償金をお支払いいただけますでしょうか?魔法を解くことは勿論、迷惑料を請求致しますが」
「…ちなみにおいくら……」
「そうですねぇ…予定していた公務やらなんやら、色々とキャンセルしたものもありますし、屋敷も少々被害を被っておりまして、そちらの修繕の費用なんかも合わせますと…」
てん、てん、てん。しばし沈黙が室内に満ちる。恐らく老紳士は頭の中で計算をしているのだろう。ララは固唾を飲んでその時を待つ。
「金貨数億枚はくだらないかと」
「メイドとして働くだけでいいんですね?」
ララの脳裏で明るく能天気な母の笑い声が響き苛立ちを誘う。滅多に家には帰ってこないくせに、昔っからトラブルばかり背負い嵐のように突然やってきては去るという事を繰り返してきた母に対して、今度ばかりは縁を切ってやりたいと内心で歯痒い思いをしていると、「では早速…」と老紳士がララの役割について話し出す。
「ララさんにこなしていただきたい仕事は主に2つです。この屋敷の清掃とご主人様の食事準備ならびにお世話です」
「はぁ…。ところで、貴族様、」
「ん?ああ、自己紹介が遅れて失礼致しました。私はこちらのお屋敷に勤めておりますトーマスと申します。一介の執事にすぎませんので、どうぞ砕けてお話しになっていただいて構いませんよ」
「え?じゃあ、ご主人様って…」
老紳士もといトーマスがストールを払う。
「こちらが、この屋敷の主人。シリウス・ブライトン伯爵閣下でございます」
「…フンっ」
「………」
母の手紙の衝撃も相まり、静かになっていた為にすっかり忘れていたその存在にララは呆然と口を開く。
「…いや、は?」
普段は街の喧騒の届かぬ森の奥で生活し、国の貴族について詳しくないからといって、流石にララも動物の貴族だなんてふざけた話はありえないと分かる。
「あ、ああ~!伯爵閣下のペットのわんちゃんですか?」
「テメェ…誰がペットだぁ!?ついでに俺は犬でもねえよ!どう見ても狼だろうが!!」
「ひえーっ!!」」
「ですから、こちらが魔女クローディアの魔法の失敗で狼の姿に変えられてしまった哀れな我がご主人様でございます」
「えええっ!?!?」
にこにこと表情を崩さない執事トーマスに、不機嫌を隠そうともせず吠え立てる狼─もといシリウス・ブライトン伯爵。
思わずソファーから立ち上がりワナワナと口を震わせたララはたっぷりの間をおいてから今日一番の絶叫を上げた。
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