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どきどき★メイド生活スタート(これはトキメキではなく動悸の方)
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コンコンコンコン、と控え目に扉を叩かれる音に作業に没頭していた意識が引き戻される。
丁寧に床に並べられた書類から顔を上げたシリウスの視界に、扉を開いて室内にララを招き入れるトーマスの姿が入った。
「あの、昼食もダイニングではなくてこちらへ運ぶのでよかったですか?」
「ええ、ありがとうございます。昼食の時間ぴったりですね」
トーマスの言葉に、シリウスも室内に置かれた振り子時計の文字盤を確認する。時間は正午を過ぎており、それを認識した途端に空腹を感じてぐぐっと伸びをした。と、それを見たトーマスがどことなく微笑ましそうにしている。そういえば奴は無類の動物好きだったな、と思い出したところで自身がいかにも獣らしいポーズをしていた事に思い至り盛大に舌打ちをする。
「ひっ…!」
ピクピクッ!とすっかり大きく敏感になったシリウスの両耳が息を飲むその小さな音をしっかりと拾う。音の主は自分を守るように両手を胸の前で組んで、眉をへにょりと下げている。
「……」
なんとなく癪に触る。普段だったら使用人の女など気にせず、必要であれば指示はトーマスへ伝えるが、シリウスはあえてララへと声を掛けた。
「おい、早く準備しろ」
「は、はひっ…!」
「……」
シリウスはテーブルへと昼食の配膳をするララの一挙手一投足をじっと見つめる。ララの手はカタカタと震え、米神から冷や汗が噴き出している。
元々シリウスという男は人々に畏怖される事が多い人間であり、それをどうとも思っていなかったが、意図してプレッシャーを与えている場面でもないのに必要以上に自分を恐れているらしいララに腹が立つ。
ちなみにこれこそが人々がシリウスを理不尽だ、と言う理由の一つであったが、果たしてきちんとこれを本人へ伝えたところで意味がないのは明白だった。
「…おい!飯の準備もまともに出来ねえのか!」
バァウッ!とシリウスの大きな口から咆哮が上がる。
それに対して、ララから「いぎゃー!」や「ひぎょー!」といったそれこそ動物の鳴き声のような悲鳴が漏れたと思えば、目にも止まらぬ速度でさっ!とトーマスの背後へと隠れてしまった。
「まぁまぁご主人様。ララさんは元々メイドというわけでもありませんし。魔女との契約ではそれより人質という方が主で、ついでにメイドの仕事でも、というお話でしたから」
「…フンッ」
ララは笑顔で語るトーマスの背後で、口をぽかんと開けてトーマスの顔を凝視する。
ララはてっきり、自身には過失はないし承諾してもいないが、血の繋がった母の娘として母がしでかしてしまった事への償いとしてメイドとして働いて返すものだと思い込んでいた。
それこそ借金の形のような気持ちで一所懸命にメイドの仕事をこなそうとしていたのに、しかしまさかこの屋敷に居るだけで十分意味があったとは初耳である。そういえば母との間に交わされた契約というものも、内容はきちんと把握していない。
この執事、それなのにあんなにもがっつりとメイドの仕事を振ってきたのか、とララはトーマスの柔和な笑顔を簡単に信じる事は止めよう、と決意した。掃除中に痛めた腰はなんだったのかという気持ちで一杯である。
ララがなんとも言えない気持ちを抱いているとは知らず、シリウスは少々不恰好に配膳された昼食の皿へと口をそのまま近づける。ベロリ、とサンドイッチを一口で入れ──
「…味がねえっ!!」
バシリ!とふさふさの尻尾を床に叩きつけて吠える。
「えっ。でも動物に塩分過多って良くないんですよ、ね…?」
「………」
料理の味へのケチに、ララは恐怖心をなだめてトーマスの背後から一歩出て弁明するも、どんどん険しくなっていくシリウスの眼光に最後は大人しくトーマスの背後へ戻る。
「俺を犬扱いするんじゃねえっ!!!」
結局、無味のサンドイッチはララとトーマスの胃の中に収められたのだった。
丁寧に床に並べられた書類から顔を上げたシリウスの視界に、扉を開いて室内にララを招き入れるトーマスの姿が入った。
「あの、昼食もダイニングではなくてこちらへ運ぶのでよかったですか?」
「ええ、ありがとうございます。昼食の時間ぴったりですね」
トーマスの言葉に、シリウスも室内に置かれた振り子時計の文字盤を確認する。時間は正午を過ぎており、それを認識した途端に空腹を感じてぐぐっと伸びをした。と、それを見たトーマスがどことなく微笑ましそうにしている。そういえば奴は無類の動物好きだったな、と思い出したところで自身がいかにも獣らしいポーズをしていた事に思い至り盛大に舌打ちをする。
「ひっ…!」
ピクピクッ!とすっかり大きく敏感になったシリウスの両耳が息を飲むその小さな音をしっかりと拾う。音の主は自分を守るように両手を胸の前で組んで、眉をへにょりと下げている。
「……」
なんとなく癪に触る。普段だったら使用人の女など気にせず、必要であれば指示はトーマスへ伝えるが、シリウスはあえてララへと声を掛けた。
「おい、早く準備しろ」
「は、はひっ…!」
「……」
シリウスはテーブルへと昼食の配膳をするララの一挙手一投足をじっと見つめる。ララの手はカタカタと震え、米神から冷や汗が噴き出している。
元々シリウスという男は人々に畏怖される事が多い人間であり、それをどうとも思っていなかったが、意図してプレッシャーを与えている場面でもないのに必要以上に自分を恐れているらしいララに腹が立つ。
ちなみにこれこそが人々がシリウスを理不尽だ、と言う理由の一つであったが、果たしてきちんとこれを本人へ伝えたところで意味がないのは明白だった。
「…おい!飯の準備もまともに出来ねえのか!」
バァウッ!とシリウスの大きな口から咆哮が上がる。
それに対して、ララから「いぎゃー!」や「ひぎょー!」といったそれこそ動物の鳴き声のような悲鳴が漏れたと思えば、目にも止まらぬ速度でさっ!とトーマスの背後へと隠れてしまった。
「まぁまぁご主人様。ララさんは元々メイドというわけでもありませんし。魔女との契約ではそれより人質という方が主で、ついでにメイドの仕事でも、というお話でしたから」
「…フンッ」
ララは笑顔で語るトーマスの背後で、口をぽかんと開けてトーマスの顔を凝視する。
ララはてっきり、自身には過失はないし承諾してもいないが、血の繋がった母の娘として母がしでかしてしまった事への償いとしてメイドとして働いて返すものだと思い込んでいた。
それこそ借金の形のような気持ちで一所懸命にメイドの仕事をこなそうとしていたのに、しかしまさかこの屋敷に居るだけで十分意味があったとは初耳である。そういえば母との間に交わされた契約というものも、内容はきちんと把握していない。
この執事、それなのにあんなにもがっつりとメイドの仕事を振ってきたのか、とララはトーマスの柔和な笑顔を簡単に信じる事は止めよう、と決意した。掃除中に痛めた腰はなんだったのかという気持ちで一杯である。
ララがなんとも言えない気持ちを抱いているとは知らず、シリウスは少々不恰好に配膳された昼食の皿へと口をそのまま近づける。ベロリ、とサンドイッチを一口で入れ──
「…味がねえっ!!」
バシリ!とふさふさの尻尾を床に叩きつけて吠える。
「えっ。でも動物に塩分過多って良くないんですよ、ね…?」
「………」
料理の味へのケチに、ララは恐怖心をなだめてトーマスの背後から一歩出て弁明するも、どんどん険しくなっていくシリウスの眼光に最後は大人しくトーマスの背後へ戻る。
「俺を犬扱いするんじゃねえっ!!!」
結局、無味のサンドイッチはララとトーマスの胃の中に収められたのだった。
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