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第1章 雪解けと嵐

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 再び廊下を歩きだす。長い一日はもうすぐ終わりを迎えるようだ。
 先ほど疲れていることを自覚したら、急激に疲労感が主張をし始めた。すれ違う際に視線を向けられるが、もはや気になりもしない。
 黙々とエリックの後ろについて歩く。
 二階の一室の前でエリックは立ち止まった。

「こちらが王女様の部屋となります。中に女性がおりますので、後のことはその者に」

 扉を開け、中に入ることを促してくる。
フレアが中に入ると、エリックは一礼し、去って行った。



 
 部屋の中を見るとエリックの言うとおり、一人の女性が静かに立っていた。
 綺麗な人。それが彼女の第一印象。唇を引き結んでいて、無表情そのものだが、深い湖のような色を帯びた瞳は意志の強そうな光を宿している。

「わたくしは王女様付きの侍女になります。何かございましたらお伝えくださいませ」

 彼女は感情をそぎ落としたような声音で喋った。声に感情を乗せ、話したとしたならばたくさんの人が魅了される、そんな様子が容易に想像できる声だ。

「明日は朝一番から会議がございます。王女様にも出席していただきますのでそのおつもりで」

「分かりました」

 返事をしたが、本格的に眠くなってきた。睡魔に負けないように目をしばたいた。
その様子を見ていた侍女はこれ以外話すことを諦めた。

「詳しい説明は明日にした方が良さそうですね。寝室はこちらになります」

 女性は言葉とともに、扉を開ける。
 部屋に入ると寝台が目に入った。一般庶民の家ではありえないサイズの寝台。フレアは吸いよされるように寝台に近づいていく。行儀が悪いのは承知しているが、そのままベッドに倒れこんだ。

「この数日間の疲れもございましょう。本日はゆっくりお休みなさいませ」

 女性の声を聞いたのを最後に、フレアは深い眠りへと沈んでいった。


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