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一章
錬金術士インディア
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「なぜ、分からない!分からないんだぁ!!!」
炎に包まれた館を背にインディアは地面を叩く。
一層炎が増し、館が耐えきれず崩れ始める。
それでも彼は地面に叩き続けた。
皮は破れ肉がえぐれても、そこに痛みは無かった。
ただ、悔しくて、悔しくて
行き場のない怒り、憎悪ともいうべき怒りが身体を心を支配する。
多くの弟子を抱え魔石の研究に勤しんでいた錬金術士インディアはこの日を境に隠遁生活を送る。
燃えていたのは彼の研究施設、多くの弟子がこの炎に巻き込まれ命を落とした。
◇
「楽勝!」
燃え尽きるボス部屋の主。
ここ数日間のスパルタ修行の効果だ。
魔法錬成のスピード、適正魔力のコントロール、全て一段上の領域に来た実感がある。
圧倒的火力で一気に焼いた!
「どうですか!師匠!」
「よしよし、よくやった」
頭を撫でられた。
えっ、ちょっと嬉しいんですけど
「これからが本番だぞ。ひきしめろ!」
終わったんじゃ無いのか……
師匠の目線が部屋奥の扉を見つめている。
そのいつにない真剣な表情に、襟を正す。
「師匠?」
「錬金術士インディアの秘密が待ってる」
扉を押しひらく。
◇
「これはなんですか???」
「予想以上だなこれは……」
ダンジョンが終わり、押し開けた扉の先には石室と同じ材質の細長い変哲も無い通路があった。問題はその先の扉を開けた部屋だった。
ここは謎多き錬金術士インディアの研究施設だった。
後の弟子が彼の偉業を称え研究し、未だ解き明かす事の出来ていない、その過程が収められた場所がここだった。
植物に侵食された研究室と思われる部屋には、経年劣化に耐えられなかった無数のガラス管が並ぶ。
無事なガラス管の中には身体を切り開かれた魔物が漂う。
魔石研究の第一人者とすれば、これは想定の範囲内。
魔石は魔物の体内に内包する。
ただ、その先にあったものは違った。
複数の魔物が癒着した姿。
人とつなぎ合わされた姿。
人と思われる部分が複数纏められた何か。
「おえっ!」
無事なガラス管は、まともな神経では直視することができない。
説明されなくても分かる。
彼の研究は狂気の域に達していたのだ。
魔石と人の関係性、彼の研究結果は壮大な人体実験の結果だったのだ。
後の世に不幸な事故の結果とされた魔石の人体への影響など、非道にさえなれば可能な実験だ。
その結果がガラス管に浮遊する。
彼の偉業の数々に秘められた、狂った過程が全てここに納められていた。
しばし、動けなかった。
頭がグチャグチャだ。
高名な錬金術士の偶像が砕けた。
ようやく冷静さを取り戻し師匠を振り返る
「見つからないという事は見せたく無い、または見せられないということ。師匠が言いたかったのはこのことだったんですね。」
振り向く僕の目には止まらない涙が。
滲む先に佇む彼女も悲しそうな目だ。
ダンジョンが発生したのはここで狂気の実験体となった多くの無念が、悔しさ、憎しみ、そういった負の感情が蓄積した結果だ。
思念までは消せなかったのだろう。
「魔石の運用はこの研究の結果ですか。こんなの発表出来る訳がない!」
「ああ、永遠に葬るしかないだろうな」
インディアは見つけてしまったのだ。魔石の可能性の先にある狂気を、研究者として踏み入れてはならぬ人の道の先にあるものに理性が働かなかった。
あの日狂気に踏み出す師を止めるべく、多くの弟子が犠牲になった。
燃え盛る館では師の狂気に切り刻まれた弟子が無念の中焼かれたのだ。
理解されない人の道を外れたインディアには、その狂気を加速させることしかできなかった。
その結果が、皮肉にも今の繁栄に繋がる。
数多く残された資料には今の豊かな生活に繋がる多くの技術が、無数の非道の上に成り立ったものであることを証明していた。
それから僕らは残りの部屋の探索、残された資料の解析に数日を要した。
◇
陽が傾く中、師匠の魔法がダンジョン諸共遺跡を焼く。
後味は悪すぎるが、これも必要な行いだろう。
永遠に葬り去ることに決めたからには最後まで責任を持たねばならない。
砂漠に崩れ落ち埋まる遺跡を見つめると、師匠がそっと語りかける。
「さぁ帰ろうか」
◇
エテルナの街に着くと、既に夜だった。
宿に向かいながら師匠が話し始める。
「魔法革命はある意味正しい結果だ。当時の魔法使いには、こうした狂気の研究が数多く存在したのも確かだからな。
魔法行使が魔術となった今の世界は正しいのかもしれない。
インディアの所業は十分それを証明するものだ。だが、だがな……」
「僕も揺らぎますよ。何が正しいのか分からなくなります。ただ、師匠は正しい。それだけは揺るぎません」
「君は師匠思いの良い弟子だな」
「ええ、それだけは負けませんから」
街を照らす街灯ひとつひとつの輝きが、今日は哀れに見える。
「魔法革命」
全ての魔法使いのあり方が変わった五百年前。
その行いは正しい。
ただ、僕らはその過程とその後に異を唱える存在だ。
「特級魔術士」は仮の姿。
魔導師と魔道士。
魔法の深淵に至る道を歩む者。
「死が二人を分かつまで」師弟と誓った、古の魔法を司る魔法使いだ。
炎に包まれた館を背にインディアは地面を叩く。
一層炎が増し、館が耐えきれず崩れ始める。
それでも彼は地面に叩き続けた。
皮は破れ肉がえぐれても、そこに痛みは無かった。
ただ、悔しくて、悔しくて
行き場のない怒り、憎悪ともいうべき怒りが身体を心を支配する。
多くの弟子を抱え魔石の研究に勤しんでいた錬金術士インディアはこの日を境に隠遁生活を送る。
燃えていたのは彼の研究施設、多くの弟子がこの炎に巻き込まれ命を落とした。
◇
「楽勝!」
燃え尽きるボス部屋の主。
ここ数日間のスパルタ修行の効果だ。
魔法錬成のスピード、適正魔力のコントロール、全て一段上の領域に来た実感がある。
圧倒的火力で一気に焼いた!
「どうですか!師匠!」
「よしよし、よくやった」
頭を撫でられた。
えっ、ちょっと嬉しいんですけど
「これからが本番だぞ。ひきしめろ!」
終わったんじゃ無いのか……
師匠の目線が部屋奥の扉を見つめている。
そのいつにない真剣な表情に、襟を正す。
「師匠?」
「錬金術士インディアの秘密が待ってる」
扉を押しひらく。
◇
「これはなんですか???」
「予想以上だなこれは……」
ダンジョンが終わり、押し開けた扉の先には石室と同じ材質の細長い変哲も無い通路があった。問題はその先の扉を開けた部屋だった。
ここは謎多き錬金術士インディアの研究施設だった。
後の弟子が彼の偉業を称え研究し、未だ解き明かす事の出来ていない、その過程が収められた場所がここだった。
植物に侵食された研究室と思われる部屋には、経年劣化に耐えられなかった無数のガラス管が並ぶ。
無事なガラス管の中には身体を切り開かれた魔物が漂う。
魔石研究の第一人者とすれば、これは想定の範囲内。
魔石は魔物の体内に内包する。
ただ、その先にあったものは違った。
複数の魔物が癒着した姿。
人とつなぎ合わされた姿。
人と思われる部分が複数纏められた何か。
「おえっ!」
無事なガラス管は、まともな神経では直視することができない。
説明されなくても分かる。
彼の研究は狂気の域に達していたのだ。
魔石と人の関係性、彼の研究結果は壮大な人体実験の結果だったのだ。
後の世に不幸な事故の結果とされた魔石の人体への影響など、非道にさえなれば可能な実験だ。
その結果がガラス管に浮遊する。
彼の偉業の数々に秘められた、狂った過程が全てここに納められていた。
しばし、動けなかった。
頭がグチャグチャだ。
高名な錬金術士の偶像が砕けた。
ようやく冷静さを取り戻し師匠を振り返る
「見つからないという事は見せたく無い、または見せられないということ。師匠が言いたかったのはこのことだったんですね。」
振り向く僕の目には止まらない涙が。
滲む先に佇む彼女も悲しそうな目だ。
ダンジョンが発生したのはここで狂気の実験体となった多くの無念が、悔しさ、憎しみ、そういった負の感情が蓄積した結果だ。
思念までは消せなかったのだろう。
「魔石の運用はこの研究の結果ですか。こんなの発表出来る訳がない!」
「ああ、永遠に葬るしかないだろうな」
インディアは見つけてしまったのだ。魔石の可能性の先にある狂気を、研究者として踏み入れてはならぬ人の道の先にあるものに理性が働かなかった。
あの日狂気に踏み出す師を止めるべく、多くの弟子が犠牲になった。
燃え盛る館では師の狂気に切り刻まれた弟子が無念の中焼かれたのだ。
理解されない人の道を外れたインディアには、その狂気を加速させることしかできなかった。
その結果が、皮肉にも今の繁栄に繋がる。
数多く残された資料には今の豊かな生活に繋がる多くの技術が、無数の非道の上に成り立ったものであることを証明していた。
それから僕らは残りの部屋の探索、残された資料の解析に数日を要した。
◇
陽が傾く中、師匠の魔法がダンジョン諸共遺跡を焼く。
後味は悪すぎるが、これも必要な行いだろう。
永遠に葬り去ることに決めたからには最後まで責任を持たねばならない。
砂漠に崩れ落ち埋まる遺跡を見つめると、師匠がそっと語りかける。
「さぁ帰ろうか」
◇
エテルナの街に着くと、既に夜だった。
宿に向かいながら師匠が話し始める。
「魔法革命はある意味正しい結果だ。当時の魔法使いには、こうした狂気の研究が数多く存在したのも確かだからな。
魔法行使が魔術となった今の世界は正しいのかもしれない。
インディアの所業は十分それを証明するものだ。だが、だがな……」
「僕も揺らぎますよ。何が正しいのか分からなくなります。ただ、師匠は正しい。それだけは揺るぎません」
「君は師匠思いの良い弟子だな」
「ええ、それだけは負けませんから」
街を照らす街灯ひとつひとつの輝きが、今日は哀れに見える。
「魔法革命」
全ての魔法使いのあり方が変わった五百年前。
その行いは正しい。
ただ、僕らはその過程とその後に異を唱える存在だ。
「特級魔術士」は仮の姿。
魔導師と魔道士。
魔法の深淵に至る道を歩む者。
「死が二人を分かつまで」師弟と誓った、古の魔法を司る魔法使いだ。
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