アイツは可愛い毛むくじゃら

KUZUME

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どきどき★メイド生活スタート(これはトキメキではなく動悸の方)

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 「うう~…これ人力じゃ終わんないよ~…」

 いざ屋敷の掃除!と意気込んでから早数時間。ララは痛む腰を摩りながら途方に暮れていた。今まできちんと手入れは行き届いていたのだろう、屋敷自体はさして汚れてはいなかったが、なにせ範囲が広い。そして一人である。
 ぐぅぅ~と鳴るお腹を押さえ、ララはしばし動きを止める。

 「…うん、よし。トーマスさんからはいつまでに、どこまでを、終わらせるとは聞いてないもんね。続きは明日にしてお昼食べよ」

 そうと決まればとばかりにララは掃除道具をまとめて手に持ち、使用人用の道具部屋へと急ぐ。
 臆病だけれども、なぜか肝が据わっている。もしくは鈍感である、とは他人から見たララの評であった。



♦︎



 ララが鼻歌まじりに台所へ向かっている頃、トーマスは書類の束と共にシリウスの部屋を訪れていた。

 「ご主人様、急ぎの書類はこちらにまとめておきましたので、後ほどお目通しをよろしくお願い致します。ララさんに関する魔女の魔法契約の書類は引き出しの二番目に。くれぐれも破損しそうないようにお気をつけ下さいませ。それから─…」

 普段と少しも変わった素振りを見せずに次から次へと話を進める自身の執事を見つめながら、トーマスはソファーにどっしりと伏せったまま鼻から息を吐く。

 「それで、あのクソ魔女からは連絡あったのか」
 「いえ。今のところはまだ」
 「チッ!絶対に俺を戻す方法を見つけろと伝えておけ!!」
 「かしこまりました」

 シリウスは苛立つ心を落ち着けるようにトーマスが挿れてくれたお茶を飲もうとカップに手を伸ばし、けれど視界に鋭い鉤爪の伸びる獣の前脚が入ると本日何度目になるか分からない舌打ちをこぼして結局は熱いお茶の入ったカップを弾き飛ばした。

 「…アホ共には俺のこの状態は漏れてねぇだろうな」
 「ええ。最後の使用人が出て行った際には、どうしたものかと頭を抱えましたが、ある意味最高のタイミングでしたね」
 「ふん、アホ抜かせ」
 「予定していた公務には穴を開けてしまいましたが、皆様、ご主人様のご機嫌が優れないようだとしか思っておられないようです」
 「揃いも揃ってアホしかいねえな」

 シリウスは忌々しげに窓から遠く見える街へ視線を向ける。通りには様々な店が軒を連ね、整えられた路には豪華な馬車がひしめき合い、贅沢に燃料が燃やされ途切れる事のない灯りがそこかしこを照らす華やかな首都。着飾り笑い合う人々は大半が貴族だろう。何がそんなに楽しいのかと、シリウスは熱のこもらない瞳でそれらをただ見つめる。

 「とにかく、三ヶ月以内だ。なんとしてでも元に戻る。そうしなきゃ、ここまでの俺とお前の苦労は全て水の泡だ」

 シリウスの一段と低くなった声音に、トーマスは一度口を開き、けれど何かを飲み込んで頭を下げる。

 「…ご主人様のお望みのままに」
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