2 / 7
第2話
しおりを挟む
地を這い、泥を啜って生きる。
この世に生まれ落ちた瞬間から、呪われた一族だと後ろ指をさされる。
何をしたわけでもない。ただ、この一族の者として生を受けただけ。
ただそれだけで、人から罵られ、憎悪をぶつけられ、日陰を生きる。
俺は神なんて信じない。
天高くからひとを見下す化け物め。
俺は人なんて愛さない。
同じ地を生きる生き物同士のくせに、他者を排除して生きる化け物め。
走る。走る。赤い血を垂らして。痛みで遠くなる意識をなんとか繋ぎ止めて。
お前らが嫌悪するこの竜人の身で、お前らのお望み通りに惨めに死んでなんかやらない。
♦︎
随分と薄汚れてしまったマントを引っ張り、出来るだけ顔全てが隠れるように被る。尖った鼻先が出てしまうのは仕方がないと諦める。
少し身じろぐだけで、全身に負った傷がズキズキと痛む。こちらも薄汚れた服は、血を吸って重たい。
乱れる息をなんとか押し殺して、建物と建物の間の隙間に大きな体を出来るだけ縮こませて隠れる。
時に武器にもなってくれる長い尻尾が、こんな時ばかりは憎たらしい。
「おい!居たか!?」
「いや、こっちには居ない!くそっ、あの忌々しいリザードマンめ…」
「魔法も使えないくせに、生命力だけは強くて生き汚い…精々がただの労働力にしかならないくせに、盗み殺しをして逃げるとは」
「警備隊に連絡した方がいいんじゃないか?」
「いや、それは…リザードマンを奴隷として扱っている事がバレたら事だ…表向きは一応、浮浪者の保護施設になっているんだから…」
「くそ、なんでリザードマン如きに俺ら人間様と同じ権利が保証されてるんだ。腹立たしい」
速くなる自分の鼓動を聞きながら耳をすます。
好き勝手に言いやがってと、はらわたが煮え繰り返る感覚を味わいながら、けれどここで見つかってはもう2度と逃走するチャンスは訪れないだろうと俺は必死に息を殺す。
「(行け…行け…とっとと行っちまえ!)」
果たして願いが通じたのか、すぐ近くに居た男達の声が段々と遠ざかって行く。
痛みで震え出してきた足を叱咤して、この隙に少しでも遠くへ行こうと立ち上がる。
逃げよう。どこか遠くへ行こう。そして、1人で自由に生きよう。
「…」
そう考えて、歩き出した足を止める。
逃げようって、どこか遠くへ行こうって、一体どこまで行けばいいのだろう。自由に生きられる場所なんて、この大地の上にあるのか。
俺達リザードマンには人間同様に様々な権利があるけれど、俺達を守る筈のその法律は機能していないに等しい。実際は先ほどの男達のような人間に捕まり、管理され、奴隷同然に扱われている。
魔法が使えないから一般的な仕事は出来ないし、飲み水を確保する事や火をおこす事だってままならない。
学校にだって行けなくて学も無い。
物心ついてすぐに思い知った。竜人には、奴隷か犯罪者の道しか無いのだと。
「…はは、いっそ本当に、先祖みたいに暴れ回ってやろうか。地を焼いて、人間を殺して回って…そうすれば、そうすればきっと…!」
今度こそ、神なんていうクソッタレがリザードマンなんて存在そのものをこの世から消し去ってくれるかも知れない。
「…っ」
ぐっと息を飲む。足を止めたまま、空を仰ぎ見る。
かつては、背中に生えていたという翼で俺達が自由に飛び回った場所。
「……くそ」
青い空が滲む。
ぐらぐらと目が回り、手足の先から感覚が無くなっていく。息がしづらい。
血を流し過ぎた。放置した怪我がズクズクと熱く痛む。気持ちが悪い。
嗚呼、結局どこにも行けやしなかったと、目を閉じる瞬間に悪態を吐いた。
この世に生まれ落ちた瞬間から、呪われた一族だと後ろ指をさされる。
何をしたわけでもない。ただ、この一族の者として生を受けただけ。
ただそれだけで、人から罵られ、憎悪をぶつけられ、日陰を生きる。
俺は神なんて信じない。
天高くからひとを見下す化け物め。
俺は人なんて愛さない。
同じ地を生きる生き物同士のくせに、他者を排除して生きる化け物め。
走る。走る。赤い血を垂らして。痛みで遠くなる意識をなんとか繋ぎ止めて。
お前らが嫌悪するこの竜人の身で、お前らのお望み通りに惨めに死んでなんかやらない。
♦︎
随分と薄汚れてしまったマントを引っ張り、出来るだけ顔全てが隠れるように被る。尖った鼻先が出てしまうのは仕方がないと諦める。
少し身じろぐだけで、全身に負った傷がズキズキと痛む。こちらも薄汚れた服は、血を吸って重たい。
乱れる息をなんとか押し殺して、建物と建物の間の隙間に大きな体を出来るだけ縮こませて隠れる。
時に武器にもなってくれる長い尻尾が、こんな時ばかりは憎たらしい。
「おい!居たか!?」
「いや、こっちには居ない!くそっ、あの忌々しいリザードマンめ…」
「魔法も使えないくせに、生命力だけは強くて生き汚い…精々がただの労働力にしかならないくせに、盗み殺しをして逃げるとは」
「警備隊に連絡した方がいいんじゃないか?」
「いや、それは…リザードマンを奴隷として扱っている事がバレたら事だ…表向きは一応、浮浪者の保護施設になっているんだから…」
「くそ、なんでリザードマン如きに俺ら人間様と同じ権利が保証されてるんだ。腹立たしい」
速くなる自分の鼓動を聞きながら耳をすます。
好き勝手に言いやがってと、はらわたが煮え繰り返る感覚を味わいながら、けれどここで見つかってはもう2度と逃走するチャンスは訪れないだろうと俺は必死に息を殺す。
「(行け…行け…とっとと行っちまえ!)」
果たして願いが通じたのか、すぐ近くに居た男達の声が段々と遠ざかって行く。
痛みで震え出してきた足を叱咤して、この隙に少しでも遠くへ行こうと立ち上がる。
逃げよう。どこか遠くへ行こう。そして、1人で自由に生きよう。
「…」
そう考えて、歩き出した足を止める。
逃げようって、どこか遠くへ行こうって、一体どこまで行けばいいのだろう。自由に生きられる場所なんて、この大地の上にあるのか。
俺達リザードマンには人間同様に様々な権利があるけれど、俺達を守る筈のその法律は機能していないに等しい。実際は先ほどの男達のような人間に捕まり、管理され、奴隷同然に扱われている。
魔法が使えないから一般的な仕事は出来ないし、飲み水を確保する事や火をおこす事だってままならない。
学校にだって行けなくて学も無い。
物心ついてすぐに思い知った。竜人には、奴隷か犯罪者の道しか無いのだと。
「…はは、いっそ本当に、先祖みたいに暴れ回ってやろうか。地を焼いて、人間を殺して回って…そうすれば、そうすればきっと…!」
今度こそ、神なんていうクソッタレがリザードマンなんて存在そのものをこの世から消し去ってくれるかも知れない。
「…っ」
ぐっと息を飲む。足を止めたまま、空を仰ぎ見る。
かつては、背中に生えていたという翼で俺達が自由に飛び回った場所。
「……くそ」
青い空が滲む。
ぐらぐらと目が回り、手足の先から感覚が無くなっていく。息がしづらい。
血を流し過ぎた。放置した怪我がズクズクと熱く痛む。気持ちが悪い。
嗚呼、結局どこにも行けやしなかったと、目を閉じる瞬間に悪態を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる