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一章
野営と料理
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あれから更に二階層を突破したところで今日の修行は終わりの様だ。
そこまで強い魔物は出て来なかったが、とにかく量が多く、魔力が持たない。
まぁ、普通は全ての階層を根こそぎ殲滅などしないから、踏破という意味では非効率だし、階層によって使用魔法に制限をかけられているのだからキツイ。
効率化的な魔法運用が今後の課題だということがわかっただけでも御の字か。
「この階層の魔物は全て焼き払いましたので安全です。ここで野営で良いですか?」
「そうだな。念のため結界は張っておいて」
「了解です!飯の用意をしますので、それまで休んでいて下さい。」
笑みを携えると師匠はフラッとこの場を離れる。
僕も何処へとは聞かない。
女性の嗜みがあるから聞かないし、詮索もしない。
命が惜しいから……
師匠と一緒に暮らし始めてから、食事の支度はほとんど僕がやっている。
決してできないのでは無く、やらないのだ……
それなのにグルメなものだから、最初は苦労した。
当然スパルタなので一定の水準を超えないと滝に打たれたり、魔物の巣に落とされたり……
子供の知識では、グルメな師匠の舌は満足させられない。
というか料理のイロハも分からないし、教えてくれない。
そこで最初は近所のおばちゃんに習いに行った。
一通りレシピを覚えると、街のレストランなどに手伝いに行って習ったりと妥協の無い料理道にも足を踏み入れたものだ。
美味いレストランに出会うと味を盗んでいるお陰で、今となっては料理人ばりの腕前だ。
僕らにとって、妥協の無い食生活は当たり前の日常だが、それを野営でまで行うのは非常に珍しい。
普通は簡易な食事を心がけ、なるべく休息に当てるのが慣例だ。
旅が多かったこともあり、師匠に言ったら鼻で笑われた。
「美味い飯を食わずに何が休息だ。」
何も言い返せなかったのを覚えている。
それからは、妥協しない食事は日常になった。
「師匠出来ました!」
「おっ、美味そうだな」
マンティコアから肉を調達しておいたのと、移動中にちょいちょい食材になる物を集めておいた。
家畜は基本労働力として捉えられるので、 魔物の肉は食材として普通に食べられている。
ゴブリンなどの脂肪分の少ない人型の魔物は食用に適さないが、四足歩行の魔物や魚系の魔物は、ほぼ食べられる。
物によって美味い不味いはあるが、それさえ見極めれば、栄養価が高く食材としては優秀なのだ。
「このダンジョンちょっと変じゃないですか?」
食後のお茶を出しながら続ける。
「ダンジョンとしては決して規模は大きく無いのに魔物の量が多すぎます。未踏とはいえ、あの量はちょっと」
「考えられるのは、ダンジョンの発生原因だろうな。」
「ダンジョンの発生原因って解明されてないのでは?」
「全部では無い」
サラッととんでもないことを言った……
多分、ダンジョン研究に携わる者がひっくり返る。
それぐらい謎なのがダンジョンなのだが……
師匠曰く。
魔力が集まり高濃度に圧縮されたのが魔石なのだが、ここに人の思念が作用することで魔石が魔核に変異することがあるらしい。
この魔核がいわゆるダンジョンコアと呼ばれるもので、これを起点に洞窟や建物と融合しダンジョンが生成されることがある。
当然稀な現象であるが、問題は思念が負の感情であるということらしい。
人の無念など、生き物が持つ負の感情が一定以上集まりそれに高濃度の魔石が反応した結果なので、出来上がったダンジョンもその思念の影響を受けるとのことだ。
「確率はとても低いがロクなもんじゃないな。」
「思念の多さが、あのモンスターの量ですか」
「まず間違い無いと思うぞ。まぁ、魔法効率の修行にはうってつけだがな。」
「否定はしませんがね……」
「明日も続けるから覚悟しとけよ。さ、寝るぞ」
そういうと、マントを包んで横になる。
魔石を周囲に配置した簡易結界だが、師匠直伝だ、そうそう破られるものでは無い。
これのお陰で寝ずの番などすることも無く休めるのが最大の利点だ。
割と当たり前の技術だと思っていた事が、違うと知らされるのはもう少し後の話である。
◇
石室から数えて十五階、既に三日目だが、ようやく終わりが見えて来た。
「大扉ですね」
見たことのある大扉が目前にある。
どうやら間に発生したダンジョンの終わりがここの様だ。
「時間も遅い、ここで野営したら進むぞ。多分ダンジョン主がいる」
ダンジョンは要所要所に守護者を配置する。
その中でも最も強力なものがダンジョンコアを守る守護者だ。
こうした守護者を配置したり、魔物を生み出すことからダンジョンには意思があるとか、ダンジョン自体が生命体であると言われる所以だが、よく分かっていない。ほぼ全てが謎。それがダンジョンだ。
そそくさと結界を張りながら夕飯の用意に取り掛かる。
「そいつを倒したらいよいよ施設内の探索ですね!」
有名人だけに、ちょっとテンションが上がる。
「だろうな。ダンジョン主やってみるか?」
「良いんですか???」
「まぁ今回の修行の集大成って事で」
「わっかりました!お任せ下さい!」
「調子に乗るなよ」
シチューを頬張りながらエールをくれるところがツンデレだ。
とはいえここに来るまで、およそ五千体は仕留めている。
それなりに成果が気になるものだ。
さぁ、ボス戦だ!
そこまで強い魔物は出て来なかったが、とにかく量が多く、魔力が持たない。
まぁ、普通は全ての階層を根こそぎ殲滅などしないから、踏破という意味では非効率だし、階層によって使用魔法に制限をかけられているのだからキツイ。
効率化的な魔法運用が今後の課題だということがわかっただけでも御の字か。
「この階層の魔物は全て焼き払いましたので安全です。ここで野営で良いですか?」
「そうだな。念のため結界は張っておいて」
「了解です!飯の用意をしますので、それまで休んでいて下さい。」
笑みを携えると師匠はフラッとこの場を離れる。
僕も何処へとは聞かない。
女性の嗜みがあるから聞かないし、詮索もしない。
命が惜しいから……
師匠と一緒に暮らし始めてから、食事の支度はほとんど僕がやっている。
決してできないのでは無く、やらないのだ……
それなのにグルメなものだから、最初は苦労した。
当然スパルタなので一定の水準を超えないと滝に打たれたり、魔物の巣に落とされたり……
子供の知識では、グルメな師匠の舌は満足させられない。
というか料理のイロハも分からないし、教えてくれない。
そこで最初は近所のおばちゃんに習いに行った。
一通りレシピを覚えると、街のレストランなどに手伝いに行って習ったりと妥協の無い料理道にも足を踏み入れたものだ。
美味いレストランに出会うと味を盗んでいるお陰で、今となっては料理人ばりの腕前だ。
僕らにとって、妥協の無い食生活は当たり前の日常だが、それを野営でまで行うのは非常に珍しい。
普通は簡易な食事を心がけ、なるべく休息に当てるのが慣例だ。
旅が多かったこともあり、師匠に言ったら鼻で笑われた。
「美味い飯を食わずに何が休息だ。」
何も言い返せなかったのを覚えている。
それからは、妥協しない食事は日常になった。
「師匠出来ました!」
「おっ、美味そうだな」
マンティコアから肉を調達しておいたのと、移動中にちょいちょい食材になる物を集めておいた。
家畜は基本労働力として捉えられるので、 魔物の肉は食材として普通に食べられている。
ゴブリンなどの脂肪分の少ない人型の魔物は食用に適さないが、四足歩行の魔物や魚系の魔物は、ほぼ食べられる。
物によって美味い不味いはあるが、それさえ見極めれば、栄養価が高く食材としては優秀なのだ。
「このダンジョンちょっと変じゃないですか?」
食後のお茶を出しながら続ける。
「ダンジョンとしては決して規模は大きく無いのに魔物の量が多すぎます。未踏とはいえ、あの量はちょっと」
「考えられるのは、ダンジョンの発生原因だろうな。」
「ダンジョンの発生原因って解明されてないのでは?」
「全部では無い」
サラッととんでもないことを言った……
多分、ダンジョン研究に携わる者がひっくり返る。
それぐらい謎なのがダンジョンなのだが……
師匠曰く。
魔力が集まり高濃度に圧縮されたのが魔石なのだが、ここに人の思念が作用することで魔石が魔核に変異することがあるらしい。
この魔核がいわゆるダンジョンコアと呼ばれるもので、これを起点に洞窟や建物と融合しダンジョンが生成されることがある。
当然稀な現象であるが、問題は思念が負の感情であるということらしい。
人の無念など、生き物が持つ負の感情が一定以上集まりそれに高濃度の魔石が反応した結果なので、出来上がったダンジョンもその思念の影響を受けるとのことだ。
「確率はとても低いがロクなもんじゃないな。」
「思念の多さが、あのモンスターの量ですか」
「まず間違い無いと思うぞ。まぁ、魔法効率の修行にはうってつけだがな。」
「否定はしませんがね……」
「明日も続けるから覚悟しとけよ。さ、寝るぞ」
そういうと、マントを包んで横になる。
魔石を周囲に配置した簡易結界だが、師匠直伝だ、そうそう破られるものでは無い。
これのお陰で寝ずの番などすることも無く休めるのが最大の利点だ。
割と当たり前の技術だと思っていた事が、違うと知らされるのはもう少し後の話である。
◇
石室から数えて十五階、既に三日目だが、ようやく終わりが見えて来た。
「大扉ですね」
見たことのある大扉が目前にある。
どうやら間に発生したダンジョンの終わりがここの様だ。
「時間も遅い、ここで野営したら進むぞ。多分ダンジョン主がいる」
ダンジョンは要所要所に守護者を配置する。
その中でも最も強力なものがダンジョンコアを守る守護者だ。
こうした守護者を配置したり、魔物を生み出すことからダンジョンには意思があるとか、ダンジョン自体が生命体であると言われる所以だが、よく分かっていない。ほぼ全てが謎。それがダンジョンだ。
そそくさと結界を張りながら夕飯の用意に取り掛かる。
「そいつを倒したらいよいよ施設内の探索ですね!」
有名人だけに、ちょっとテンションが上がる。
「だろうな。ダンジョン主やってみるか?」
「良いんですか???」
「まぁ今回の修行の集大成って事で」
「わっかりました!お任せ下さい!」
「調子に乗るなよ」
シチューを頬張りながらエールをくれるところがツンデレだ。
とはいえここに来るまで、およそ五千体は仕留めている。
それなりに成果が気になるものだ。
さぁ、ボス戦だ!
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