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第1章 雪解けと嵐
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城の中に一歩踏み入れる。
重い……。流れる空気は明らかに外と違っている。
騎士に連れられ、薄暗い、しかしざわついた城内を歩く。すれ違う人々から色んな感情が入り混じった視線が突き刺さる。好奇心と警戒、そしてはっきりと分かる憎しみ。
体中を嘗め回されているようで、今にも体を引き裂かんとしているようで、足が何度もすくみそうになる。
懸命に足を動かしていると、ある一室の前で止まった。おそらく、目的地に着いたのだろう。騎士は規則正しくノックをする。
すると、すぐに中から返事が返ってきた。
部屋の中には一人の男性が待っていた。
「お帰りなさいませ」
フレアが中に入って目が合うやいなや、男性は深々と頭を下げた。
「神官長様……」
この城で歴史や神学を教わっていた時、教会で遊んでいた時のことを思い出す。神官長は、末姫に本気で向き合っていた数少ない人物だった。怒られていたこともたくさんあったはずなのに、こうして思い出すのは柔和な笑顔ばかりだ。
懐かしさと同時に、慈しんでくれたと感じていた人物がここにいることに悲しみを覚えた。
「あなたも私をここに呼び寄せたひとりですか」
所詮、親のように愛情を注いでくれたと感じていたのはまやかしで、王族の務めを果たせと一方的に突きつけてくるのかと。
「私としましては、ミリア、貴女がこうして無事に生きていらっしゃった、それだけで十分なのですよ」
穏やかな笑みを浮かべる。その印象は記憶となんら変わりない。しかし、目元や口元に出来る皺が流れた年月を感じさせる。よく観察してみると、黒々としていた髪は白髪交じりになっている。会っていなかった年数以上に、神官長は歳をとって見えた。
「おかえり、ミリア」
神官長は再度同じ言葉を投げかける。その言葉は部屋に入ってきたときに言われた内容と同じはずなのにフレアの心に優しく響いた。
ただ懐かしい人との再会を喜んでいいのだと分かりほっとした。
「エリック殿でしたかな?」
神官長はフレアをここまで連れてきた騎士に向き合い問いかけた。
突然名前を呼ばれた騎士は、神官長という雲上人に真正面から向き合われ、名前を呼ばれたことに恐縮している。どれだけ相手の身分が下であろうとも、話すときにきちんと向き合うところは相変わらずだ。
「もうミリアーナ様はお疲れでしょう。少し早いが休ませて差し上げてはいかがかな?」
指摘されると急にどっと疲れが出てきた。今日一日で置かれている状況が大きく変わったため、精神的疲労で疲れていても仕方がないのかもしれない。
エリックはこちらを振り向いた。疲れが顔に浮かんでいたらしい。
「そうですね。では、王女の部屋へと案内いたしましょう。神官長様、では失礼いたします」
明日以降もまた会えるからと、挨拶もそこそこにして部屋を後にした。
重い……。流れる空気は明らかに外と違っている。
騎士に連れられ、薄暗い、しかしざわついた城内を歩く。すれ違う人々から色んな感情が入り混じった視線が突き刺さる。好奇心と警戒、そしてはっきりと分かる憎しみ。
体中を嘗め回されているようで、今にも体を引き裂かんとしているようで、足が何度もすくみそうになる。
懸命に足を動かしていると、ある一室の前で止まった。おそらく、目的地に着いたのだろう。騎士は規則正しくノックをする。
すると、すぐに中から返事が返ってきた。
部屋の中には一人の男性が待っていた。
「お帰りなさいませ」
フレアが中に入って目が合うやいなや、男性は深々と頭を下げた。
「神官長様……」
この城で歴史や神学を教わっていた時、教会で遊んでいた時のことを思い出す。神官長は、末姫に本気で向き合っていた数少ない人物だった。怒られていたこともたくさんあったはずなのに、こうして思い出すのは柔和な笑顔ばかりだ。
懐かしさと同時に、慈しんでくれたと感じていた人物がここにいることに悲しみを覚えた。
「あなたも私をここに呼び寄せたひとりですか」
所詮、親のように愛情を注いでくれたと感じていたのはまやかしで、王族の務めを果たせと一方的に突きつけてくるのかと。
「私としましては、ミリア、貴女がこうして無事に生きていらっしゃった、それだけで十分なのですよ」
穏やかな笑みを浮かべる。その印象は記憶となんら変わりない。しかし、目元や口元に出来る皺が流れた年月を感じさせる。よく観察してみると、黒々としていた髪は白髪交じりになっている。会っていなかった年数以上に、神官長は歳をとって見えた。
「おかえり、ミリア」
神官長は再度同じ言葉を投げかける。その言葉は部屋に入ってきたときに言われた内容と同じはずなのにフレアの心に優しく響いた。
ただ懐かしい人との再会を喜んでいいのだと分かりほっとした。
「エリック殿でしたかな?」
神官長はフレアをここまで連れてきた騎士に向き合い問いかけた。
突然名前を呼ばれた騎士は、神官長という雲上人に真正面から向き合われ、名前を呼ばれたことに恐縮している。どれだけ相手の身分が下であろうとも、話すときにきちんと向き合うところは相変わらずだ。
「もうミリアーナ様はお疲れでしょう。少し早いが休ませて差し上げてはいかがかな?」
指摘されると急にどっと疲れが出てきた。今日一日で置かれている状況が大きく変わったため、精神的疲労で疲れていても仕方がないのかもしれない。
エリックはこちらを振り向いた。疲れが顔に浮かんでいたらしい。
「そうですね。では、王女の部屋へと案内いたしましょう。神官長様、では失礼いたします」
明日以降もまた会えるからと、挨拶もそこそこにして部屋を後にした。
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