二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

転移魔法

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「師匠どこへ?」

「街を出る。……ちょっと待て」

 魔法が行使されたのを感じる。
 すると直接頭に師匠の声が響いてくる。

 念話だ!

 この魔法は師弟となった時から使えるようになった特殊な魔法で、離れた場所同士で会話をする事ができる。
 慣れて来ると声を出さずに会話をする事もできる有難い魔法なのだが、便利な分制限も多い。

 当然師弟の間でしか使えず、第三者に向けることも、会話に参加させることも出来ない、完全な秘匿回線。
 使用するのに魔力はあまり消費しないのだが、脳を酷使するらしく、長時間や1日に何度も使用すると、双方に耐え難い頭痛を引き起こす。
 この頭痛が発生すると治るまでの数時間魔法が使いづらくなる。
 魔法も脳を酷使するので、頭痛に阻害されると言えば、分かりやすいか。
 また、どちらかが完全に覆われた魔法阻害エリア、魔術協会の様な中にいる場合や水中、遺跡やダンジョン内にいる場合なども使う事が出来ない。
 師匠であっても、この頭痛には抗う事が出来ない上に、その時には既に悶絶して完全に使い物にならない僕が出来上がる。
 そんな訳で、念話は緊急時のみに使用する事にしている。

 それが使われた。

 という事は何らかの緊急事態が発生した、又は、発生するという事だ。

 師匠の声に意識を集中する。

「簡潔に話すぞ。
 これから街の南門から東の森に移動し、転移する。
 戻るまで数日、場合によっては数ヶ月になる可能性もある。
 街の出入りは記録されているので街を出た記録を残す。
 出たらすぐに全方位を探知し、こちらの動きを探る者がいないか確認してくれ、いた場合問答無用で殺れ!
 目標の排除または問題が無ければ、西に魔力の痕跡を残せ。
 会話は厳禁。森に着き次第転移する。
 恐らく転移先ですぐ戦闘になる。
 マンティコアが十以上だ。」

 マンティコアは人のような頭部,ライオンの体、サソリの尾を合わせ持つキメラタイプの魔物で、人語を解する程知能が高い。
 力も強く、魔法も使用する、近距離、中距離どちらもこなすが、近距離に強いアタッカーとそれなりの魔法障壁が展開出来る魔術士、回復役がいれば倒せない事は無い。
 つまり、通常の冒険者が複数で対応する程凶悪な魔物なのだ。
 
 それが十体以上。
 突然のことで呆気に取られるが、念話まで使用した指示。
 ふざけた話ではないし、師匠の指示は絶対だ。
 何より、僕らの力量であれば対処は可能だ。

「了解しました。装備は問題ありませんので森に着き次第、師匠のタイミングで転移して下さい。転移後の一射目はどちらが?」

「私がやろう。」

「了解です。後は合わせます。」

 念話が切れた。

 この角を曲がると北の門だ。

 中核都市エテルナは周囲を外壁が囲み、中心の広場から東西南北に十字の大通りが各門まで続く。
 出入りは四方の門のみという一般的な都市構造をしていて、約五千人がその中で生活している。
 中核都市として、近隣の村や集落約三千人の管理もしているが、東西には手付かずの森を抱え、北の平原を超えた先には、砂漠が海まで広がることから、平時は南の門のみが使用され、その他の門は有事に備え固く閉ざされている。
 エテルナは国境に面している訳ではないので、外壁は専ら魔物から街を守る為のものだ。
 通行税を取るので、課税と治安維持も兼ね、街の出入は衛兵により管理されている。

 しかし、魔力の痕跡を逆方向に仕掛けるという事は、魔力探知で行き先を断定されない為の偽装工作だ。
 そこまで慎重にするのは珍しい。
 警戒レベルは相当高いとみて良いだろう。

 この時間は通行する者も少なく見知った受付だった事もあり、すんなりと街の外に出ることができた。
 近くに誰もいないことを確認すると魔法の痕跡を西に走らせ、僕らは東の森へ移動する。

 外から見えないぐらい奥に入ると、一度周囲を索敵、何もないことを確認すると師匠が杖を握る。

 いよいよだ。

 既に準備万端、いつでも戦闘態勢に移れる。

 魔力の流れを感じると足元に魔法陣が出現する。

 転移魔法の発現準備はこれで整う。

 転移魔法は今は失われた古代の魔法で、一度行った場所であれば一瞬で移動が可能だ。
 ただし、対象の質量と距離に応じて使用する魔力量が増える為、当時から誰でも使えた訳では無い。
 また、転移魔法は、その危険性に対して転移阻害の原理が簡単で、研究も活発だった事から数多くの阻害魔道具が今も残っている。
 重要な施設などには、ほぼ設置済。  
 更に転移魔法の使用者がいなくなった為に作製こそされていないが、現在も魔術協会には、設計図が残っている。
 そんな魔法だ。

 ちなみに、設置済の魔法陣間で移動する技術は、現在も普通に使われる魔術となっている。
 転移魔法に比べ、数名の質量であれば比較的容易に転送する事が可能な為、ダンジョンや城、一部の貴族や富裕層が使用している。
 この魔法陣は金で買うことのできる魔術の一つで、魔術協会の収益源の一つともなっている。
 ただし、2つ以上の出入口となる魔法陣同士を上下に配置し、魔法陣の上に移動させる構造上、横移動が物理的に不可能な為、使用には制限がある。
 原理は目に見えない筒を繋いだエレベーターだ。
 つまり、横移動が可能なのは転移魔法だけなのだ。
 制限はあれ、有用な事には変わりが無い。

「さぁ、行こうか。」

 発現した魔力の光に包まれ消えると、そこには何ら変わりの無い森が広がる。
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