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一章
炎の渦と師
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「前から五体来るぞ!」
百体までは数えたがキリがない。
魔物部屋から更に降ること二階、入り組んだまさに迷路の様なこの階層は、スケルトンにグールなどアンデット系モンスターの巣窟だった。鼻をつんざく強烈な腐臭、おぞましい屍肉を纏ったグールの大群を今一人で相手にしている。
修行らしい……
「気持ち悪い……」
早々と猛烈な臭気に匙を投げた師匠は修行という名の殲滅を僕に課した。
「中途半端に焼くと臭い!もっと高温で一気に焼く骨も残すな!ほら、次が来る!」
高さ三メートル、横幅五メートルの範囲内で展開される大規模な炎は、そのまま放ってしまえば、大量の酸素を消費する。
酸欠になれば自分たちも危険だ。
その為、魔法障壁で相手を閉じ込め、不必要に酸素を消費しない様、足りない火力は高濃度の魔力を転用し一気に燃やし尽くす。
言うのは簡単だが高度な魔力操作と複数の魔法を同時に使用しつつコントロールする繊細さが要求される。
普通の魔術士なら一発も撃たずに魔力枯渇で倒れるか魔力が暴走しダンジョンの崩壊を招く恐れもある。
炎を使わないと臭いが取れないからと言う理由で、他の魔法は使用禁止だ。
で、かれこれ一時間修行が続く。
まぁ、難題をクリアするととてつもなく成長するのだが、課題の根拠が私の快適さ、というところが師匠らしい。
「きゃぁ!」
不意に地面から湧いたスケルトンを可愛い悲鳴と共に蹴り飛ばす師匠。
蹴り飛ばされた頭蓋骨は抜群のコントロールと破壊力を秘めた高速弾と化し、後方のスケルトン軍団およそ十体を粉砕する。
悲鳴と行動が一致しない……
「お気に入りのブーツが汚れたでしょ!もっと周りに気を配りなさい!」
索敵も同時にやれということらしい。
新たな課題が今増えたらしい……
マジでラチがあかない。
前方のグール、後方のスケルトンを一気に焼き尽くし、しばしの間ができた。
先程から考えていた魔法を構築する。
足元に魔法陣が展開され、同時に杖に刻まれた魔法刻印が光る。
僕を起点に風がうねり始める。
気を抜くと暴発する程の魔力を気合いで押し留め、複数展開した魔法を杖の先端で再構築する。
一瞬の静寂の後、杖の先端に高濃度の魔法陣が展開されると、炎を纏った風の渦が通路一杯を埋め尽くし走り出す。
一度走り出した炎の渦は通路に沿って全てを飲み込む炎龍のごとく迷路を駆け巡る。
これだけ複雑で魔力消費の激しい一発を放ったのは久しぶりだった。
肩で息をする
「これで殲滅かと」
「あの炎はどうなるのだ?」
「行き止まりまで行けば消えますよ。念のために消える前に爆発しますからそれで分かります。それよりもう魔力が限界で、一発も撃てませんよ。歩けないことは無いですが、少し休みましょ。」
「威力も魔法操作も及第点だな。ところであれはキャンセルできないのか?」
「流石にそこまでは、言ったとおり行き止まりで爆発しますから」
少し考えるそぶりをしながら、指差す。
「ふむ、ではあれはどうしょうか?」
師匠が指し示す、僕らが進んできた真っ直ぐの道
「ん?」
つまり後方に目をやると曲がり角が光る。
途端に炎の渦が曲がって来た。
「どうやら行き止まりは無いらしいな」
ヤバイ、キャンセルするにも魔力が無い、魔法障壁も張れない。
「ど、どうしましょ???」
我ながら高威力の魔法だ。
師匠の事だから死にはしないだろうが、余波は免れないだろう。
てか、僕も助けてくれるのだろうか……
「不肖の弟子が、詰めが甘い!」
止めた。
……素手で
「爆発する!!!」
握り潰した。
……素手で
そこには何事も無かったかのような空間と不敵な笑みを浮かべる魔性の女が一人。
「償いは出てからにしてやる」
死刑宣告ですかね……
「あ、ありがとうございます……」
「まあ、すっかり臭いも消えたし先に進むぞ。」
結局休みはお預け、反論することも出来ず、魔力回復ポーションを飲みながら後に続く。
◇
階段を降りると、また同じ様な作りの階層だった。
左右に通路が広がり大きさも同じくらいの様だ。
腐臭はしないので、アンデット系はいないのだろうが、更に強力な魔物の気配を感じる。
「ここは私が先導してやろう」
右の通路に向かうと杖を掲げる。
全長百七十センチ程の師匠の杖は、先端に深紅の宝玉を抱く魔杖「深淵」。
詳しいことは教えて貰っていないが、古の魔法使いの手による傑作らしい。
僕の魔杖「愚者の咆哮」と作者は同じらしいが、杖に頼るなとこちらも詳しいことは教えてもらっていない。
常に杖が手元にあるとは限らないのだから師匠の教えは正しい。
魔法の安定性や魔力行使の補助、幾つかの仕掛けが分かっていれば十分だ。
「あれは!」
深紅の宝玉が光ると宝玉を中心に魔法陣が展開する。
放たれた炎は綺麗な螺旋を描き通路を疾走する。
僕が先程放った魔法と同じだ。
いや、同じというには物が違いすぎる。
「発想は悪くは無かったが、魔法構築までのスピードとコントロールが美しく無いな」
いとも簡単に上を行かれる。
しかも威力とスピードが倍は違う。
それを放って平然としているのは魔力量の違いだけでは無いだろう。
僕と師匠の持つ魔力量は、有難い修行のお陰で、ほぼ同等まで成長している。
それなのにこの違いを産む理由はたった一つ、効率が桁違いということだろう。
要するに僕の燃費が悪いのだ。
後方に熱気と魔力を感じる。
近づいた炎の渦は一瞬燃え広がり、僕らに到達する事なく消えた。
「この手の魔法は消滅するまでコントロールを手放すな。それと使用する場所の特性なども推測に頼るな。それ以外は良い出来だったぞ」
また、腕を取られ歩き出す。
この階層は師匠の偉大さと格の違いを見せつけられただけだった。
百体までは数えたがキリがない。
魔物部屋から更に降ること二階、入り組んだまさに迷路の様なこの階層は、スケルトンにグールなどアンデット系モンスターの巣窟だった。鼻をつんざく強烈な腐臭、おぞましい屍肉を纏ったグールの大群を今一人で相手にしている。
修行らしい……
「気持ち悪い……」
早々と猛烈な臭気に匙を投げた師匠は修行という名の殲滅を僕に課した。
「中途半端に焼くと臭い!もっと高温で一気に焼く骨も残すな!ほら、次が来る!」
高さ三メートル、横幅五メートルの範囲内で展開される大規模な炎は、そのまま放ってしまえば、大量の酸素を消費する。
酸欠になれば自分たちも危険だ。
その為、魔法障壁で相手を閉じ込め、不必要に酸素を消費しない様、足りない火力は高濃度の魔力を転用し一気に燃やし尽くす。
言うのは簡単だが高度な魔力操作と複数の魔法を同時に使用しつつコントロールする繊細さが要求される。
普通の魔術士なら一発も撃たずに魔力枯渇で倒れるか魔力が暴走しダンジョンの崩壊を招く恐れもある。
炎を使わないと臭いが取れないからと言う理由で、他の魔法は使用禁止だ。
で、かれこれ一時間修行が続く。
まぁ、難題をクリアするととてつもなく成長するのだが、課題の根拠が私の快適さ、というところが師匠らしい。
「きゃぁ!」
不意に地面から湧いたスケルトンを可愛い悲鳴と共に蹴り飛ばす師匠。
蹴り飛ばされた頭蓋骨は抜群のコントロールと破壊力を秘めた高速弾と化し、後方のスケルトン軍団およそ十体を粉砕する。
悲鳴と行動が一致しない……
「お気に入りのブーツが汚れたでしょ!もっと周りに気を配りなさい!」
索敵も同時にやれということらしい。
新たな課題が今増えたらしい……
マジでラチがあかない。
前方のグール、後方のスケルトンを一気に焼き尽くし、しばしの間ができた。
先程から考えていた魔法を構築する。
足元に魔法陣が展開され、同時に杖に刻まれた魔法刻印が光る。
僕を起点に風がうねり始める。
気を抜くと暴発する程の魔力を気合いで押し留め、複数展開した魔法を杖の先端で再構築する。
一瞬の静寂の後、杖の先端に高濃度の魔法陣が展開されると、炎を纏った風の渦が通路一杯を埋め尽くし走り出す。
一度走り出した炎の渦は通路に沿って全てを飲み込む炎龍のごとく迷路を駆け巡る。
これだけ複雑で魔力消費の激しい一発を放ったのは久しぶりだった。
肩で息をする
「これで殲滅かと」
「あの炎はどうなるのだ?」
「行き止まりまで行けば消えますよ。念のために消える前に爆発しますからそれで分かります。それよりもう魔力が限界で、一発も撃てませんよ。歩けないことは無いですが、少し休みましょ。」
「威力も魔法操作も及第点だな。ところであれはキャンセルできないのか?」
「流石にそこまでは、言ったとおり行き止まりで爆発しますから」
少し考えるそぶりをしながら、指差す。
「ふむ、ではあれはどうしょうか?」
師匠が指し示す、僕らが進んできた真っ直ぐの道
「ん?」
つまり後方に目をやると曲がり角が光る。
途端に炎の渦が曲がって来た。
「どうやら行き止まりは無いらしいな」
ヤバイ、キャンセルするにも魔力が無い、魔法障壁も張れない。
「ど、どうしましょ???」
我ながら高威力の魔法だ。
師匠の事だから死にはしないだろうが、余波は免れないだろう。
てか、僕も助けてくれるのだろうか……
「不肖の弟子が、詰めが甘い!」
止めた。
……素手で
「爆発する!!!」
握り潰した。
……素手で
そこには何事も無かったかのような空間と不敵な笑みを浮かべる魔性の女が一人。
「償いは出てからにしてやる」
死刑宣告ですかね……
「あ、ありがとうございます……」
「まあ、すっかり臭いも消えたし先に進むぞ。」
結局休みはお預け、反論することも出来ず、魔力回復ポーションを飲みながら後に続く。
◇
階段を降りると、また同じ様な作りの階層だった。
左右に通路が広がり大きさも同じくらいの様だ。
腐臭はしないので、アンデット系はいないのだろうが、更に強力な魔物の気配を感じる。
「ここは私が先導してやろう」
右の通路に向かうと杖を掲げる。
全長百七十センチ程の師匠の杖は、先端に深紅の宝玉を抱く魔杖「深淵」。
詳しいことは教えて貰っていないが、古の魔法使いの手による傑作らしい。
僕の魔杖「愚者の咆哮」と作者は同じらしいが、杖に頼るなとこちらも詳しいことは教えてもらっていない。
常に杖が手元にあるとは限らないのだから師匠の教えは正しい。
魔法の安定性や魔力行使の補助、幾つかの仕掛けが分かっていれば十分だ。
「あれは!」
深紅の宝玉が光ると宝玉を中心に魔法陣が展開する。
放たれた炎は綺麗な螺旋を描き通路を疾走する。
僕が先程放った魔法と同じだ。
いや、同じというには物が違いすぎる。
「発想は悪くは無かったが、魔法構築までのスピードとコントロールが美しく無いな」
いとも簡単に上を行かれる。
しかも威力とスピードが倍は違う。
それを放って平然としているのは魔力量の違いだけでは無いだろう。
僕と師匠の持つ魔力量は、有難い修行のお陰で、ほぼ同等まで成長している。
それなのにこの違いを産む理由はたった一つ、効率が桁違いということだろう。
要するに僕の燃費が悪いのだ。
後方に熱気と魔力を感じる。
近づいた炎の渦は一瞬燃え広がり、僕らに到達する事なく消えた。
「この手の魔法は消滅するまでコントロールを手放すな。それと使用する場所の特性なども推測に頼るな。それ以外は良い出来だったぞ」
また、腕を取られ歩き出す。
この階層は師匠の偉大さと格の違いを見せつけられただけだった。
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