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第8篇 as long as you love me
第7話
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不気味なほどに静まり返った路地に足を踏み入れたところで、アッサムは目の前の何もない空間に向かって低い声を発した。
「…どういうつもりだ?ル・グー」
すると目の前の空間がぐんにゃりと歪み、一瞬で豪華な革張りのソファーに品良く足を組んで座る青年が現れる。
それは先ほどペコとぶつかりニコニコと人が良さそうに笑った青年だったが、今は端正な顔をニタリと歪めて悪辣そうに笑う。
「うふふふふ、そんなに怖い声を出してどうしたの?可愛いランプの魔人ちゃん♪」
アッサムにル・グーと呼ばれたその青年はこれまたどこから現れたのか上等なカップを指先で持ち上げてお茶を飲む。
「悪魔のお前が、どうしてこんな所をうろついて、あげく私のご主人様に接触をするんだ」
「ふふふふふ」
かチャリとカップをソーサーに置く、陶器と陶器が触れ合う音が小さく鳴る。
「いや、なに。君が何やら楽しそうな事を始めたって聞いたもんだから。どんなものかと見学にね」
「…」
「安心してよ。既にランプの魔人と契約している人間には手は出さないさ!なに、いつも沢山の人間の魂を卸してくれる君だ、今度はどんな楽しい遊びを思いついたのか単純に興味が湧いただけだよ」
「ふん…魔人以上に嘘つきで狡猾な悪魔を楽しませる事なんかじゃないさ」
「ふうん?ま、僕はこれでも君の事を気に入っているんだよ。主人を騙くらかして、制限の多いランプの魔人から自由な魔人になる方法はいっくらだってあるのに、性に合ってるから、なんて言ってランプの魔人でい続ける変わり者の君をね」
アッサムが自分を睨みつけているのを見て、更にニヤニヤと口角をいやらしく釣り上げたル・グーの体が唐突にぐんにゃりと歪む。
「さ、満足した!では僕はこれでおさらばするよ。魔人ちゃんと可愛いご主人様との旅をこれ以上邪魔するのも悪いしね!」
「とっとと地獄へ帰れ」
「あ、そうそう!美味しい屋台の情報は本当だよ!それからこれはごはんを食べるのが遅れちゃったお詫びに」
「!」
ストン、とアッサムの手の中に露天で見た猿の人形が落ちてくる。
「要るかこんなもん!」とアッサムが人形を投げ返した先、ル・グーが優雅にお茶を飲んでいた場所には彼はおろか、彼が座っていた豪華なソファーももうそこにはなかった。
まるで初めからそうだったように、ただ静かで薄暗い路地が続いている。
「ちっ…」
地面に転がった人形はそのままに、アッサムは食料を買う為に賑やかな屋台の方へと身を翻した。
♦︎
「ただいまー」
アッサムは美味しそうな匂いを漂わす食料が沢山入った袋を抱えて宿の部屋へと戻る。
ベッドの上には、こんもりと山が出来上がっていた。その山に向かってアッサムは再度声を掛ける。
「ペコ様。お待たせしました。美味しーいごはんですよぉ」
「……ん、あっさむ?」
「はい、布団から出て顔を洗って頭も起こしてきなさい」
「はーい…あ!なにこれ!お土産?」
「へ?…ああ!」
突然覚醒したペコの嬉しそうな声につられて、買ってきた食料を卓の上に並べていたアッサムはペコの視線の先を見て彼らしからぬ大声をあげる。
ペコの手に抱えられているのは、あの猿の人形。
「うわー、ふわふわ。へへ、実は少し気になってたんだ。ありがと!」
「え、うーん……まあ、いっか」
猿の人形に顔をすりつけている嬉しそうなペコに、アッサムもまあ悪魔の送りつけてきた人形を無理に送り返すのも面倒か、と思い直してため息を吐く。
「ほらほら、人形は後でー。まずは腹拵えしましょうねぇ」
「わっ、沢山ある!やったー!」
猿の人形のきらりと輝くつぶらな瞳に見つめられながら2人は食事を楽しんだ。
「…どういうつもりだ?ル・グー」
すると目の前の空間がぐんにゃりと歪み、一瞬で豪華な革張りのソファーに品良く足を組んで座る青年が現れる。
それは先ほどペコとぶつかりニコニコと人が良さそうに笑った青年だったが、今は端正な顔をニタリと歪めて悪辣そうに笑う。
「うふふふふ、そんなに怖い声を出してどうしたの?可愛いランプの魔人ちゃん♪」
アッサムにル・グーと呼ばれたその青年はこれまたどこから現れたのか上等なカップを指先で持ち上げてお茶を飲む。
「悪魔のお前が、どうしてこんな所をうろついて、あげく私のご主人様に接触をするんだ」
「ふふふふふ」
かチャリとカップをソーサーに置く、陶器と陶器が触れ合う音が小さく鳴る。
「いや、なに。君が何やら楽しそうな事を始めたって聞いたもんだから。どんなものかと見学にね」
「…」
「安心してよ。既にランプの魔人と契約している人間には手は出さないさ!なに、いつも沢山の人間の魂を卸してくれる君だ、今度はどんな楽しい遊びを思いついたのか単純に興味が湧いただけだよ」
「ふん…魔人以上に嘘つきで狡猾な悪魔を楽しませる事なんかじゃないさ」
「ふうん?ま、僕はこれでも君の事を気に入っているんだよ。主人を騙くらかして、制限の多いランプの魔人から自由な魔人になる方法はいっくらだってあるのに、性に合ってるから、なんて言ってランプの魔人でい続ける変わり者の君をね」
アッサムが自分を睨みつけているのを見て、更にニヤニヤと口角をいやらしく釣り上げたル・グーの体が唐突にぐんにゃりと歪む。
「さ、満足した!では僕はこれでおさらばするよ。魔人ちゃんと可愛いご主人様との旅をこれ以上邪魔するのも悪いしね!」
「とっとと地獄へ帰れ」
「あ、そうそう!美味しい屋台の情報は本当だよ!それからこれはごはんを食べるのが遅れちゃったお詫びに」
「!」
ストン、とアッサムの手の中に露天で見た猿の人形が落ちてくる。
「要るかこんなもん!」とアッサムが人形を投げ返した先、ル・グーが優雅にお茶を飲んでいた場所には彼はおろか、彼が座っていた豪華なソファーももうそこにはなかった。
まるで初めからそうだったように、ただ静かで薄暗い路地が続いている。
「ちっ…」
地面に転がった人形はそのままに、アッサムは食料を買う為に賑やかな屋台の方へと身を翻した。
♦︎
「ただいまー」
アッサムは美味しそうな匂いを漂わす食料が沢山入った袋を抱えて宿の部屋へと戻る。
ベッドの上には、こんもりと山が出来上がっていた。その山に向かってアッサムは再度声を掛ける。
「ペコ様。お待たせしました。美味しーいごはんですよぉ」
「……ん、あっさむ?」
「はい、布団から出て顔を洗って頭も起こしてきなさい」
「はーい…あ!なにこれ!お土産?」
「へ?…ああ!」
突然覚醒したペコの嬉しそうな声につられて、買ってきた食料を卓の上に並べていたアッサムはペコの視線の先を見て彼らしからぬ大声をあげる。
ペコの手に抱えられているのは、あの猿の人形。
「うわー、ふわふわ。へへ、実は少し気になってたんだ。ありがと!」
「え、うーん……まあ、いっか」
猿の人形に顔をすりつけている嬉しそうなペコに、アッサムもまあ悪魔の送りつけてきた人形を無理に送り返すのも面倒か、と思い直してため息を吐く。
「ほらほら、人形は後でー。まずは腹拵えしましょうねぇ」
「わっ、沢山ある!やったー!」
猿の人形のきらりと輝くつぶらな瞳に見つめられながら2人は食事を楽しんだ。
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