二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

遺跡とマンティコア

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 そこは広々とした灰色一色の石室。
 灯りも十分に配置されていて、行動を阻害することは無い。
 使われている石は一メートル角に綺麗に切り揃えられ、凹凸のない盤面が整然と積み重ねられ、敷き詰められている。
 それだけでもかなり高度な技術を用いられているのが分かる。
 
 転移した直後、魔力のこもった咆哮が幾重にも重なり、不意に現れた侵入者に襲いかかる。
 転移の魔力を感知したマンティコアの対応は早く、魔力に対する耐性の無い者であれば、この咆哮で萎縮し、先手を取られ致命傷の一撃を受ける。

 しかし、そんな一撃が振るわれるより早く事態は動く。

 師匠が赤く光る杖を振るうと、手前に陣取ったマンティコア八体の脳天が正確に貫かれ倒される。

 魔法射出と同時に左にワンステップ。
 僕の正面に斜線が空く。
 既に発動準備を終えていた僕の杖が青く輝きマンティコアを魔法陣に捉える。

 可燃性のガスが室内に漂っている可能性を警戒し、炎系の魔法は使わない。

 敵の移動を阻害する様に、円錐の氷柱が地面から突き出した!
 避けきれない二体が串刺しになり、余波で三体が凍る。
 間髪入れずに、誘導され中心に集められた残りのマンティコアに容赦のない氷の矢が降り注ぎ、さらに命を削って行く。

 咆哮が悲鳴の様な叫びに変わると、徐々にその数を減らし、数秒の射出が終わると、声を発する者はいなくなった。

 撃ち漏らしを警戒していた師匠が展開していた魔法をキャンセルし、声を掛けてくる。

「状況を踏まえた、なかなか良い魔法だったじゃ無いか」

「師匠の教えが良いもので」

「ぬかせ!」

 一応周辺の探知を終え、近くに敵意のあるものがいないことを確認し声をかける。

「魔石どうします?」

 魔物には、そのものが持つ魔力に応じ魔石が内包されている。
 命あるものであれば大概が心臓の脇だ。
 魔石は魔物が持つ魔力が結晶化したもので、魔物の種類によって色も形も性質も違うので、討伐証明にも使用されるし、様々な触媒や魔法効果の増幅など魔石自体の使用用途は広い。
 それでいて作り出すことが出来ない為、それなりの値段で取引されている。

 マンティコアはなす術無く死に絶えたが、本来は割と強力な火系の魔法を放ち、保有する魔力量も高い。何より存在自体が希少なので、価値も高い。

「そうだな、他の部位は解体に時間がかかるだろうから魔石のみ回収するか。魔石を回収したら死体は真ん中に積んでくれ、処分する」

「分かりました。」

 まぁ、師匠は汚れるので回収などしない。

 毎度のことだ……

「ところで師匠ここはどこです?いきなりマンティコアとか普通に考えて相当やばいところの様ですけど」

 マンティコアの胸に解体用に作った短剣を突き刺しながら声をかける。

「ここは、魔法文明時代の遺跡だ。しかもまだ誰にも知られていないな」

「なっ!」

 思わず手が止まる。

 現在確認できている未探索の遺跡は十も無い。
 各国が秘匿している遺跡を入れても三十あるか無いかというところだ。
 しかも未探索と言っても少しは調査が進められ、ガーディアンが協力など、先に進めない理由ぐらいは判別されている。
 まったくの手付かずなど、どれだけの価値があるか、少なくとも報告するだけで金貨が何十枚か報酬として出るのだ。

「手が止まってるぞ」

 どこからか出した椅子に座った師匠から催促の声が飛ぶ。

 五体目の胸に刃を入れながら続ける。

「協会への報告は……」

「している訳がないだろ。何のために隠蔽までしてここまで来たと思ってる。」

「そうですけど、何が目的ですか?」

「私の見立てでは、インディアの実験施設もしくは、何らかの保管庫では無いかと思っているんだが」

「あの、インディアですか!?本当なら大発見じゃ無いですか!」

 インディアとは八百年前の魔法使いにして錬金術士だ。
 ただし、存命中に注目されたことは一度も無かった。
 彼が一躍有名になったのは、没後研究を引き継いだ弟子達が魔術協会発足時に公開した技術が衝撃的だったからだ。
 彼の研究テーマは魔石の活用方法。
 そこからもたらされた最大の功績は魔石に内蔵された魔力を動力源として使用することが出来る魔道具の基礎を作った事で、街中に灯りが絶えないのも、この技術を応用し魔石自体を発光させランプや街灯として使用しているからである。
 この部屋が明るいのもこの技術が使われている様だ。
 しかし、彼には多くの謎もあった。
 本人が自作した魔道具などの多くが見つかっておらず、弟子にも設計図や魔法陣などの完成した結果のみが伝達されただけである。
 弟子達の研究は、何かを生み出すのではなく、師の研究結果を解析することが大半を占めている。
 また、場所を転々と変えながら研究を行っていた様で、インディア本人の研究施設や隠遁生活を送った場所の一部が現在も発見されていない。
 その一つがここである可能性が高いと言うのだ。

「大発見全てが世に出せるものとは限らないがな」

 随分と意味深い事を言う。

「どういうことですか?」

「別に確信があってのことでは無いのだが、見つからないという事は見せたく無い、または見せられないという、逆説的な見方もできるという事だよ。現にマンティコアなんてものがいるし、この先何が出るかは分からないからな。」

「確かに偉大な魔法使いが、マトモな人であるとは限りませんからね」

師匠然り……

「否定はせんよ」

目が笑って無い……

「終わりましたよ。」

タイミング良く十八匹目のマンティコアであったものを重ねながら師匠を見ると、火球がスレスレを飛んできた。

「あぶな!」

業火に焼かれるマンティコアの死骸を見ながらケタケタと笑う師匠を睨む。

 平静を装い問いかける

「で、師匠これからどうします?」

「無論先に進む。用途は不明だが、ここは地下二階の広間と言った所の様だ。本来地下四階程度の作りなのだが、侵入者用の対策が施されているのは間違いない。それと、この先が迷宮化している。」

「ダンジョンですか?」

「ああ、意図的かどうかは分からないが踏破するしかないだろうな。彼が残した施設であれば良いものが手に入るやもしれんし、隠すならダンジョンを無効化しないとな」

不敵な笑みだが、悪いことを考えている時の顔は魔性の女そのものだ。

「分かりました。ここに転移してきたという事は、この先は師匠も進んでないのでしょうから先頭は僕が行きます。」

「ん、任せよう」

 左隅に上階から繋がる階段を一瞥し、正面の大扉に向けて歩き出す。
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